日常の空(2)
アイナ機(メッサーシュミットBf 109K)は後方から襲ってくる敵機の攻撃を回避しながら、フィオナ機(スピットファイア Mk. XIV)の後ろにいる敵機の後方に張り付き機銃のトリガーを引く。
しかし、雨のせいで照準が定まりにくく簡単に回避される。
「今よ!早く行って。」
叫ぶアイナ
「で、でも・・」
心配するフィオナ
「大丈夫。あいつに告るまでは、死なないから。」
にこやかな声で答えるアイナ
「絶対に帰ってきてよ!」
フィオナ機は増槽を捨て、機体の重量を軽くする。
そのままフィオナ機は雲の中に消える。
「隊長、追いますか?」
「止めておけ。この天候だ、無駄なことはしない方がいい。」
「なら、こいつで楽しませてもらうか。」
3機はメッサーシュミットの後方に周り後を追う。
「フルスベルグからイーグル2、3。2機はただちに帰還せよ。」
母艦より隊長機を残して帰還するよう命令が下る。
「イーグル2、了解」「イーグル3、了解」
2機は不満そうな声で返答すると、海上に浮かぶ巨大な潜水艦らしき艦に帰還する。
「何かあったか?」
疑問に思う隊長機。
「1対1なら・・・」
1対1のドッグファイトなら勝機はあると確信したアイナは、エレベーターを引き機体の高度を上げる。
アイナは雲の中に入った瞬間に宙返りをし敵機の後ろをとろうとする。
雲を突き抜けるメッサーシュミット。
アイナの目の前には青い大きな空が広がっている。
ふと横を見るアイナ。
そこには、メッサーシュミットの真横に並んだ敵機。
「お前は、ティーチャを知っているか?」
突如通信が入り、男の声がアイナの耳に響き渡る。
「スカイ・クロラに登場する絶対に墜とせない敵。」
男は一方的に話し続ける。
「俺はティーチャーになる。だからルーキーの相手をしている暇はないんだ。」
敵機はロールし、メッサーシュミットの後ろにつく。
アイナは増槽を切り離す。
さらにストール ※失速。迎角を大きく取り過ぎる事で、翼面から空気の流れが剥離し、揚力が急激に減少すること。
機体を前転させる
アイナは敵機の後ろに付く・・・・
「えっ・・・」
そこに敵機はいない。
「悪いな、ルーキー。」
アイナは頭上を見上げる。
敵機の両翼から撃ち出される弾
アイナの眼にはフラッシュがたかれたように光が点滅し、機体のあちこちに弾が貫通する。
敵機はアイナ機のスピードに合わせるように機体の周りを回転し、360度全てに銃弾を浴びせていく。
キャノピーが赤いペンキをぶちまけた様に染まる
カウリング飛ばされエンジンはむき出しになり、主翼は分解しバラバラになっていく。
2機はそのまま雲の中に消える。
「私は卑怯者だ。親友を見捨て逃げてしまった・・・」
嵐は去り、雲の間から光が差し込む。
その中を1機、スピットファイアが飛んでいる。
無線には、状況を知らせるように何度も何度も通信が入るが、フィオナは何も返答しなかった。
ただひたすらに学校に帰ることだけを考えていたから。
アイナが先に帰還していると信じ・・・・・
滑走路に降り立った瞬間、スピットファイアの周りには多くの自動車や生徒、教官が押し寄せ私をコクピットから引きずり降し、そのまま救急車に乗せどこかに連れてい行かれる。
それから3日・・私は、あの時の状況や敵機の機種等色々なことを休む暇もなく問いただされ、精神的に限界が来ていた。
次の日、私は突如解放された。
普通ちょっと頭が回る人なら疑いを持つのもだが、私はそんなことを考える余裕もなく。
すぐに学校の寮に帰った。
戻った私は、すぐさま彼にアイナの気持ちを伝えようと思ったが・・なんて彼に伝えたらいいのか分からず1人部屋で悩んでいた。
次の日の朝、普段通りに登校した私は、1人孤立していた。
理由は分からない。いや、本当は分かっている、ただ現実を受け入れたくなかっただけで。
机には死神のマーク、椅子は無かった。
夕暮れ
海岸に少年が1人立っている。
少年は、ケルト海に沈む夕日を眺めながら花束を勢い良く投げる。
花束は数秒間宙を舞った後、オレンジ色にキラキラと輝く海に落ちる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
夜
時刻は深夜1時半と言ったところか。
なぜか眠れずにいた俺は外に出て校内の敷地を散歩して時間を潰している。
深夜の校内は当直室と廊下の非常灯の明かりのみで、とても何百人もの人間が暮らしているとは思えないほどの静けさだ。
それから数分後、俺は自分たちが訓練に使っている機体がある第六格納庫にたどりついた。
格納庫の扉は整備士が閉め忘れたのか人1人通れるくらい開いたままの状態で、中は明かり取から差し込む月明りで青白い光に包まれている。
俺は、その光に誘われたのか気付いた時には中に入り自分の機体の目の前に立っていた。そのまま俺は機体の主翼に上がり、いつも自分が座っている操縦席を眺める。
ふと、前を見ると。2機奥にある機体のキャノピーが開いていることが分かった。
「おい!誰かいるのか!?」
俺は、叫んだ。恐怖と威嚇の意味をこめて。
「誰!?」
奥の機体のキャノピーから、光の関係から黒い影にしか見えないが人の形をしたものが現れた。
影は、女だと言うことはすぐに分かった。男だと判断するには体のラインが細すぎたからと、奥の機体はフィオナの機体だと言う理由からそう判断した。
すると影はキャノピーから出て、主翼の上に立つ。と同時に、光の角度が変わり影の姿が現れる。
「やっぱりフィオナか。夜は死神の活動時間だったな。」
俺はそんなことを思ってもいなかったのに、口から言葉が出てしまった。
でもフィオナはそんな皮肉たっぷりの言葉に反論もせず、俺に言い返してくる。
「あなたこそ、こんな夜中にどうしたの?」
「俺はただの散歩だ。それ以外に理由は無い。そんなことより、貴様あの時のことは覚えているんだろうな?」
忘れはしない。あの時、フィオナが帰り際に言い放ったあの忠告を・・・
まさか、最下位が最上位に忠告してくるなんて考えもしなかったからな。
「ええ、覚えているわ。それがどうしたの?」
フィオナは平然と答えた。しかしその表情はアオイの感情を逆なでする。
「いや、まさか最下位の君に忠告を受けるとは思わなかったんでね。まぁ、それほどのことが言えると言うことは、それなりに自信があると言うことだよね?」
アオイは平然を装うため、こみ上げる感情を隠そうと神経を集中するが抑えきれない部分が顔の一部に出てしまう。
それを見たフィオナは追い撃ちをかけるように言い放つ。
「ええ、私と貴方とじゃ賭けているものが違うから。」
俺はその一言に感情を抑えられなくなった。
最下位のくせに偉そうなことを言う、彼女の言葉に。
「わかった。それじゃ2週間後、最後の訓練で行われるドッグファイトで勝負しようか。まぁ、君が勝ち上がれたらだがね。」
俺は主翼から飛び降り、月明り差し込む格納庫を後にする。
「人殺しが、調子づくなよ!」
まさか過去話がこんなに長くなろうとは・・・・
ちなみにアイナが墜とされるシーンはスカイ・クロラのユウイチとティーチャーの最後の戦闘シーンと同じ感じです。