表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
side-B

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/98

91.紫野夏樹-2  『変わり者の秘書』


 一点に集中しているから、ひどくいびつなのだろう。


 夏樹の愛情は過剰な独占欲を内包した、非常にやっかいな代物だった。


 過去を振り返ってみれば、今の自分を決定づけた、ターニングポイントと呼ぶべき出来事は確かに存在した。


 あの悪夢のような一週間――あの苦しい時を経て、夏樹は自分の進むべき道を決めたのだ。




   * * *




 本人はまるで自覚していないようだが、綾乃はとても可愛いらしい。


 白い滑らかな頬、繊細な顎の線、艶やかな髪――すべてがとても綺麗で。


 触れたくなる。


 問題なのは、そんなふうに考えるのが、婚約者である夏樹だけではないということだ。


 出会った当初、一点集中して彼女に向けていた意地悪を、夏樹は周囲に対して行使するようになった。


 問題を起こすと面倒なので、目立たないよう、しかし確実に成果が出るよう、周囲を操り、罠に嵌め、彼女から崇拝者を遠ざける。


 相手に下心がなく、単に綾乃と友達になりたい程度なら手加減した。


 しかし彼女をあわよくばものにしようというような、よこしまな感情を抱く相手には、一切容赦しなかった。


 夏樹はこの手のたくらみが得意であったので、大抵の障害は苦労せずに排除することができたのだ。


 しかしある日、大きな障害にぶち当たることになる。


 あれは夏樹が十一歳の時――……。




   * * *




 一週間の滞在予定で、夏樹は西大路家の別荘にお邪魔していた。


 小学校の夏休みを利用したこの交流は、やはり大人の事情が絡んでいるようだ。


 お目付け役として付いて来た、二十代後半の青年が、思わせぶりにこちらを見つめて言う。


「……台風到来」


 彼は最近父の秘書見習いになったばかりの青年だ。名前は柏野武。


 ダイニングテーブルに対面する形で着席していた柏野を見つめ返し、夏樹は瞳を細めた。


「何か問題でもあるんですか」


 先ほどの言い方からして、天候上の話題ではないのは明らかだ。


「僕が掴んだ極秘情報によると」


 彼はテーブルの上に身を乗り出し、右手を忙しなく動かしながら言った。


「君はこれから大変不愉快な思いをすることになる。間違いないよ」


 ウザイ物言いだな……冷たい瞳で一瞥してやると、柏野は口をへの字に曲げた。


「他者に対して、そんなに狭量で大丈夫なのかなぁ、この子。僕、君の行く末がすごく心配」


「心配してくれなくていいから、とっとと話してくれませんか」


 げんなりする。


 ところが、柏野から答えをもらう前に、綾乃がランニングから戻って来た。


 白と紺のトレーニングウェアを着て、髪は高い位置でひとつに括っている。


 血色が良くなったせいか、頬が薔薇色に上気していた。


 綾乃はダイニングテーブルまで律儀に近づいて来て、いつもどおりの優しい声で言った。


「戻りました」


「どのくらい走ったの?」


 気になって尋ねると、彼女がはにかんだように答えてくれる。


「ええと、十キロくらい……です。気分転換に」


 気分転換で十キロも走るのか。すごいな。


「珍しく息が上がっているね」


「途中から本気を出してしまいました。ちょっと汗をかいてしまったので、シャワーを浴びて、着替えてきますね」


 汗をかいたことが恥ずかしいのか、後ずさりながらモジモジとそう言って、小走りに去ってしまう。


 その仕草は妙に可愛らしかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ