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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
side-B

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57.花園秀行-3  『本気で下僕にするつもりなんですか?』


「――あなたが元町悠生から押しつけられている雑用と、私が抱えている用事を、交換しましょう」


 西大路桜子はせっかちというか、自分本位というか、肝心な部分を省略する悪い癖があるようだ。


 何を言っているのか、まるで理解できない。


「あの、具体的にお願いします」


「だからね――あなたが元町悠生から押しつけられている雑用って、女子へのプレゼントを入手するとか、デートのセッティングとか、セレブの知識や人脈が必要な用件が多いでしょう? それを得意な私がやってあげるという話」


「なるほど……」


 とりあえず、口先だけで返答する。


 初対面なのにここまで親切にされると、逆に気持ちが悪い。


 桜子はフンと鼻を鳴らす。


「ああ、もう、元町悠生のために何かするの、嫌だわー。でもあなたのためよ? あなたのために、私は我慢してそれをするんだから、感謝して」


「え……?」


 やだ、怖い……どんどん話が進んでいく……。


「でね、私がそれをしてあげるから、あなたは私の手助けをする――OK? 具体的に言うと、英語の予習やって。テキストの余白にちょいちょいと和訳と注意点を書いてくれればいいから。ネットで調べるとさー、結局それを理解して、メモるようじゃん? それすら面倒。プリントアウトして持ち込むと、先生に怒られるし」


「あの、それって……あなたのためにならないのでは? 勉強は自分のためにするものだと思いますが」


「あのねえ、私は忙しいんだよ。十代のうちに、やるべきことが山ほどあるの。二十歳すぎまで生きているか分からないんだから、英語とかどうでもいいよ」


 少しヒヤっとした。……二十歳すぎまで生きているか分からないって、冗談というか、大袈裟に言っているだけだよね?


 そして英語が苦手というのが、かなり意外だった。


「変なことを訊くようですが、西大路家ともなればグローバルなお付き合いが多いのでは? 英語を喋る機会がなかったんですか?」


「あなたは知らないでしょうけど、私は引きこもりの『だめ令嬢』なのよ――皆言ってるし、私自身もそう思う。社交がだめすぎて、英語どころか、日本語の喋り方も時々忘れそうになるしね」


 彼女の口から飛び出した『だめ令嬢』という強烈な言葉に驚く。


「僕は西大路先輩と話していて、『だめ令嬢』なんてまったく思いませんが」


 初めはつっけんどんで驚いたけれど、少し話してみたら、次に何が飛び出してくるか分からなくて、楽しい人だと感じた。


 別に、常識的で、模範的な人間じゃなくてもいいと思う。この面白い人が、自分のことを『だめ令嬢』なんて言うのを聞いたら、生きづらさを感じているのかな、と悲しくなってしまう。うるさく言う人なんてほんの一部なんだから、ほうっておけばいい。


 ――「だめ令嬢だなんてまったく思いませんが」という言葉が嬉しかったのか、桜子の頬が緩んだ。そのあとで慌てて澄まし顔に戻ろうとするのだが、口元がにやけて失敗している。


 彼女はごほん、と咳払いし、


「と、とにかく、交換条件だからね――私の言うことを聞きなさいよ。あなただって助かるでしょう? セレブ関連の雑用なんて、知識とコネがないと処理できないんだからさ」


「それはまぁ……」


「それにあなた、妹に約束したそうじゃない――私の下僕になるって。妹も私も、花園くんに期待しているからね」


「えっ、本気で下僕にするつもりなんですか?」


「妹も私も本気」


 西大路姉妹ってすごいな、ぶっ飛んでる……いや、別にいいんだけどさ。


「私は最近あまり寝れていないし、かなり切羽詰まっているの。助けてよ。花園くんなら助けてくれると思ったんだ……下僕になる、ならないは関係なくね」


 彼女の繊細な瞳が揺れて、こちらを見つめる。


 艶っぽい雰囲気ではなく、迷子になって困り果てている、小さな女の子みたいだと思った。


 ……それで手のひらを差し出していた。


「分かりました、テキストを貸してください」



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