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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
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60.薄青の封筒


 予言の書計画とは別に、桜子はずっと紫野夏樹を脅迫していた。


 時折彼に脅迫状が入った『薄青の封筒』を送りつけ、なぶり、さいなみ、嫌がらせを続けた。送り主は匿名で、『Xより』とした。


 彼は逆らえない――逆らったら即破滅の秘密を、『X』に握られているからだ。


 彼は脅迫者『X』の正体を知らない。


 その正体が西大路桜子であると悟られないよう、様々な工夫をしてきたので、絶対に勘づいていないはずだ。


 桜子は夏樹が大嫌いだった――軽い気持ちで綾乃を奪っていくあの男が。


 綾乃のことを愛していないのに、あの子をどうとでも好きにできるあいつ。


 桜子はたぶん、妹への愛が深すぎたのだ。綾乃だけがすべてだったから。


 あの子を誘拐犯から護る方法を、ずっと模索し続けてきた。


 ――毎朝、毎朝、絶望する――……抜けられない。苦しい。


 だけど毎朝、毎朝、綾乃の顔を見ると安心する――まだ大丈夫。この子は生きている。大丈夫。


 綾乃が愛する夏樹――彼があの子を護ってくれるなら、桜子が負った荷を半分分けて、共に戦ってもいいかと考えたこともある。


 そこで桜子はこの一年間、夏樹をテストしてきた。仲間に加える資格があるかどうかを。


 ――結果、彼は不合格となった。


 何を失おうが、何を犠牲にしようが、彼は綾乃を優先すべきだった。その姿勢を試験官である桜子に見せるべきだった。


 彼は綾乃には相応しくない。だから徹底的に潰す。


 では、具体的にどうするか?


 そう――この辺りで、思い切った手を打つ必要がある。


 ここで紫野夏樹に住吉忍をぶつける。


 そろそろ夏樹には、忍と積極的に関わってもらわなければならない。


 そうしないと綾乃に渡している予言の書と、現実が乖離してしまう。『このところ、予言の書が外し続けている?』と綾乃に疑念を抱かせないためにも、現実のほうを予言の書に近づける。あそこに記したとおり、ヒロインVS悪役令嬢の図式を成立させなくては。


 これからは様々なイベントを乱発し、ヒロインの住吉忍は攻略対象者四名と順繰りに交流を深めていく予定だ。


 ヒロインの邪魔をする悪役令嬢・西大路綾乃という図式を作ることで、結果的に綾乃と攻略対象者たちの関わりも増える。


 独占欲の強い夏樹からすると、これはとっておきの拷問になるだろう。


 できることなら一年ほどかけて、じっくりと学園の行事を絡め、恋のさやあてを楽しみたいところだ。


 綾乃にはもっと視野を広げてほしい。


 そしてすべてのシナリオを終えた時――あの子は予言の書がないと生きていけなくなっているはずだ。時間をかけて、洗脳を完璧に行う。


 今夜はそのための第一歩だった。


 薄青の封筒と関連づけて忍を登場させる今夜のイベントは、勘が鋭い夏樹に対して仕かけるのは、かなりのリスクを孕んでいた。しかし熟考した末、特に問題はないと結論づけた。


 桜子と忍は裏で手を組んでいるが、大っぴらには親しくしていないし、これから先は一緒にいる場面を他人に見られないようにすれば、ふたりが繋がっていることは気づかれまい。


 幸い忍はアルバイトを何個もかけもちしていたから、脅迫者『X』に金で雇われて夏樹に接触したということで、何も不自然ではない。


 そして桜子は長いあいだ毒にも薬にもならない気弱な人間を演じてきたので、この意気地のない地味な女が、忍に指示を出しているとは思うまい。


 忍と夏樹が親密に関わり始めれば、綾乃は深く傷つくだろう。


 これまでは夏樹に冷たくされても、ほかに女の陰がないので、本気で焦ってはいなかったはず。


 それが幻想であったと、今夜はっきり気づかせる。


 あの子が泣くのは分かっていたが、仕方ない。


 傷はやがて癒える。


 これは綾乃のためになるのだと、この時の桜子は信じて疑わなかった。




   * * *




 さて、今夜の仮面舞踏会では、大きなミッションをふたつ設けてある。


 桜子は綾乃のドレスアップを手伝ううちに、追加のアイディアを思いついた。


 三つ目として、余興を加えてみようか……?


 これが成功すれば、忍の登場シーンは劇的なものになる。


 タイミングが命なので、三つ目に関しては『上手くいけば、儲けもの』くらいに考えておこう。


 忍の衣装は事前に把握していたので、それと似たデザインの、ワンショルダーの黒いドレスを選ぶ。


 綾乃の髪形に合わせて、あとで忍の髪を似せればいいかと思っていたら、幸いなことに、妹がウィッグをつけると言い出した。


 これでかなり楽になった。


 夏樹が上手く引っかかるといいのだが……桜子は笑みを浮かべた。



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