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2章 3話 イケメンはオネェ様がお好き? ②

見た目は明らかに「草食男子」で頼りなさげを通り越し、儚げな結城。


だが、出先の作家先生たちの前で見せる顔は、凛として理路整然とし的確で、剃刀みたいに切れ味も鋭い。


颯爽としていて、しかも仕事は迅速で完璧だ。


広報部から編集部に異動して半月。

紗世は結城の失敗やミスを全く見ていない。


結城の武勇伝的なエピソードは、幾つか聞いたが失敗談は未だに聞かない。


時々、他所の出版関係者と顔を合わせる。


談笑している彼らが結城を見ると一瞬、凍りついたように強張った表情を見せる。


「嫌な奴に会ったな」的な顔で、御座なりな笑顔を向けてくる。



「結城くん、先生のご機嫌はどうだった?」と訊ねてくる者もいる。


結城は決まって「上々でしたよ」とこたえる。


結城の後は「作家がリラックスモードに入り、仕事がやりにくい」という下馬評もある。


紗世は幾度か、結城と入った喫茶店でも結城の噂を耳にしている。



「円山夏樹出版社の結城、ムカつくよな」



「ああ……原稿もらいにいくと毎回、あいつの称賛を聞かされる」



「この間、沢山江梨子の所に行ったら『あなたじゃイメージが湧かない』って散々ヒステリックに喚かれた挙げ句『結城くんに会いたい』って大泣きされて、往生したよ」



「梅川百冬の原稿もらいに行ったらな。手書き原稿だろう、あの先生」



「ああ、パソコン嫌いだな」



「口述筆記しないの? って聞かれてさ。『円山夏樹出版社の結城くんは、口述をパソコンで打ち込みして出力まで残して帰るよ』って言われたよ」



「霜田奈利子の所では、『ヴァイオリンの生演奏を聴きながら執筆したい』なんて言われてさ」



「は? でどうしたんたよ」



「『結城くんはラフマニノフを弾いてくれたわ』って」



「あいつ、ヴァイオリンも弾けるのか!?」



「ヴァイオリンもっ……他にも何か?」



「いや……桜居かほりが『不眠症だって言ったら、結城がバーテンダーばりにカクテルを作って飲ませてくれて、よく眠れた』って 」



「……あいつ。色仕掛けして作家先生と宜しくベッドを共にとかもしてるって噂だぞ」


結城は何も言わず、静かに聞いていた。


紗世が「酷い」と漏らし怒りを露にした時は、そっと手を握り「言わせておけ」と制止し、平然としていた。



「紗世、待った?」


紗世が、珈琲だけ注文し待っていると、愛里が息を弾ませ席に着いた。



「ご飯食べようよ。お腹すいちゃって」


愛里が上着を脱ぎ、畳みながら言う。



「どう? 編集部っていうか~、結城くんはどうなの?」


愛里はハイテンションだ。



「結城くんって、色んな噂あるでしょ!?」



「そうなの?」


紗世は社内の噂にはあまり興味がないし、かなり疎い。


社内の有名人だという結城のことも、つい半月前まで実際「名前」しか知らなかったくらいだ。



「紗世、結城くんって社内の女子が毎日キャーキャー騒ぎながら噂したり、行動チェックしたり、写メ交換してるような人気者で有名人なのよ」


紗世は「知らないの?」という言葉が、聞こえてきそうだと思う。



「紗世が結城くんと、ここ半月ずっと一緒に行動してるのを快く思ってない人が、すごく多いんだよ。意地悪とかされてない?」


愛里は紗世が相当心配なのか、懸命に話す。



「ん……とくに何もないよ。編集部の黒田さんも恐いけど色々、教えてくれてるし」



「結城くんはちゃんと仕事、教えてくれてる?」


愛里は紗世と話をしながら、ディナーの注文を紗世の分まで、ちゃっかり済ませ紗世にあれこれ近況を聞く。



「紗世。紗世は結城くんが上司で同じ部署だから、あまり噂は聞かないのかもしれないけど……結城くんって女の子にはすごい人気だけど、男の人たちや他所の会社からの噂……めちゃくちゃ悪いよ」


愛里は気を遣うように、声のトーンも落として話す。



「それにね。社長秘書の浅田杏子さんがね、結城くんに誕プレ渡してコクったらしいんだけど、断られたんだって、凄く冷たい言葉で……」



「結城さん、何て言ったの?」



「『自分より体重の重い女と付き合う気もないし、香水のキツイ女って嫌いだから』って、誕プレも受け取らなかったんだって」



「……結城さんが!?」


紗世は「信じられない」という気持ちを込める。



「紗世、結城くんを信用しない方がいいよ。病弱だって言ってるのも本当かどうか……」



「どうして愛里まで、そんなこと言うの?」


紗世は運ばれてきた定食を口に運ぶが、砂を噛むようで少しも味がせず、喉を通らない。



「紗世。それにね……結城くん、コクった人を全て断ってるんだって。女嫌いじゃないかって……もしかしたらね、オネェ好きかもしれないって」



「オネェ様が好きって何?」



「何か、見た人がいるんだって。オネェ様とキスしてるとこ……」



「酷い……ひどいよ」


紗世は目に涙を溜めて、絞り出すように呟く。



「そんな人じゃない……結城さんは厳しいけど……違う。少し変わってるけど、そんな人じゃない」


紗世の頬に涙が伝う。

大粒の涙がポロポロと……。



「紗世……」



「違う……わたしの知ってる結城さんは……そんな人じゃない……」


紗世の涙はいつまでも止まらなかった。


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