序章/火種
ファーアレイド大陸は、大陸中央から大きく4つの地方で構成される。
大陸中心部から北西に当たる肥沃な大地、イルノイ地方。
南西に広がる砂漠と丘陵地帯が大半を占める、コルノイ地方。
北東に当たる森林と山岳地帯に覆われた、ソルノア地方。
未開の地・アリファンデ小大陸が浮かび、外海と大きく接するソルノイ地方。
今回の物語の舞台は、ファーアレイド大陸・イルノイ地方が中心となる。
大陸の中央から北西に位置し、豊富な水源と、広大な平野部から成るこの肥沃な大地は、古より人々に多くの富と争いを与え、技術と欲望を育み、平和と混沌の時代を繰り返しながら発展してきた。
恐怖と富で民衆を支配した、ガスファルタ帝国による統一の時代。
民衆の為に帝国を滅ぼした聖王が君臨した、平和と安寧の時代。
聖王の跡目争いに端を発した、大戦乱の時代。
そして、帝国の崩壊より100年あまりの歳月を経て、再び1つの国家、聖王国ラトミリアへ集約される事となる。
------------------------------
聖ラトミリア共和国の樹立。
初代聖王を祖とするフィレンツェ・ラトミリアは、戦乱の中で父を殺され、辺境の地へと亡命を余儀なくされた。
その10年後、亡命先の助力を得て、かつての亡国を再建、戦乱の原因となった周辺国への復讐戦争に勝利する。
そして自らを主とする、イルノイ地方統一共和国の樹立を宣言、戦争に負けた周辺国は、偽りの自治と引き換えに共和国への参加と服従を強いられた。
聖ラトミリア共和国樹立より50年。
フィレンツェ・ラトミリアの子ウィナルド・ラトミリアの時代。
戦争を経験した人々は、次の世代へと代替わりし、民衆は偽りの自治に飼いならされていた。
建国時に行われた文化や宗教の弾圧、強制された生活の変化も、すでに馴染む時代になっていた。
しかしそれは同時に、戦争が過去のものとなり、平和な時代が到来した事をも意味していた。
------------------------------
そして平和は、またもや戦乱へと変貌を遂げていく。
発端はアルヴァス・フィリッツと言う1人の人物が、魔法とは異なる力、科学を生み出した事。
その強大で優れた技術は、魔力や人の力を労せず、魔法同等・・・いや、それ以上の力を生み出した。
聖ラトミリア共和国の樹立から50年、魔法を神の力として称える聖王教を信仰していた民衆は、初めこそこの力を、信仰に背く異端の技とし忌避してきた。
しかしこの便利な力は、徐々にその信仰をも凌駕しはじめる。
民衆は魔法に代わる新技術として、科学の力を徐々に認めるようになる。
そして、その発案者アルヴァス・フィリッツを褒め称えるようになった。
共和国の建国時、魔法の力を信仰する聖王教に改宗させ、その支配力を高めてきた共和国にとって、魔法信仰を失わせる科学の登場は、大きな問題となった。
科学の力を異端の力として、取り締まりを行っていた共和国ではあったが、一定の成果があがっている事に安心し、人々に科学の根が深く浸透しつつある事に気づいていなかった。
問題が表面化したとき、科学の力はすでに従国を含む各地へと広がりを見せていたのである。
------------------------------
危機感を募らせた、聖王ウィナルド・ラトミリアは、当時、一介の研究者に過ぎなかったアルヴァス・フィリッツを拘束し幽閉。
さらには大規模な異端狩りを行い、科学信奉者の徹底的な排除を強行する。
しかしこの行為は、目論見とは反対に、科学を信奉する民衆の結束をより固くする結果となる。
各地で挙がる非難の声に対し、徐々に対応が追いつかなくなり、ついには科学信奉者によるアルヴァスの救出を許してしまう。
そして科学を信奉する民衆は、アルヴァス・フィリッツをリーダーとした革命軍を結成。科学の自由と独立を求めた。
それからわずか3ヶ月の間に、革命軍は聖都を陥落させ、聖王ウィナルド・ラトミリアを拘束する事に成功する。
これにより、聖王ウィナルド・ラトミリアは革命軍への敗北を宣言、共和国首都の返還と自身の助命を条件に、イルノイ地方南方の3都市を革命軍に割譲し、共和国からの独立を認めた。
「科学国マイトワール」の誕生である。
そして再び平和な時代が訪れた。
だが、両国の間には火種がくすぶり続けていた。
------------------------------
そして物語は繰り返す。
科学国マイトワール建国から20年。
表面上は平和を装っていた、科学国マイトワールと聖ラトミリア共和国の両国は、その長い睨み合いの期間を終え、ついに戦争状態へと突入した。
ファーアレイド大陸全土を巻き込む戦乱「魔科学戦争」の始まりである。
------------------------------