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8.攻略対象2・久我ヒカル


 どういう訳か綾乃は今、久我ヒカルと向かい合って立っている。


 彼はふたり目の攻略対象者だ。綾乃と同じ中等部の二年。


 久我ヒカルのルートはかなり異色である。


 ヒロインが彼を選ぶと、巻添えで人が死ぬからだ。


 一体、誰が死ぬのか?


 それがなんと、綾乃の婚約者である夏樹が死んでしまうらしい。


 最悪すぎる……。


 できれば関わり合いになりたくないけれど、ヒカルとヒロインが結ばれるのだけは全力で阻止する必要があるので、我関せずではいられないのがつらいところ。


 それにヒカルは、「綾乃の顔が気に入っているんだ」と言って、以前から何かとちょっかいをかけてくる。


 とはいえ彼の言動にはいつも真剣味がない。口説いている感はゼロで、猫がじゃれついてくるような感じなのだ。


 だから綾乃のほうも毎度適当にあしらっていたのだけれど……。




   * * *




 予言の書によると、ヒカルは厳格な一族の中でひとりだけ浮いており、深い孤独を抱えていた。


 家族から否定され続けて育った彼は、住吉忍に出会い、安らぎを覚える。


 ふたりがいい感じになりかけた頃……ヒロインはひょんなことから、ヒカルの祖父が不正をはたらいていることに気づいてしまう。


 ヒロインはそれをヒカルに報告。


 そしてヒカルは夏樹に相談――……


 ……ええと、ちょっと待ってほしい。


 どうしてここで夏樹に相談するのですか。敵対する家の子息に相談しますかね、普通? 傍迷惑なこと、この上ないですわ。


 でもヒカルってそういう人間なのよね。自由人というか。


 彼は綾乃の顔を気に入ってちょっかいをかけてくるのだけれど、それは夏樹に対しても同様なのである。


 とにかく彼は、綾乃と夏樹の顔が好きすぎるらしい。


 美は正義――とは彼の口癖で、絡むたびに夏樹から冷たい視線を向けられているというのに、ちっともめげない。


 シナリオに話を戻すと、ヒカルの祖父は口封じのため、夏樹を殺す。


 友達を殺されたことで、祖父に立ち向かうことを決めたヒカル。


 その後はヒロインと手に手を取り、スリリングな戦いに身を投じていく――。


 ヒロインがヒカルに関心を持ったばかりに、夏樹はまさかのとばっちり。


 このルートは力ずくで潰さないといけない。


 昔から言うじゃない? 口はわざわいかどって。


 ヒカルとヒロインにはそれを教育してやらねば、と綾乃は考えている。家の問題を解決するのは勝手だけれど、機密事項をベラベラ他人に相談するのはだめですよ。


 そんな迂闊なヒカルに、


「今夜の『プレ・パーティー』、エスコートさせてよ」


 と誘われている、この不可解な状況。


 さて、どうしたものかしら。


 綾乃は腰に手を当て、考えを巡らせた。




   * * *




 中性的な美貌というのは、まさに久我ヒカルのためにある表現ではないかしら。


 癖のあるふわふわした髪に、美しい顎のライン。宝石のような瞳の輝き。


 なんというか、青い空、白い鳥、ゴールドの鐘が似合いそうな、天使のような美貌である。


 そういえば、彼の兄である久我奏は、ゾクリとするような色気を漂わせていて、まるで堕天使ルシファーみたいだった。性格も悪魔みたいだったし。


 タイプが真逆の兄弟なんて面白いですわ。


 どちらがより多くの女性人気を獲得しているのか、今度、校内アンケートを取ってみたいものね、などと思考がつい脱線してしまう。


 綾乃が黙っていると、ヒカルはこれ幸いとばかりに、にこにこしながらこちら見つめてくる。


 はっ……いけない……彼は私の顔が大好きなのだった。ただでご褒美をあげてしまっていたわ。


 そんな義理もないので、綾乃はコホンと咳払いしてから尋ねた。


「どうして私を誘うのですか?」


「それは、顔が好きだから」


 やはりそれが理由なのね……。なんだかため息が出る。


 ヒカルが悪戯に口角を上げ、続けた。


「君の婚約者が、今夜は欠席するって情報を入手したんだ」


「情報通ですのね」


「一週間後の『ポスト・パーティー』、実は僕が幹事なんだよね。だから『プレ・パーティー』の情報も色々入ってくるわけ」


 ……仮面舞踏会を仕切るのは、あなたでしたか!


 これで謎が解けた。


 ぶっ飛んだヒカルが幹事だから、今年はあんなにおかしな趣向なのね。


 とはいえ、パーティーの企画は際どければ際どいほど、生徒からの熱狂的な支持を得られる。こういう場面で力を示しておくと、人を多く集められるという証明にもなるから、馬鹿にできないのよね。


 ヒカルはヘラヘラしているように見えて、案外策士なのかもしれない。


 さて、どうしたものか……。一応、釘を刺しておこうかしら。


「ですけど私たち、親が敵同士ですわよ。あまり関わらないほうがよろしいのでは?」


「親世代の遺恨は、次世代には持ち越さない主義なんだ」


 いっけん立派なことを言っているみたいだけど、動機は単に、私の顔が好みだから近くで見ていたい、ですよね?


 うーん……。


 関わるのは面倒だけれど、やはりヒロインがヒカルルートに乗るのは、断固阻止せねば。


 そうなると対象をよく知る必要があるし……これは偵察には良い機会かもしれないわ。


 どうせ今夜のパーティーには出るつもりでしたので。


「では、あなたにエスコート役をお願いします」


「そうこなくちゃね。――ねえ、どんなドレスを着てくるか教えて? ポケットチーフやタイを合わせたいから」


 あら、だったら……。


 考えを巡らせ、綾乃は優美に微笑んでみせた。


「深い臙脂えんじ色のドレスにします」


 今、そう決めた。なぜなら、これがもっともヒカルに似合わない色だと思ったから。


 ――お手並み拝見です。


 ヒカルは綾乃の顔を見て、天使のような笑みを浮かべた。


「ねえ知っている? 君って、意地悪をたくらんでいる時の顔が、一番綺麗なんだよ」


「あら、そうですの? でしたら私、あなたの前だと、ずっと綺麗なままでいられそうですわ」


 ふたりは顔を見合わせて、上品に笑い合った。



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