勝敗の行方
ミラクルとマスターは、互いの信念をぶつけ合うかのように激しく打ち合っていた。光と闇が交錯し、轟音が空気を切り裂き、二人の技が空間を歪ませていく。ミラクルは、全身全霊を込めて魔法の力を解き放ち、マスターに向かって突き進んだ。
「理想だけで未来は守れない、ミラクル！」マスターの剣が青白い閃光を放ち、ミラクルの一撃を受け止める。その瞬間、二人の力がぶつかり合い、まるで天地が揺れるような衝撃が走った。
だが、少しずつ二人の差が浮き彫りになり始める。ミラクルはマスターを圧倒し、彼の防御を切り崩していく。その姿には、まるで自然そのものが彼女に力を貸しているかのような荘厳さがあった。彼の体に次々と傷が刻まれ、膝をついた。
そしてついに、ミラクルが彼を完全に制し、杖を振り上げて最後の一撃を加えようとした。その時、彼女は僅かにためらい、彼の顔を見つめた。マスターの目には、決して折れることのない意志が宿っていた。
ミラクルは、ついにマスターを地に伏せさせていた。彼の体には戦闘の痕跡が刻まれ、彼女の勝利は決定的だった。しかし、目の前に倒れ込む彼の瞳には、敗北の色は一切なかった。彼の中には、今もなお揺るぎない信念が燃え盛っているのがわかる。
ミラクルはゆっくりと杖を掲げ、最後の一撃を放とうとした。その時、彼女の心にふと疑問が生じた。ここで彼を消し去ることが本当に自分の望みなのだろうか？だが、決意を振り切るように、彼に冷たい言葉を投げかけた。
「命乞いを……してください。」彼女の声は震えていたが、その瞳はマスターの意志を試すかのように鋭かった。
だが、マスターは少しのためらいもなく、その言葉を拒絶した。「命を乞うくらいなら、ここで死んで理想を貫く。それが私の信念だ。ミラクル、お前が私を倒すなら、それもまた未来への1つの選択だろう。」
その言葉が、まるで鋭い刃のようにミラクルの心を貫いた。目の前のマスターの姿は、もはや敵ではなく、彼女がかつて信じた仲間であり、同じように未来を想う者だった。彼の信念がどれほど揺るぎなく、強い意志で支えられていたか、今になって痛いほど理解していた。
彼女の手が震え、持っていた杖がかすかに揺れる。「私が……あなたを……」言葉を絞り出そうとするが、喉の奥が詰まるようだった。マスターの命を奪うことで手にする未来が、本当に正しいものなのか。彼女の心の中で激しい葛藤が渦巻く。
やがて、ミラクルは手をゆっくりと下ろし、杖を握る力を緩めた。杖は彼女の指から滑り落ち、大地に転がった。彼を倒しても、自分の信じる平和と自然が守られるとは限らない──それどころか、今目の前にいる彼の信念こそが、自分の心に消えない傷跡を残し、揺さぶり続けていた。
彼女はその場に膝をつき、深い息をついた。「あなたの信念が、私の心にどれほど深く残るかなんて、考えもしなかった……」
ミラクルは膝をついたまま、手のひらで顔を覆った。心の中で、自分の信念とマスターの言葉がぶつかり合い、渦を巻いていた。「未来の人類のために、今の平和を壊すという犠牲……それが本当に正しいことなの……？」
彼女の瞳には涙が滲み、視界がぼやけていく。「私は、そんな犠牲を許すことなんてできない。自然と平和が……無関係な人々の暮らしが失われていくのを、どうして納得できるの……？」
だが、マスターの揺るぎない意志が、今もなお彼女の心に重くのしかかっていた。「だけど……マスターの考えは、きっと正しいのかもしれない…それが人類の未来のためだと言うなら、私には何も言えない……」
その言葉を呟いた瞬間、ミラクルは自分の限界を感じ、耐えきれず泣き崩れた。「私には……わからないの……本当の正しさが、どこにあるのかなんて……！」
涙が次々と頬を伝い、地面に染み込んでいった。彼女の心には、決して消えることのない苦しみが刻まれた。「自分の信じてきたものが揺らぐなんて、思いもしなかった。どうして、こんなに辛い選択をしなきゃいけないの……？」
静かな夜の空気に、彼女のすすり泣きが溶け込んでいった。そして、ミラクルはゆっくりと立ち上がる。自分が本当に信じるものが何なのか、それを確かめるために──彼女は、かつて守りたかった平和な都市を、壊しに向かう道を選んだ。
