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『秘密のエグゼクティブ・ラブ』 ―千賀真琴と御上千聖の恋―  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
『秘密のエグゼクティブ・ラブ ―married life編―』
19/36

第6話:胎動と涙、やさしい夜




―この命は、報告ではなく“希望”の知らせ。


月曜の朝、役員会議の前――

御上千聖みかみちさとは、千賀真琴せんがまことの手をそっと握った。


「……本当に、言うんですか?」

「大丈夫。言うべきタイミングだと思う」

「でも、まだ初期ですし……」

「だからこそ、先に伝えておく。信頼できる人たちだけに」


ふたりは、社内でも限られた人物にだけ報告することを決めていた。

七瀬美咲会長、橘悠真社長、古賀結花常務、広瀬誠一専務、そしてふたりの直属の上司――この5人だけ。


***


会議室の奥。

円卓を囲んだ重役たちがそろい、報告の順が回ってきた。


真琴が静かに立ち上がり、言った。


「個人的なことで恐縮ですが――

私たちふたりの間に、新しい命が宿りました。

現在妊娠5週目で、安定期までは慎重に動きますが、事前にご報告させていただきます」


一瞬の沈黙。


そのあと、真っ先に立ち上がったのは――七瀬美咲だった。


「……おめでとうございます」

穏やかに、そして力強く。


続いて、橘悠真社長も柔らかく頷いた。


「報告してくれてありがとう。無理はするな。

俺も……そういう時期があったから、よくわかる」

(そう――“8回分”の経験者として。)


古賀常務も、温かな笑みで返した。


「社内初の“取締役夫婦”が、“取締役パパとママ”になるのね。

応援するわ」


広瀬専務は、静かに言葉を添えた。


「必要な体制はすべて整える。遠慮なく言ってほしい」


直属の上司もまた、「仕事のフォローは私が引き取りますから」と即答してくれた。


千聖の手が、震えていた。


(こんなに……優しい空気の中で、祝福されるなんて)


ふたりは再び席につき、そっと手をつないだまま――

そのぬくもりを確かめていた。


***


夜。

自宅のリビングで、千聖はベッドに腰掛け、ゆっくりと自分のお腹に手を添えた。


「……今日、ありがとうって言われたんだよ。

あなたが、来てくれたおかげでって」


真琴が隣に腰を下ろし、膝の上に千聖の手を重ねる。


「こっちこそ。……ありがとう」

そして、彼女の手をそっとどけて、自分の唇をお腹に当てた。


「ここに、いてくれてありがとう」


しばらく静かな時間が流れたあと、千聖が小さく息を呑んだ。


「……今、動いた気がする」

「え?」


「小さく……ほんの少しだけ。でも、確かに」


真琴の目に、涙が浮かんだ。


「……生きてるんだな。ちゃんと、ここに」


彼は千聖の肩を抱きしめ、もう一度、彼女の唇に優しくキスを重ねた。


「今日が、これまでで一番やさしい夜だな」


千聖もそっと微笑んだ。


「まだこれから、もっとやさしくなるよ。

あなたが“パパ”になる頃には――きっとね」



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