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35おっさんは切腹を覚悟する

俺はお嬢様を救出するために大広場の噴水に飛び込んで、途中で大きめのトカゲの魔物を瞬殺して王宮の庭の井戸に抜け出た。


その後のことは良く覚えていないが、お嬢様の悲鳴が聞こえたので、一直線に走り、ドアを蹴り飛ばして部屋に入ると、下着しか身につけていないお嬢様に男が赤いポーションを飲ませていた。


「なあ、おっさん。ほんとに治療のためだけに私の唇を奪ったのか?」


「意外とおじさま、アリスちゃんの魅力に負けたのかもね。下着姿だったんだよね」


「いや、俺はお嬢様の治療のため、やむを得ないとはいえ、お嬢様の唇に直接口移しで大量の水を送り込んだんでさ。決してこれっぽっちもやましいことはないでやす」


「その割に冷や汗がたくさん出てるよ。おじさま……やっぱり確信犯?」


あれから3日経過して、お嬢様と聖女ちゃんが俺を馬車で迎えに来た。


呼び出された場所は王宮の謁見の広間だ。


理由はわかっている。


一国の王女の下着姿を見た上、治療のためとはいえ、接吻をなん度もしてしまった。


良く考えたら、水を胃の中に送り込むのに、接吻しなくてもよかったような気がする。


————————きっと————死罪だ。


罪状は不敬罪、王女侮辱罪、それに強制わいせつ淫行罪にちげえねえ。


お嬢様は王女様の上、まだ17歳だ。


おっさんの俺が接吻などしたら、当然そうなるだろう。


「へい、わかっておりやす。王女侮辱不敬強制わいせつ淫行罪で、即刻死刑でやすね。わかっておりやす」


「……なあおっさん、私は今、事態の収拾で忙しいんだぞ。訳の分かんない馬鹿げた妄想を呟き続けるのはやめてくんないかな?」


これから弁護士もつけずに違法の即決裁判で死刑を言い渡される俺にお嬢様は冷たい言葉を投げつける。


唇を穢されたとはいえ、同じ牛丼を食った仲だ。


もうちょっと優しくして欲しい。


そして、王城の謁見の間で、大勢の貴族、騎士、官吏に盛大に出迎えられて、俺は一番前の列で、王様の前で膝をついていた。


できれば、一番最後の列にして欲しい、マジで。


「さて。ワシが何故おっさんをここに呼んだかは、当然分かっておるな?」


「もちろんでやす。お嬢様の唇を穢した罪で特別法廷で即決裁判、即時、刑の執行──」


「おっさん、何を言っておるのだ。王女の唇を奪ったのは、治療のためじゃろ?」


「へい。言い訳になりやすが、お嬢様に接吻しなくては胃の洗浄はできなかったでやす」


「うむ、そう言えば、魔薬を一口飲んだだけで、そんなに何度も何度も接吻する必要があったのか?」


「い、いえ。お嬢様の柔らかい唇に接吻していたら、気がついたら止まらねぇ……あ……」


「ほう、おっさんは王女の唇の柔らかい感触につられて何度も接吻してしまった……のだな?」


「ウッ!」


ああ、終わりだ。


せめて情状酌量で、痛みのない斬首刑に減刑してもらおうとしたが、罪状が増えた。


「わかりやした。俺も覚悟はできておりやす。お嬢様を穢した罪。俺自身も許せやせん。切腹させて頂きやす」


そう言うと、俺は服の前を開け、予め左前に着た白い衣装を露わにして、アイテムボックスから三方を取り出し、柄に和紙を巻いた短刀を取り出した。


「だからおっさんは何を言っておるのかな? 王女とワシを救ってくれた礼を言いたいのじゃ」


「……へ……へぇえ?」


王の前で間抜けな返事をしてしまった。


だって、王様が訳のわからないことを言い出したんだもん。


王様が「こいつやっぱり分かってないな」という風な、やれやれと言う感じで説明してくれた。


「お前がクーデター首謀者の宰相を肉片に変えて、王宮を制圧してくれたおかげで、ワシは実権を奪還。娘のアリスを救ってくれたおかげで、騎士団を掌握。王子二人は国王暗殺未遂と自由同盟を呼び招いた罪で死罪」


「それだけではない。西方の自由同盟との戦線はおっさんの考えた作戦で半数を楽々撃破。残りは娘のミアが全部肉片に変えよったわ」


忘れてたけど、教皇様だ。


「ミアちゃん。自動殺戮人形という字名を戴いたみたいだぞ」


「……そんな物騒な字名はいらないんだけどね」


聖女ちゃんが自動殺戮人形? いたいけな聖女ちゃんが一体何故そんなことになったんだ?


そういえば、お嬢様も殺戮という名に愛された天使と言われていたような気がする。


二人共いたいけなか弱い少女だと言うのに、一体、どんな風におひれがついたのだろう?


「お、俺はお嬢様の警護を仰せつかっておりやす。当然のことをしただけでごぜえやす。それにお嬢様の唇を奪った罪は、万死にあたりやす」


「ほう、お前は娘のアリスの唇にそれ程価値が……いや、それ程アリスが魅力的だと思っておるのか?」


「そ、そりゃ、俺にとっては眩しく映る存在でさ。絶対守らなきゃならねぇって気持ちにさせて頂いておりやす」


「お、おっさん。私のことをそんな風に? 私は嬉しいぞ!」


いや、お、俺、気持ち悪いこと言っちゃたよな?


17歳のお嬢様に気持ちがあるみたいなこと言ったら、気持ち悪いおっさんだよな?


「……お、お嬢様は俺にとって、実の娘のような存在でさ」


慌てていい繕った。


「む、娘……やっぱり私は小娘としか思われてない? うわぁあああああああん」


お嬢様は突然その場から何処かへ走り出して行ってしまった。


「おじさま。……女心が全然わからないんだね」


え? いや、何のこと?


「まあ、良い。今回の褒美として、断絶していたローエングラム家を継いでもらい、公爵に叙勲する。我が国のため、これからも頼むぞ。————アリスと結婚するにも、公爵家当主なら良い縁談だとは思わぬか?」


「え? は? こうしゃく? 縁談?」


「それと、我が教国からは聖戦士の地位を贈る。娘のミアに見合った地位だとは思わぬか?」


え? 何のこと? 何の話?


俺は勝手に色々決められて、頭がぐるぐるするして来た。


俺、切腹する筈だったんだよな?

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