王子と真実。
――、残念ながらわたくしは、胸が豊かな方ではありません。そして貴方は豊かなお胸が大好き。小さい頃からずっと! ですわね。栴檀は双葉より芳し。
でも、貴方は知らない。そしてわたくしは知ってます。
「な。何を?」
書籍に話しかける……。
――、その女の胸、寄せてあげているって事に。これは彼女に仕える侍女から聞き出した事です。背中、脇肉、上下左右、寄せ集めて
定位置にぎゅぅぅっと! 寄せて上げて。
コルセットですもの、なんとでもなりますわ。そして出来上がった盛り上がり部分に、軽く金粉を混ぜ込んだ香油を塗って、肌が艶めかしく見えるように、頑張っていらっしゃっていた事に。
「うひゃぁぁぁ!」
王子は何故か裏切られた感満載。
結婚式を済ます迄は、清らかにいたいの。真実の愛を捧げた相手の言葉が耳に蘇る。王子はその言葉に感銘を受け、二人の仲は清らかなる関係だった。
「ふぐ、そ、それってつまりは、その。え? 女性の胸って、そんな風に作るの? い、いや、嘘だ! 嘘なのだ! そう、告白本といえども話を盛ってるに違いない!」
急ぎの仕事だ。一字一句、間違えてはいけない。そう振り切り、折れそうな心を鼓舞、全集中で請け負った仕事を進める。
カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ……。
単語1つが銅貨1枚、単語1つが銅貨1枚、単語1つが銅貨1枚、塵も積もれば山となる、金貨目指して書きまくる……。
カリカリ、カリカリ、カリ……。再び手が止まる。目が文字に釘付けとなる。
――、わたくしは、こうしてあらぬ罪を捏造され、悪役令嬢と婚約者から烙印を押されましたの。よろしいでしょう、その通り名、甘んじて承りましてよ。
そしてパーティーが終わったその夜、直ぐに国を出ました。縁ある隣国へと向かい、今これを書いております。かつて一緒にお茶を嗜んだ仲間の皆が、その後どうなったかを手紙で知らせてくださいました。
ピンクブロンドの女、上手く逃げ出して、小金持ちの後妻にまんまとおさまったそうですの。ああ! 誰かこの事を、塔に住まわれておられる、アンポンタンな殿下にお伝え下さらないかしら。
悪役令嬢ですもの。そして今は『鬼婦人』と呼ばれるわたくし。殿下が、しょげた。その報せが届けば、
オーホホホホ! と扇子を開いて高笑いを致しますわ!
【終】
「ふえん。くあ! な、ええ? パティ、パティ、修道院は? うわぁぁん! 胸、寄せて上げ? 莫迦莫迦莫迦、バカァァ!」