第7話:出産、そして――ようこそ我が子
―命が生まれる瞬間、それは“ふたり”から“家族”になる瞬間。
予定日よりも3週間早い午後。
会議中、千賀真琴のスマートフォンに「病院からの着信」が表示された。
「……陣痛がきた。今、病院に向かってます」
それだけで、空気が変わった。
すぐさま会議を抜けた真琴は、タクシーに飛び乗る。
(千聖……ひとりで、怖くなかったか?)
心配が募るなか、病院に着くと、すでに御上千聖は陣痛室に入っていた。
苦しそうな顔、額の汗、震える指。
「……真琴さん……」
「大丈夫、俺、ここにいるから。絶対に離れない」
手を握り、背中を支え、言葉をかけ続ける。
何もできないもどかしさの中で、彼はただ“寄り添う”ことを選んだ。
「大丈夫。君は強い。君は、この子の母親だ」
そして数時間後――
産声が、響いた。
「……おめでとうございます。元気な女の子です」
医師の声と同時に、真琴の視界が涙で滲んだ。
千聖はベッドの上でぐったりとしながらも、赤ちゃんを胸に抱き、微笑んでいた。
「……あなたに似てる」
「いや、どう見ても……君の目だ」
「ふふ、そっか」
真琴はその小さな額にキスを落とし、次に千聖の唇にそっと重ねた。
「ありがとう。よく頑張ったな」
「……あなたがそばにいてくれて、よかった」
ふたりの手で包み込むように赤ちゃんを見つめながら、
千聖がぽつりと呟く。
「ねえ、この子……どんな名前がいいと思う?」
「……“未来”が感じられる名前にしたい。
この子が生まれたことで、俺たちの人生は“つながって続いていく”って思えるような」
「うん……ふたりで、ゆっくり考えよう」
この瞬間、ふたりは“夫婦”から“家族”になった。
***
その夜。
赤ちゃんが眠ったあと、千聖がベッドの上で真琴の手を握った。
「……私、母親になれたのかな」
「なれてる。もう、とっくに」
「じゃあ、あなたは……?」
「世界一の、君の夫で、世界で一番この子を守れる父親になるよ」
そしてもう一度、唇を重ねた。
「ようこそ、我が子」
「ようこそ、私たちの未来へ」




