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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
side-B

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62.仮面舞踏会【side-B】 ・ 後編


 化粧室の鏡台に、住吉忍がセッティングしていったタブレットが置かれている。


 そのタブレットには会場の光景が映し出されていた。


 人混みのあいだを縫うように進み、画面がブレるので臨場感がある――これは住吉忍視点の隠しカメラ映像だ。忍が襟元に着けているブローチに、レンズが仕込んである。


 桜子は元町悠生のスマートフォンを操作しながら、ちょこちょこタブレットの映像を確認していた。




   * * *




 会場に入った住吉忍は、すぐに夏樹を発見した。


 ヒカルが足止めして、なんだかんだと夏樹にちょっかいをかけているようだが、それもそろそろ限界かしら……?


 ああ、やはり……夏樹がヒカルを振りきって、歩き出す。


 忍はウェイターに声をかけ、チップと共に『薄青の封筒』を渡した。それをどうするか手早く指示を与える。


 ウェイターは指示されたとおりに紫野夏樹の元へ向かい、盆の上に置かれた『薄青の封筒』を彼に向かって差し出した。


 夏樹が意表を突かれたように足を止める。


 封筒を手に取り、その中身をあらため、すぐにウェイターに何か尋ねている。それに応えるように、ウェイターがこちらを振り返った。


 ――「あちらのご令嬢からです」――そう答えているのだろう。


 忍はきびずを返した。


 反転する直前、視界の端のほうに、こちらを射貫くように見つめる夏樹が映った。


 すぐに追ってくるだろう。


 けれど人混みに紛れるのは、こちらの得意技だ。


 忍のほうはだいぶ余裕があった。移動しながら周囲の状況を素早く把握する。


 左側に目を向けた瞬間、綾乃が会場内を移動しているのに気づいた。


 ――なんとまあ、絶妙なタイミング!


 互いの位置関係からして、夏樹は綾乃の動向にまだ気づいていない。


 忍はこれからすべきこと――そしてすでに終えたことを頭の中で整理する。


 元々、今夜のミッションはふたつあった。


 ひとつ目は、元町悠生のスマートフォンを、指紋認証解除した状態で奪うこと。これはすでにクリア。


 ふたつ目は、紫野夏樹に『薄青の封筒』を渡して、挑発すること。これは半分クリア。まだ直接対面が実現していないので、『完遂』とはいえない。


 そして余興としてつけ加えられた三つ目は、紫野夏樹に、綾乃と住吉忍を間違えさせるというもの。


 上手くいくかどうかは分からない。


 まあ、上手くいかなくても構わないのだ。繰り返すが、これはただの余興――計画上は『薄青の封筒』に関するミッションのほうが、ずっと重要なのである。


 先ほど夏樹に渡したあの封筒に入れたのは、いつもの脅迫状ではない。


 中身は、当夜限りの趣向を凝らしたものになっている。


 三つ目の計画は段階を踏んで進めた。


 まず初めに、今夜の住吉忍の後姿を、インスタントカメラで撮影し、プリントした。


 そしてその写真にメモを添える。


『今後はメッセンジャー役として、住吉忍を雇いました。会場内で彼女を探し、話をしてください。探しやすいよう、彼女の写真(後姿)を同封します』


 今夜のドレスは、住吉忍と綾乃、どちらも非常に良く似たデザインだ。


 髪型も、綾乃がミディアムボブのウィッグを着けているため、後ろから見たら、ふたりともほぼ同じ。


 夏樹は今、冷静な判断力を失っている。――長いあいだ自分を脅迫してきた正体不明の『X』が、住吉忍というメッセンジャー役を用意して、何か仕かけてきたのだ。頭に血が上って当然だ。


 普段の夏樹なら、絶対に綾乃の姿を見間違わないだろう。しかし冷静さを欠いた状態で、会場の薄暗さ、人混みの中という悪条件が重なれば、普段できていることができなくなる。


 忍は綾乃が歩いて来る方角に向かうフリをしたあとで、大柄な男の陰に入り込み、サッと身をかがめて、百八十度方向転換した。


 そのまま中腰の姿勢を保って進み、出入口まで辿り着く。


 マイクはONになったままだ。忍は確認を取った。


「どう?」


 会場にいる藤森七美が応答する。


『今、夏樹が綾乃の腕を後ろから掴んだ――ちょっと揉めているみたい。だけどあたしの位置だと、ふたりが何を話しているかまでは聞き取れない』


 それを聞き、忍は小さく頷いた。


 詳細は不明だが、今聞いた話だと、どうやら成功したようだ。――夏樹は綾乃の後ろ姿を見て、住吉忍だと勘違いして声をかけたのだろう。それで綾乃が怒って、揉めている?


 ――さて、それでは、トドメを刺しに行くとしますか。


 本日のメインイベント。


 忍はふたたび会場に舞い戻り、夏樹のところまで歩いて行った。……あらあら、綾乃ちゃんと修羅場のようですねぇ……。


 だけど待ったなしよ。彼の腕を引き、告げる。


「ちょっと来て、大事な話があるの」


「今は遠慮してくれないか」


 夏樹が苛立っているのが分かった。


 何を言われても、手は離してあげないよ。


 さらに夏樹との距離を縮め、耳元で囁いてやる。


「これからする話は、彼女に聞かせないほうがいいと思うんだけど」


 夏樹はおそらく、どうせ『例のネタだろう』と高を括っているはずだ。――『薄青の封筒』絡みで使っている定番の脅迫ネタは、公になれば即破滅のキツイ内容ではあるけれど、夏樹にとっては長期間それで脅されているから、すでに耐性ができている。


 でもね。


 これから使うネタは、いつものやつとは違うんだなー。


 忍は瞳をすがめた。


 逃がさない――視線で脅しをかけたあとで、とっておきの爆弾を落としてやる。


「ねえ、あなた――どうして刑務所で、綾乃ちゃんを誘拐した犯人とコソコソ会っているの?」



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