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82.深草楓-2  『ジョーカー』


 女が腕組みをして続ける。


「見て、あんたの天使ちゃん、とりあえず救出されたでしょ。怪我をしているから、これから保健室に行くはず。で――考えてみて? あんたが乗り込んで行って――まず、門のところで警備員に足止めくらうわね――そこで『身内です』って名乗って許可取って、保健室に駆けつけて――で、それが何? その行為が何か役に立つの? それよりも私の話を聞くべきじゃない? ていうか私も忙しいの。この面倒でまどろっこしいやり取り、これ以上グダグダ続ける気なら、私はもう二度とあんたにアドバイスしないけど」


 尻上がりにどんどんキレていってる。


 スタートから若干キレ気味であったけれど、最後のほうなんて口調は叩きつけるようだし、目つきはこれ以上ないってほど冷ややかで、マジギレしているらしいと分かる。


 あれ、でも……この目つき……?


 記憶の底のほうがザワリと刺激された。


 なんだろう、何かが気になる。


 会ったことはないはずだけど……でも眼鏡をしているから、惑わされているのかも?


 そんなことを考えていると、彼女が尋ねてきた。


「飴と鞭――選ばせてあげるわ。どちらがいい?」


 考えごとをしていて上の空だった楓は、ほとんど意味を考えることなく、「飴」と答えていた。


 鞭よりは飴のほうがマシだと、咄嗟に判断したのだろう。条件反射みたいなものだ。


 それを聞いた彼女ははぁ、と軽く息を吐き、視線を強めてこちらを見据える。


「分かった。じゃあ、先に『飴』をあげるから、今後は私に忠誠を誓い、できる限り協力して」


「どういうことかな」


「天使ちゃんの件は、私が解決してあげるってこと」


 あっさり彼女が言ってのけるので、楓は眉を顰めた。


 今は冗談に付き合ってやれる心境ではない。


 不機嫌さを増した楓に対し、彼女が少し態度を和らげて続ける。


「さっきの場面見て、何か違和感を覚えなかった?」


 違和感? 何がだ。


「ただただ衝撃だったよ」


「あの男子は天使ちゃんを突き飛ばして、勝ち誇っていた。けれど途中で背の高い女の子が来たら、すぐに逃げ出したでしょう?」


 確かにそうだ。


「彼らはどういう関係なのだろう?」


「どう思う?」


「さぁ……あの背の高い女の子が、先生に密告しそうなタイプとか?」


「違う。密告しそうな女子に目撃されたら、『チクるなよ』ってすぐに脅しそうなものじゃない? 見るからに偉そうで、計算高そうなあのクソガキがそれをせず、尻尾をまいて逃げた」


「なぜなんだ?」


「答えはこう――家柄で劣るから。あの背の高い女の子、財界の大物である永松氏のお孫さんなのよ」


 ……なるほど、それは誰であっても逆らえない。


 女が冷めたような口調で続ける。


「ねえ、分かる? あの悪ガキは、無分別な乱暴者に見えるけれど、実際はまるで違う。すべて計算して、天使ちゃんになら乱暴しても問題ないと判断して、楽しんでいるの。あれはおそらく『好きな子をいじめる』というたぐいの行動だけど、私は放置するのは危険だと思うわ。あのクソガキは粗暴すぎるし、最近の行動には、性的な衝動が見え始めている気がするの。――さっき、天使ちゃんの『胸』を突いたでしょ? キモイよね。あのガキは世間を舐め切っているから、これからどんどんエスカレートしていくかも」


 ゾッとした。


 自分も荒れていた時期があるだけに、彼女の言っていることがよく理解できる。


 嗜虐趣味のある少年が、昏い欲望を持て余して、暴走を始めている。そのうちに妹の服を脱がせたりするかもしれない。やるほうは、さしたる罪悪感もなく。


 子供同士であったとしても、相手の心に壊滅的なダメージを与えることは可能なのだ。


「……君はどうやってこの問題を解決するっていうんだ」


 楓の声は掠れていた。……当家だって、一応家柄は名家の部類に入る。


 けれど妹をいじめているあのガキがうちより上位だというのなら、それこそ久我家レベルでないと太刀打ちできない。


 奏に頼めば助けてくれると思うが、楓がそれをしたくなかった。


 奏は友達だ。だからそういうことで利用したくない。


 ――ではほかに何かツテがあるのか? 考えてみても、その答えは「あるわけがない」だ。


 久我家レベルの名家? そんなの。


 トランプでいうなら、『ジョーカー』みたいなものなのだから。


 女が言う。


「あのガキは相手の家柄で判断して、自分の取るべき行動を決めている。それならば、圧力が有効に効くってことよ」


 それは分かっている。だけど問題は具体的にどうするか、なんだよ。


「しかしあの子供は圧力を『かける側』の人間なんだろう? 僕の家より上位だというなら、かなりの名家だ」


「あら、私がそれに負けるとでも? 手強い相手なら望むところよ。私は三度の飯より、この手のゲームが好きなの。――あのクソガキが私を怒らせて、無事に済むかどうか、あなたは黙って見物していればいい」


 彼女は自身たっぷりで揺るぎなかった。


 かなり野蛮なことを口にしているのに、ただひたすら冷徹。


 この女はおそらく、やるとなったら容赦しないだろう。



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