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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
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56.花園秀行-2  『初対面での適切な距離感とは』


 教育棟裏の北門付近という、絶妙に不便な場所に駆けつけると、仁王立ちの西大路桜子に出迎えられた。


「――遅い」


 紺色の野球帽を目深にかぶっている彼女の顔は、逆光のせいもあり、よく見えない。


「すみません」


 反射的にそう口にすると、


「すみません? それ、本当に悪いと思って言っている?」


 なんだか面倒な絡まれ方をした。


「……いえ、別に申し訳ないとは思っていないです」


 こちらに非はないしな……。


「じゃあなんで謝るわけ?」


「意味はあまりないです。『Hello』に近いニュアンスですかね」


 正直に答えると、彼女が『ん?』というように顎を持ち上げた。すると野球帽のツバで隠れていた顔が見えた――驚いた、とんでもない美少女だ。


 顔立ちのバランスはやはり姉妹でよく似ている。けれど瞳がまるで違う――綾乃のほうは貴族的な雰囲気があるが、桜子のほうは繊細な感じがした。


 とはいえ喋り方は結構アレな感じだけれど……。


「なるほど『Hello』か」桜子が呟きを漏らした。「すごくよく理解できたわ」


「あの、西大路先輩……?」


 彼女は野球帽をかぶり直しながら、ブツブツぼやき出す。


「ああ、まいった……メンタル崩壊……苛々して八つ当たりしちゃった。寝不足だし、考えがまとまらないし、私はだめ人間だな……だめ人間……でも君が私を助けてくれるかも。どうしようか発狂しそうになっていた時、君のことが思い浮かんだわけよ。あなたってこういう時に、ちょうどいい存在じゃん? 言ってること、分かる?」


 ……いや、全然分からない。


「あの、念のため確認ですが、僕ら初対面ですよね?」


 すごくフランクにグイグイけど、もしかして前に会ったことありましたっけ?


 西大路桜子は複雑な形に眉を顰め、混乱したように視線を彷徨わせてから、やっとこちらに向き直った。


「……そうだね、初対面だよね。私、何か間違ったみたい」


「ですよね。距離感が変だなと思って」


 よかった、正気に戻ってくれて。


「それで、どうして僕のことをご存知なんですか?」


「そんなことより、すぐに本題に入りたいんだけど」


 楽をしようとするので、『それはだめです』と首を横に振ってみせた。


「ちゃんと話してください。そこを省かれると、話を聞く気になりません」


「案外押しが強いわね……ただの従順爽やか少年じゃなかった」


 なんなんだ、従順爽やか少年って。――何を要求されても従順に従う少年がいるとしたら、そいつの性根は本当に爽やかなのか?


 彼女は腰に手を当て、深いため息を吐く。


「よし、分かった、説明するわ。ちょっと長くなりそうだから座りましょうか。あなたを気遣っているわけじゃなくて、私が疲れているの」


 ふたりは木製のベンチに並んで腰を下ろした。背もたれのないタイプで、詰めれば四人くらいは座れそうな長椅子だ。


 すぐ近くの芝生の上には彼女のものらしき鞄が放り捨ててあり、その上に眼鏡とヘアゴムが載っていた。


 ……普段は眼鏡をしているのだろうか? 眼鏡も似合いそうだけど。


「あの、どうでもいいんですが、どうしてキャップをかぶっているんですか?」


 なんとなく気になって尋ねると、彼女は野球帽のツバをいじりながら答える。


「裏庭に来るときは、これをかぶることにしているの。ひとりの時はなるべく眼鏡を外して、髪も解きたいんだけど、通りかかった人にそれを見られたら嫌じゃない? これをかぶっていると、顔を隠せるからさぁ」


「普段は眼鏡をかけて、髪を結んでいるんですか?」


「そうよ。ちなみにね――この帽子は売店で手に入れた。どうして売店に野球部の帽子が売っているんだろう? 部員しかかぶらないんだから、部内だけで配ればいいじゃんね? でもそのやり口がちょっと面白いなと思って、ひとつ買ってみたのよね」


「はあ、さようで」


「……分かっている、私、喋りすぎだよね。これは寝てないせい。あと花園くんが喋りやすいせい」


 寝てないのか……テンションも変だし、大丈夫かな? なんだか心配になってきた。


「あの、それで、西大路先輩はどうして僕のことをご存知なので?」


「君さ、元町悠生を知っているでしょ?」


「あ、はい。ゼミの在籍権を譲ってくれる約束でして」


 それと引き換えに、元町悠生にこき使われている。


 桜子が瞳をすがめ、なんともいえない顔でこちらを眺めた。一拍置き、口を開く。


「私は元町悠生と敵対しているんだ。だから敵の関係者ということで、君のことも調べた」


「……僕は別に、彼と仲良しってわけじゃありません」


 そこは勘違いされたくなかった。


「知っているわ。正確に知っている――私はたぶん君自身より、君の運命を知っている」


 台詞自体はどこかうさんくさかった。


 それなのに彼女から言われると、不思議なほどに説得力があった。



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