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婚約者に愛されない悪役令嬢が予言の書を手に入れたら  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
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14.深草楓の敵対者


 ここ最近ずっと、元町悠生もとまち ゆうきという男子生徒の動向が気になっている。


 ――予言の書によると。


 深草楓ルートは、『彼の父親が没落するのを防ぐ』というのがメインテーマになっている。ヒロインが上手く対応しないと、彼の父親の会社が買収されてしまう。買収を画策しているのが、嵯峨野重利さがの しげとしという実業家だ。


 その嵯峨野重利の手先が、ここ成藍学園中等部に通う、元町悠生という男子生徒なのである。


 元町悠生は中等部三年生なので、綾乃の一学年上にあたる。


 その実業家がなぜ中学生と懇意にしているかというと、元町悠生を情報屋として使っているからだ。


 良家の子息・子女の弱みを掴むには、目端の利く同年代の人間から情報を得るのが、一番手っ取り早い。


 その役目に、元町悠生はまさにうってつけである。……ではなぜ彼が適任なのか?


 それは彼が品行方正な生徒ではないから。


 生徒が羽目を外したい時は、まず彼にコンタクトを取る。無茶なお願いでも柔軟に叶えてくれるので、一部のやんちゃな生徒には人気があるらしい。


 それにしても……と綾乃は眉根を寄せる。


 あんな怪しい相手に頼みごとをする生徒は、どういうつもりなのだろう。その人たちはこれっぽっちも想像していないのでしょうね――この場限りの秘めごとのつもりが、後々もずっと自分の人生に付きまとい、暗い影を落とすかもしれないことを。


 今がよければいい。とりあえず楽しければいい。


 慎重な綾乃からすると、あまりに軽率だと感じる。


 とはいえ。


 清く正しく生きてきたのに、悪役令嬢として忌み嫌われ、現状私は破滅寸前の大ピンチなわけで……そうなると、慎重さってあまり意味がないのかしら? 結局は本人の運次第、ってこと?


 やっていられないわ……。


 ついむくれてしまいそうになるけれど、自分を憐れんでいても何も始まりませんものね。少しでも事態が好転するように、打てる手は打っておきましょう。


 ――ということで、元町悠生の秘密を探ることにしたのです。


 授業が終わるとすぐに荷物をまとめて、日傘を掴んで教室を飛び出す。


 ちなみにこの日傘は夏樹にプレゼントされたものだ。出会った日に「壊れるたびに、新しい日傘をプレゼントする」と約束してくれたのだが、壊れていなくても定期的にプレゼントしてくれる。


 それがまた、その時の気分にピタリとマッチしたデザインなのよね……。


 たとえば、『最近はパステルが好き』と思っていたら、ポップでキュートなものを贈ってくれたり、『今はしっとりした大人っぽいものが好き』と思っていたら、蝶の柄の大人可愛いデザインのものを贈ってくれたり。


 最新のプレゼントは、シックな黒に、白いフリルがついた、ゴシックロリータふうの日傘だ。なんとなくこれを持っていると、気が引き締まるというか、勇気が出る。


 ――三年の教室が並んでいるフロアに着いたところで、廊下の先を歩く元町悠生を発見した。小柄で真面目そうな女子生徒を伴っている。


 ふたりが角を曲がるのを見て、足早にそれを追った。


 あの先は北側の階段室だ。非常用の役割でついているので、人がほとんど通らない。


 角まで来てそっと奥の様子を窺うと、半階上がった階段の踊り場で、ふたりが言い争っているのが見えた。


 ……言い争っているといっても、女子生徒のほうが一方的になじっているのかしら?


「元町君、いい加減にしてよ! 私の弟を顎でこき使っているみたいだけど、そういうの、やめてくれないかしら」


 ミス・クラス委員という称号を贈りたくなるような、優等生然とした話し方だ。


 この感じだと、元町悠生とは水と油なんじゃないかしら。属性が正反対のカップルも存在するけれど、このふたりに限っては、反発がロマンスに発展する気配はなさそう。


 元町悠生は目の前にいる女子生徒のことを、石ころ程度にしか思っていない……そんな感じがする。


 彼は身だしなみがきちんとしていて、一見すると、いかにもな『悪』という感じはしない。しかしそれはあくまでもパッと見の話だ。


 服を着崩していなくても、表情を穏やかそうに取り繕っていても、膿んだような気配は隠しきれていない。


 目を見れば分かる。あれは危険な男だ。


 彼には少し繊細な雰囲気もあって、そこがまた性質たちが悪いのかも。ただの暴力的なお馬鹿さんだったら、彼は今の地位を築けていない。


 甘い顔立ちに、トロリとしたあの個性的な瞳――あれで何人の女の子を騙してきたのか。想像するだけでゾッとする。


 ミス・クラス委員があの男を相手にして、一体どれだけやれるか、だけれど……。


「じゃあ弟の代わりに、姉のあんたが俺の相手をしてくれるのか」


 元町悠生は薄く笑むと、想定外の行動に出た。いきなり彼女を壁に押しつけ、キスをしたのだ。


 これを見た綾乃は難しい顔で額を押さえた。


 ……困りましたわね。


 選択肢はふたつだ。


 A.放っておく


 B.介入する


 さて、どうしましょう? ミス・クラス委員を助ける義理はない。


 とはいえ、見てしまったわけだし……。


 間の悪さを呪うしかない。


 綾乃はため息をひとつ吐いてから、足を前に踏み出した。



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