第10話:変わらない秘密と、これから
―“夫婦”という絆は、誰にも見せる必要のない愛のかたち。
娘が生まれて半年。
千賀真琴と御上千聖の生活は、穏やかに、しかし着実に変化していた。
会議の合間にミルクのタイミングを思い出し、
資料作成の途中で保育園の連絡帳をチェックする。
そんな日々のなかでも――
ふたりは“夫婦”として、互いをずっと見つめていた。
***
夜、娘が眠ったあと。
リビングの灯りを落とし、真琴は静かに千聖を呼ぶ。
「……今日は、抱きしめてもいい?」
「……うん。私からも、お願いしようと思ってた」
ソファに座ったふたりは、自然と身体を重ねる。
言葉はいらなかった。
ただ、肌と肌が触れ合い、心が同じ温度になるまで――時間をかけて確かめ合う。
やがて、千聖がふと囁いた。
「ねぇ……まだ“秘密”って言い方、続ける?」
「うん。別に公表する必要はない。
会社じゃ“取締役同士”、家じゃ“夫婦”――
それで十分だろ?」
千聖は頷きながら、真琴の胸に顔をうずめた。
「私、この半年でね。あなたのこと、もっともっと好きになった」
「……俺も。毎日更新してるレベルで、君が大切になってる」
その言葉に、千聖は体を起こし、真琴の目を見つめた。
「じゃあ、証拠見せて」
「証拠……?」
「……いままでで一番、長くて、甘くて、深くて、熱いキス。
それで、全部わかるから」
真琴は笑って、ゆっくりと彼女を抱きしめ――
そして、唇を重ねた。
柔らかく、ゆっくりと。
深く、深く、どこまでも。
呼吸も、時も、溶け合うようなキス。
唇が離れたあと、ふたりは頬を寄せて微笑み合った。
「……ねえ、真琴さん」
「うん?」
「これからも、隣にいてくれる?」
「ずっと。死ぬまで。いや、たぶん……来世も」
「バカ……」
笑いながら、千聖はもう一度、彼の唇にキスをした。
***
リビングの時計が深夜を告げるころ――
小さく泣いた娘を、ふたりで見に行く。
ベビーベッドをのぞき込んで、微笑む真琴。
「……この子、君に似てるな」
「え? 私はあなたに似てきたなって思ってた」
どっちでもいい。
似ていようと、似ていなかろうと。
この命が、ふたりの“答え”であることには変わりなかった。
ふたりの秘密は、ずっと続いていく。
けれどその秘密こそが、愛の証だった。




