11.攻略対象3・深草楓
――なぜ『プレ・パーティー』に着飾った姉が現れたのか?
ものすごく不思議だったので、その後本人に尋ねてみた。
すると、
「お父様に呼び出されて、急遽出かけることになったから、着替えたの。父との待ち合わせまで少し時間があったので、せっかくお洒落したんだし、パーティー会場に立ち寄ってみようかと思って」
との答えが返ってきた。
時折、姉は父から呼び出されて外出しているようなのだけど、蚊帳の外に置かれている妹の心情を配慮してか、なるべくその事実を伏せるようにしているみたい。
綾乃だけが除け者にされている表向きの理由は、『まだ中学生だから』ということになっている。けれど本当の理由は別にあって、それは綾乃にもよく分かっていた。
……お姉様の立場からすると、つらいでしょうね。
もしもこれが逆で、自分が贔屓されている側だったら、どう振舞っていいか分からないもの。
とにかくそんなわけで、パーティ会場にふらりとやって来たお姉様。
会場となったホテルには顔が利くので、こっそり裏口から入れてもらったらしい。するとバックヤードで揉めている、綾乃と夏樹に出くわして――
そして、あの登場シーンに繋がる。
いやはや、ものすごく格好良かったですわ、お姉様。
* * *
ピンチを救ってくださった姉には、ぜひ恩返しをせねば。
姉の桜子は、深草楓という男子生徒が好きらしい。――深草楓というのは、姉が階段から落ちた際に、一緒に踊り場にいた人だ。そして攻略対象者の三人目でもある。
綾乃は予言の書を引っ張り出し、もう一度、深草楓に関する情報を精査することにした。
この深草楓ルートには、なんとも腹立たしいことが書かれている。綾乃は予言の書を壁に投げつけたくなった。
というのも、ここで姉に関する記述が出てくるのだが、その内容がひどすぎるのだ。
* * *
根暗で美しくない西大路桜子は、深草楓を好きになり、しつこく付きまとっていた。
それを快く思わない楓の取り巻きが、ある日、桜子に食ってかる。
争っているうちに階段から突き落とされ、大怪我を負う桜子。
その場に居合わせた深草楓は、責任を取り、桜子と婚約することに。
一方、ケータリング会社でアルバイトを始めた、ヒロインの住吉忍。――社のキッチンでまかない料理を作ったところ、それが見事な出来栄えで、雇い主の女性社長と親密になる。
この女性社長が、楓の母親だ。
深草家は数年前に両親が離婚しており、その際に楓は父と同居することを選択した。
母は旧姓である菊浜を名乗っているので、ヒロインは初め、社長が深草楓の母であると知らなかった。
菊浜社長が自宅でパーティーを開くことになり、ヒロインは手伝いに呼ばれる。
このパーティーに顔を出した楓は、母の手伝いをしているアルバイトの子が、クラスメイトの住吉忍であると気づく。
西大路桜子とは正反対の、美しく、明るく、料理上手なヒロインに惹かれていく楓――。
さて、若いおふたりが恋を育んでいるあいだに、楓の父は泥沼に嵌まりつつあった。
会社を狙う、とある実業家が現れ、ビジネスに暗雲が立ち込めて……。
一方のヒロインはケータリングのバイトをしているため、夜な夜な開かれる社交的な集いに裏方として参加し、この時に見聞きした断片的な情報を組み合わせて、実業家の不正を掴む。
掴んだ情報を上手く使って、楓パパの会社を救うヒロイン。
この過程で、ヒロインと深草楓は多くの試練を乗越え、絆を深めていく。
楓は桜子との婚約を破棄し、ヒロインと結ばれてエンド。
もう……ヒロイン、また救っちゃうわけですね。なんていうか、諜報員ばりの能力ですよね?
悪役令嬢の私と扱いが違いすぎないかしら……疲れを覚え、綾乃は遠い目になる。
――とにかく重要なのは、ヒロインが深草家を破滅から救うということ。
深草楓は姉の想い人なので、彼の家族が没落するのは防がなければならない。
だからヒロインには諜報活動でぜひ頑張っていただこう。
そしてそれとは別に、深草楓とお姉様がくっつくように、作戦を考える必要がある。
ヒロインに深草楓を取られた場合、姉は失意のあまり失踪してしまうから、それは絶対に避けなくては。
深草楓の心をがっちりキャッチする作戦は、綾乃のほうで用意している。
抜かりはございません。
名づけて、『お姉様改造計画』。
元はいいのだから、軽い改良でいけるはずだ。
ポイントは三点。
――美しく着飾る。
――明るく振る舞う。
――料理の腕を磨く。
深草楓はその三点でヒロインを好きになったと、予言の書に記されていた。ということは、姉が彼の理想どおりの存在になれば、何も問題はない。
それから、気になる情報がひとつ。
深草楓には十歳になる妹がいて、母親に引き取られたため現在離れて暮らしている。
彼は妹を溺愛しており、なんでも「天使」と呼んでいるのだとか。
重度のシスコンですわね。
あとで使えるかもしれないから、この情報も頭のどこかに留めておきましょう。
* * *
それで、問題は。
綾乃から見ると姉は素晴らしい人なのだが、ちょっとした可愛らしい欠点もあるにはあって。
それは料理センスが皆無であるということ。
深草楓の母は食のプロ。ヒロインに目を留めたきっかけも、やはり料理だった。
楓もまた料理に関してはプロ並みの腕を持ち、母のことを心から尊敬しているのよね。
それならなぜ両親が離婚した時に、母に付いていかなかったのか。
それは彼なりの気遣いで、妹が母と同居したがるのは分かっていたので、これで自分も母を選んでしまうと、父が寂しがるだろうと考えたみたい。
優しすぎて、いつも自分のことは後回しにしてしまう人なのだろう。
そういう話を聞いてしまうと、深草楓のことを応援したくなる。そして姉と結ばれるといいのにと思う。
人が誰かを好きになるのに、料理が上手いかどうかなんて、本当はどうでもいいのかもしれない。
けれどやはり、何事もきっかけは重要だ。
だから姉にはぜひ料理の腕を磨いてもらいたい。




