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『秘密のエグゼクティブ・ラブ』 ―千賀真琴と御上千聖の恋―  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
『秘密のエグゼクティブ・ラブ ―married life編―』
15/36

第2話:朝のキス、昼の距離



―「おはよう」のキスも、「いってらっしゃい」のキスも、君だけに。


朝7時過ぎ。

キッチンに立つ千賀真琴せんがまことは、出来上がったトーストにバターを塗りながら、振り返る。


「……まだ眠そうだな」

「うん……でも、昨日よりは緊張してないよ」

御上千聖みかみちさとは、ふわふわの部屋着のままコーヒーを片手に微笑んでいた。


前夜、ふたりは取締役に就任して初の夜を過ごした。

プレッシャーは大きかったが、いまは目の前の温もりに癒されていた。


「出社前に、キスしないと元気出ないんだけど……」

「……そう来ると思ってた」


真琴が椅子を引き寄せ、千聖の顎にそっと手を添える。


「……いってらっしゃいのキス、習慣にしよう」


そう言って唇を重ねた。

優しいだけじゃない。ふたりの関係を確かめるような、少し深い口づけ。


「……これで、がんばれそう」

「あとで帰ったら、もっとがんばらせるけどな」


「……ちょっと、真面目な顔してそういうこと言うの反則」

笑いながら、千聖はジャケットを羽織った。


***


出社後、社内の空気は以前と違っていた。


ふたりが同時に取締役に就任したことで、視線も声も増えた。

挨拶の仕方、歩く距離、会議中の目配せ――すべてに細心の注意を払う。


昼休み。

偶然同じエレベーターに乗り合わせたふたりは、一言も言葉を交わさなかった。

他の社員がいる中では、“上司と部下以上”の空気は出せない。


けれど――


ビルの一角にある小さな休憩スペース。

人の気配がないことを確認した千聖が、真琴の袖をそっと引いた。


「……たまには、名前で呼んでほしい」

「今ここで?」


「声に出さなくてもいいの。

……“目”で呼んでくれたら、それでいいから」


真琴は一瞬だけ彼女を見つめて、優しく微笑んだ。


その視線に込められたのは、確かな“愛”だった。


(ああ、この人に恋してよかった)


そう思った瞬間、千聖の頬がほんのり赤く染まった。


***


夜。

帰宅後、ふたりは何も言わずに自然とハグを交わす。

スーツのまま、唇を重ねる。


「おかえりなさい」

「ただいま、千聖。……目、足りなかったから補充してもいい?」


「ん……うん」


そのまま、キッチンの壁際で甘くて、少し長めのキスが始まる。


昼は距離を保っていた分、夜はどうしても近づきたくなる。

言葉より、唇で気持ちを交わし合う――それがふたりの“ルール”だった。



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