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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
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50.深草楓が潤んだ瞳で見てくる件


 ある夜のこと。綾乃が桜子の部屋にやって来て、


「お姉様は明日の調理実習で、マフィンを作りますよね?」


 と切り出した時に、なんとなく嫌な予感はしたのだ。


 桜子は長年にわたり周囲の空気を読みまくって生きてきたために、面倒事が起こりそうな気配を事前になんとなく察知できるという、便利な第六感を手に入れていた。


 その便利な能力が『気をつけろ、何かある!』としきりに警報を鳴らしている。


 その真偽のほどは、数分とたたずして、


「明日はとびきり美味しいマフィンを焼いて、それを深草楓様にプレゼントするのですわ!」


 という妹のとんちんかんな提案が披露された時点ではっきりした。


 何これ……想定していたレベルより、遥かにひどいんですが。


 しかも。


「深草様にマフィンをお渡しする時は、今みたいに眼鏡を外して、髪はほどいてくださいね」


 という正気を疑うような指示つきで、さらには、


「調理実習は、午前中最後の授業でしたわよね。私、お昼休みになった瞬間、中等部をダッシュで抜け出して、高等部に向かいます。お姉様がマフィンをお渡しする場面を、遠くから見守りますので」


 という鬼畜のような駄目押しをしてくる始末。


 綾乃……。


 そりゃあ、ほかならぬ可愛い妹の提案だもの――可能ならば、叶えてあげたいですよ。


 けれどね、人にはできることとできないことがあるのよ。


 どうしてそんな苦労を――しかもよりによって深草楓相手にせねばならないのか。


 半ベソ状態からようやく脱した桜子は回避計画を立てた。


 プランは次のとおりだ。


   * * *


 一、綾乃に対しては、表向き従順でいる。


 二、綾乃の願望どおり、プレゼント受け渡しの際は、ノー眼鏡・ノー三つ編みで臨む。


 三、マフィンを渡し損ねるような、突発的なアクシデントを演出。


 四、アクシデントに驚いたふりをし、マフィンをさりげなくその場に投げ捨て、速やかに撤退。


   * * *


 桜子はこれを『お姉ちゃん頑張ってみたけど、上手くいかなかったわ……ということで無理をするとこじれちゃうから、今後は無理に楓とくっつけようとしないでね』作戦と名づけた。


 完璧だわ。


 この作戦には住吉忍に協力してもらおう。彼女は演技が上手いから、これでもう九割方上手くいったも同然である。


 あとは……そうか、当事者である深草楓にもプランを話しておくかぁ……。ちょっと気が進まないけれど。


 楓もなぁ……ヘタレのくせに、直接絡むと案外面倒なところあるんだよなぁ……。


 やっぱり楓に全部ぶっちゃけるのはなしで、桜子が得意とする『上から圧をかける』感じでいこう。


 あいつはヘタレだから、


「私の言うとおりにしなさいよ。あなたは私に対して、『はい』とだけ言っていればいいのよ、でないと潰すから」


 と脅せばなんとかなる。


 なんとかなるどころか……きつめに圧をかけると、頬を上気させて、潤んだ瞳で見てくる時があるのよね。


 たぶん無意識だと思うんだけど、あれはなんなのだろう? あいつ大丈夫なのかしら?


 よくあんな感じで、今まで無事に生きてこれたわよねと、桜子は楓を見るたびに思ってしまう。


 しかもあれで女の子に人気あるとか、すごく不思議……。


 実は桜子は住吉忍と同じで、成藍学園には高等部から入学した。だから深草楓のことを詳しく知ったのは、ここ最近のことなのである。


 桜子は中等部まで、ミッション系の女子校に通っていたのだ。


 あの女子校の教育方針が桜子は嫌いではなかった。正直なところ、大学卒業まであそこにいたいくらいだった。


 先の憂いさえなかったら。


 予言の書計画のため、高等部からは成藍学園に入ることに決めた。


 綾乃の近くで成否を見守りたい。父は桜子に甘いので、進路変更自体は問題にならなかった。


 ちなみに生え抜きの成藍生ではないのに、桜子がこの学園の人間関係に精通しているのには理由がある。


 それは桜子がだいぶ前からパーティーに潜入して、セレブの調査をしていたからだ。


 そんなわけで成藍には上手く溶け込むことに成功したのだが、どうしても克服できない苦手なことがふたつほどあった。


 ――運動と、料理だ。


 これはもう壊滅的にセンスがない。


 妹の綾乃は、豪華絢爛な悪役令嬢ビジュアルなのに、なんでもこなせるのよね。


 料理も上手。


 喧嘩も強い。


 美人で。


 性格も良い。


 綾乃を見ていると、二次元世界から飛び出してきた、完全無欠の美少女みたいだなと思う。


 ちなみに桜子は時々、心の中で妹を『綾乃たん』と呼んでいる。



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