表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
side-B

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/98

75.久我奏-6  『少女とメイド』


 計画を立てた。


 ――まず、特別な鍵を手に入れる必要がある。


 サンルームは四階にあるのだけれど、エレベーターは四階に止まらない。四階に行くには、エレベーターに乗ったあと、パネルに鍵を挿して蓋を開く。そうすると『四階』のボタンが出てくる。


 パネルを開く鍵はマネージャーが持っている。けれどマネージャーからそれを手に入れるのは無理そうだ。今日彼はシンポジウム関連でVIPの応対に追われているだろうし、隙がない。


 ――そこで奏が狙いをつけたのは、四階の掃除を担当しているメイドだ。


 大切な鍵なので、メイド全員が持っているわけじゃない。選ばれたひとりだけが持っているんだ。


 頼んでも絶対に貸してもらえないから、彼女に知られないようこっそり借りて、終わったらこっそり返す必要がある。


 だけどそのメイドは強敵なんだ。彼女は奏の――というか、楓の天敵なのである。


 彼女はお客さんに対しては感じが良いのだけれど、関係者にはなんでもはっきりとものを言う人だった。まぶたは重たげで、顔がとても細くて、怒りっぽい。鶏に少し感じが似ている。


 奏と楓はすっかり目をつけられていて、あのメイドに近づくのはかなり難しそうだった。


 ……チャンスを窺わなくては。


 奏と、勝手についてきた楓は、距離をじゅうぶんに取りながら、メイドのあとをつけ回すことになった。




   * * *




 今、奏たちは八階にいる。


 この階にはカフェがあり、カフェの前はロビーみたいな休憩スペースになっていた。


 衝立や柱、植物などがあちこちにあって、ちょうどいい目隠しになるので、奏と楓はメイドにかなり近づくことができた。


 背もたれの高いソファに膝を乗り上げ、反対向きに座り、こっそりと背後を覗く。


 あのメイドはどういう訳か、ガラス窓を磨いている。


 客室のベッドとかを整えるのが仕事だと思っていたのだけれど、彼女は先ほどからあっちこっちを移動して、ゴミを拾ったり、手すりを拭いたりと忙しそうだ。


 ……全然、隙がないぞ。


 汚れている場所がないかと、あちこちキョロキョロ確認するものだから、いつ振り向くか分からない。


 あれじゃこっそり後ろから近づいて鍵を盗るなんて、絶対無理だ……暗い気持ちになってきた。


「おい、奏、見たことない女の子が近寄って行くぞ」


 隣にいる楓がこちらの腕をグイと引く。


 ……なんだ、あの子?


 若草色のワンピースを着た同い年くらいの女の子が、メイドのもとに歩み寄る。女の子はメイドのすぐ横に立ち、ガラスを拭く作業を眺めている。


 こちらからは後姿しか見えないが、肩の下まで伸びた綺麗な髪や、ぴんと背筋の伸びた立ち姿は、とてもきれいだと思った。


 ガラスを拭いていたメイドが、チラリと横目で女の子のほうを見た。


「なぁに、お嬢ちゃん――そうやって見ていて、面白いの?」


「ええ」


 女の子が元気に答える。弾むような声音だけれど、うるさいほど甲高いわけでもない。


「私ね、あなたのこと、ずっとつけていたのよ。気づいていた?」


「あら、そう? おばちゃん、全然気がつかなかった」


 メイドは作業を続けつつも、視線をサッと巡らせた。


 奏たちはメイドに見られないよう、慌てて首を引っ込めた。そして数秒待ってから、こっそりとまた首を伸ばして、ソファの背からふたたび覗く。


 女の子が無邪気に続けた。


「だってあなた、お掃除がとっても上手なんだもの。すごいなと思ったの。私ね、あなたほど上手にお掃除ができる人、見たことないわ。あなたみたいな一流の人を、プロっていうんでしょ?」


 女の子が得意げに言う。


 奏はメイドが怒り出すんじゃないかと心配した。だってあの人は、生意気な子供が嫌いなはずだから。


 けれどメイドは横目で女の子を眺め、ニヤリと笑った。陰気くさいはずの顔が、なんだか不思議と格好良くみえた。


「あら、嬉しい! おばちゃん、そんなふうに褒めてもらったの、初めてかも。ありがとね」


 目尻に皴を寄せて、白い歯を見せて笑っている。


 あの人、あんな素敵な顔をするんだ……奏は驚いていた。


「ねえ、あなた、うちの会社で働かない?」


 誘われたメイドが「はは」と笑ってから答える。


「おませさんねぇ。私のことを引き抜くつもり? でもねー、おばちゃん、このホテルが好きだから、やめられないのよ」


「そうなの……じゃあ仕方ないわね」


「でも嬉しいわ。どうもね」


「いいえ、お話できて楽しかった」


 女の子がはにかんだように体を左右に揺らしたので、顔がやっと見えた。


 もっと生意気そうな顔をしているのかと思ったけれど、素直そうな顔つきの子だ。


 黙っていれば、引っ込み思案で大人しそうに見えるかもしれない。たとえば、絵を描くのとピアノが趣味、みたいな感じ。


 優しい瞳の色をしていて、それが陽光を反射してキラキラと輝いている。


 嫌味な癖がなくて、ずっと見ていたいたいと思うような顔だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ