第29話 いいから話を聞け! ピンチなんだよこっちは!
話によるとやっぱりキシリアは二十代前半で、アザリアと二つくらいしか違わないらしい。
やっぱりキツかった。
「アザリアおねーたまが、すっごい冒険者がいるからって紹介してくれたんだお! きゃぴ! 来てくれてとっても嬉しいわい」
「わい?」
「ちげえ、間違った。嬉しいんだお! きゃぴ!!」
両手を拳にして口元に持っていき片足を上げてキシリアは言う。
そろそろ吐き気がしてきた。
「普通にしゃべれるなら普通にしゃべってくれねえか?」
「うるうる、どうしてそんなこと言うの?」
「きついから」
「あぁん!? こっちだってなあ若作り頑張っとるんじゃ! 努力を認めろよ、努力をよ!」
若作りって言っちゃったよ。
「ったくこれだから若え奴はよぉ。おっさん相手なら好評なのによぉ」
舌打ちをして、またタバコを咥えると、こっちこいとでも言うように手を振って説教台のそばまで歩いて行く。
ライラは俺の隣で怯えていたが、俺が歩き出すとゴクンと唾を飲み込んでついてきた。
キシリアはガッと椅子をひいて、大股を開いて座る。
ロングのプリーツスカートがまるで竜の翼のように開いて膝からくるぶしまで垂れ下がる。
俺たちは促されるままに向かいの長椅子に座ってまるで説教を聞くみたいだけど、当のシスターはタバコを吸って落とし、足で踏みつけて消している。
端から見たらなんの会合だこれ、と思われるだろう。
キシリアは新しいタバコに火をつけると前屈みになって膝に両腕をのせ、
「ピンチだ。助けろ。か弱い乙女の願いなんだから聞き入れろよな」
「どの面下げてか弱いとか言ってんだ、お前」
「ああん!? か弱いだろうが。キシリアたんはなあ、タバコより重え物を持ったことがねえんだよ」
なんだその言い回し。
それより、
「お前がさっきから火をつけてるそれはなんだ」
「ライター」
魔石を入れて火をつける代物で、金属製で、明らかにタバコより重い。
早速嘘つきやがった。
「ったく細けえやつだな。アザリアの姉御はおめえのこともっと大雑把だって言ってたぞ。おめえ、アタイのこと嫌いなんだろ。あ? そうなんだな?」
「嫌いっつうか、苦手」
「傷つく!」
キシリアは言ったが逆に苦手じゃない奴を探す方が難しいだろう。
「傷つけられたのでピンチを救ってもらいます。責任はとってもらいます」
「突然敬語使うな怖いから」
「じゃあどうしたらええんじゃ!」
あまりにイラついたのか、キシリアはタバコを左手にもっているのに二本目を咥えて火をつけた。
それから、キョトンとして、
「どうしてアタイは火のついたタバコを二本持ってるんだ」
「バカだからだろ」
「うるせえ。あーむしゃくしゃする」
二本同時に吸い始めた。
やけくそだった。
「ええい! いいから話を聞け! ピンチなんだよこっちは! このままじゃ冒険者も探索者もいなくなっちまう!」
お前のそのキャラクターが悪いんじゃねえのか、という言葉は飲み込んだ。
「そんなに状況悪いのかよ」
「悪い。すこぶる悪い。街を見ろ。みんなどんよりしてシケモクみてえになってるし、空は密閉した部屋でヤニ吸ったみてえに曇ってるし」
「一回タバコから離れろ、ヤニカス」
「吸ってねえとやってらんねえんだよ。それもこれもあのダンジョンのせいだ。『魔女の森』のせいだ。あそこに住んでる魔女の奴が悪いんだよ。ぶっ殺してきてくれ。頼むから」
ヤニカスが二本分の煙を吸い込んで咽せる。
タバコのひどい匂いが充満する。
ライラが髪や服に匂いがつくのを嫌って手を振って煙を払っている。
早く出たいのは俺もだよ。
「ぶっ殺してこいっていうなら情報をよこせ。あんだろマップとか罠の情報とか、どこに何があるのかとかよ」
「ない」
キシリアは言った。
「あ? 探索者使って情報集めてんだろ?」
「ああ、送った。全部で三人。腕が立つ奴をな」
「じゃあ……」
「送った探索者はな、一人として帰ってこなかった。そいつらを探しに行った冒険者もな。今までギルドの名のある冒険者が何人も向かって、アタイの知ってる冒険者が何人も向かって、結局ほっとんど帰ってきてねえ。それが、あのダンジョンなんだよ」




