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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
side-B

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48.俺に考えがある


 桜子は気を取り直し、ベッド上に放り出してあったハンドバッグを手に取った。


 謎の女が置いていったものだ。中から財布を取り出し、手早く中をあらためる。


 免許証かカード類があれば、正体が分かるだろう。


 幸いすぐに免許証が見つかった。


嵯峨野京子さがの きょうこって……もしかして嵯峨野重利の奥さん?」


 奏が隣にやって来て、免許証を覗き込む。


「ふーん、あいつやるな」


 と訳の分からないことを呟いて、ニヤリと笑った。


 小悪魔みたいな笑みだなと思う。


「どういう意味?」


 眉根を寄せながら尋ねると、奏の瞳がこちらを覗き込んだ。


 情感豊かな虹彩がきらりと輝いて、上等な宝石みたいだと思った。


「女が電話で『悠生』って呼びかけていただろう。つまり『元町悠生』はボスの妻を寝取ったわけだ」


 衝撃を覚える。確かに……嵯峨野京子は「悠生」と呼びかけていた気がする。


 では、これは千載一遇のチャンスではないか?


「ツーショットを押えたいわ」


「しかしこれから部屋ここに元町悠生が来たとして……ふたりを同じフレームに収めるのは難しいんじゃないか? 部屋を出る時だって、別々だろうしな」


 奏は難しい顔になる。確かにそのとおりだった。


「そうね、部屋自体は嵯峨野京子の夫、嵯峨野重利名義で予約してあるし……案外賢いやり口だわ」


「妻が夫名義の部屋に泊まったって、なんの不思議もないからな。元町悠生がキーを受け取っているが、ボスの奥さんに鍵を渡して、挨拶しただけだと説明すれば、誰も疑わない」


 偽名で泊まって中学生と密会するより、これならなんとでもごまかせる。


 しかも今夜はプレ・パーティーが開催されているから、このホテルに元町悠生がいるのは、誰が見ても不自然ではない。


「だけど……これが表沙汰になれば嵯峨野京子は逮捕されるわ。馬鹿なのかしら?」


 このやり口なら露呈するリスクが低いというだけの話で、絶対に安全なわけじゃない。いい年をした大人が中学生をつまみ食いして、どうなるか分からないのだろうか。


 不倫がどうこういっているレベルの話ではない。淫行条例違反、金銭が絡んでいれば児童買春――欲望に負けてそんなことするなんて獣みたいだ。


「馬鹿なんだろうな」


 奏はそう斬って捨てるが……どうも桜子ほどは衝撃を受けていなそうな感じだ。


 なんとなくこの男も、大人な女性とそういう関係を持った過去がありそうだものね。


 ああ嫌だ。こういう爛れた男女、全員死ねばいいのに。


 内心毒づいていると、奏が嫌そうな顔でこちらを見てくる。


「……また何かろくでもないことを考えているだろ」


「別に。……ああ、あんまり近寄らないでくれる? 奔放な貞操観念がこっちに移ると嫌だから」


「お前な、その態度を改めないなら、今度本気で泣かすからな」


 何その宣言。馬鹿じゃないの?


「ありえない。ていうか二度と関わりたくないから、学園で話しかけないでね」


「おい、さっきランチの約束をしただろ?」


「じゃあ食事だけして解散しましょう。会話はなし。ずっとなし。一生なし」


「つまりお前は、会話以外のことを俺としたいわけだな」


 奏は瞳をすがめ、いたぶるような視線をこちらに注いでくる。なぜか背筋がぞくりとしたけれど、桜子は負けるもんですかと、ツンと顎をそらしてそれを無視してやった。


 そのまま数秒が経過し、少し冷静さを取り戻した桜子は、チラリと奏のほうに視線を戻す。


「ねえ……私たちこんなことしてる場合じゃないでしょ。嵯峨野京子が浴室から出て来ちゃうわ」


「で、どうする気だ?」


 あっさり空気を変えて淡々と問う奏が、ずいぶん余裕みたいで面白くないが……まあいい。


 桜子は考えを巡らせながら答えた。


「廊下で張って、写真を撮るのは無理だと思うの。あなたが言ったとおり、ことが終わったら、ふたりは時間をずらして部屋を出るはずだもの。だとしたら……一か八か、この部屋に留まって、密会写真を撮るのはどうかと思って」


 クローゼットに潜むとか、ソファの裏に隠れるとか……場所はこれから考える。


 かなりハイリスクだが、この機会は絶対に逃せない。深草楓の父の会社は今にも乗っ取られそうだし、悠長に構えている時間などなかった。


 しかし奏はその意見に反対する。


「絶対に相手に見つかる」


「だけど――」


「結局、何も掴めずに、お前の正体だけばれるのが関の山だ。元町悠生は危険だぞ」


「分かってる! でもほかに方法がないじゃない」


「俺に考えがある。――この直線上に、別のホテルがあるだろう」


 言われて窓の外を眺めると、あいだになんの障害物もなく、別の高層建物が建っているのが見えた。


 曲線と直線を上手く組み合わせた美しい建築物である。あのホテルは久我系列でもなく紫野系列でもなく、確か外資系だったと思う。


 奏が続けた。


「ここと同じ階にスイートがあるから、そこからこの部屋を望遠で狙えないか」


「部屋は空いているの?」


「空いていなくても、空けさせる」


 どうやって? と思ったけれど、この男はやるとなったら、なんでもやるだろう。


 奏がいざという時ためらわない性格なのは分かっている。


 そして彼がこうして具体的な案を口に出したのだから、急な場面でもスイートを押さえられる、特別なコネを有しているのだろう。


 桜子は小さく頷いていた。


「じゃあ、部屋の手配はお願い」



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