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巨木の樹海にまつわる野菜② 古き偉大なる蕪《グレートオールド・ターニップ》

SS グレートオールド-ワン

    **** 魔獣童話の世界から



 あるとき、あるところ(ファンタジーな大陸)に、《 猛者の中の猛者 》といわれるウィラーイン伯爵がおさめる城塞都市・ローグシーがありました。


 魔獣の巣窟に近くて、住んでいる人たちはみんな元気な猛者。


 商店街のおっちゃんは街を夜襲したウェアウルフを石畳のシミにして。花屋の看板娘は、危うくなると護身用の大槌を、ブン、します。


 あるとき、そんなローグシーへ、なんだかんだあって父と兄に謀反した少年王子が、王都から追放されてきました。

 名をアプラースといいます。次男坊で十代半ばで、ふつうの田舎なら世間のうわさの的ですね。



 ある朝、追放王子はいつものように早起きして、お仕事をはじめました。

 かれは領主館の敷地内の館(宿舎)の管理人さんです。すんでいるのは、魔の森の奥から来た、見目麗しい魔獣娘たちでした。



 …… いっていることがわからない? 魔獣娘ってなに?

 

 いい質問ですね。



 モンスターでクリーチャーな娘たちに関して、全100話くらいの物語があり。なんやかんやで、今、ウィラーイン伯爵家でのんびりしています。

(例外1名、多忙)


 彼女たちは人目をさけて隠れ住んでいました。領都では公然の裏事情ですけどね。

 知らんふりする市民も、なぜか、ちょいちょい、領主館の敷地の中で大きな建物の屋根や壁が吹っ飛ぶので苦笑いです。




 アプラース王子は、ひよこエプロンのすがたになると、さささっ、と建物の窓を開けて見回ります。お掃除ももう慣れたもの。

 ときおり、自分は王国転覆の旗頭になったんだけど、こーゆースローな追放生活でいいんだろうか?と思ったりします。

 常識を気にしたら負け?だそうです。 

(平民出身の警備隊員のアドバイス)



 最後に玄関前を、れれれ、と掃きます。


 するといたずら者の『兎娘』があらわれました。

  


ララティ

「いきなりだが、今日は中庭の『隠し畑』の収穫だぴょん。手伝ってほしいぴょん」


 美少女顔のララティ。

 王子の両肩を、ガッ、と捕まえます。いつもの問答無用です。



 ちなみにララティはバニーなガール。

 ケンタウロス型魔獣娘でちょっと個性的です。  


 巨大ウサギの肩の間から、ニョキッ、と、美少女の腰から上が生えたすがた。困り顔の王子をつかまえているのも、巨大ウサギの前足でした。


 ちょっと爪がいたいです。


「攻略相手は 古き偉大なる蕪グレートオールドターニップ!!

ふてぶてしくてうまそうなあいつを、ズバッ‼といって、ズポン❢と抜くぴょん」


 ウサギ娘(年齢不詳)は真剣な表情です。燃えています。

 あと、ちょっと、涎が垂れてます。

 

 王子はいつものように押し切られました。はやく終わるといいな。




 現場の中庭は、すでにちょっとした人だかりが出来ていました。

 真ん中に、黒ずんだ茎葉が背丈より高くそそり立っています。地際が丸くもり上がって、かなり大きな根があるようです。


 すでに何度かチャレンジしたあとらしく、巨大なカブには太いロープが結ばれて。まわりで思い思い、がっちりしたからだの警備隊員たちがちょっとつかれた顔で休んでいました。


「 … なにこれ。植物魔獣?」


「いつの間に植えたんだ?」


「瑞々(みずみず)しいというより、禍々しい生気」


「この木、枯れてんなぁ。土の栄養をぜんぶとられたのか?」


「ちゃちなカムフラージュ…… つくっているの、よくごまかせたわね」


「え? 公認かと……」


お目付役(アイジス)さんは、何で気がつかない?」



「おまえら、ごちゃごちゃうるさい!! ならび直すぴょん‼️ 」


 へーい、と。長くおかれたロープの左右に立つ人たち。ロープの端は、巨大な蕪の地際にくくられています。

 

「頼もしい助っ人をつれていたぴょん、今度こそ、抜けるぴょん!!」


 アプラースは筋肉少年ではないので、そんな紹介されても困ります。

 みんなの列の最後尾につくと、同じように連れてこられた助っ人が何人もいて、ちょっと安心しました。

 だけど、いつから、何度カブに挑んていたの?



「さぁ、位置について! ロープを持て!!


  ── お前ら根性みせてみろおおおぉぉ!!」

 


 ダダダ、だん!! (← ウサ足)


「引けえええええええ!!!」


「おおぅ?」 



 ダダダ、だん!!  


「引ッけえええええ"え"え"え"!!!」 


「おおおぅ!」



 * *


   * *


   *


  *


「おまえらも手伝うぴょん!」


  「え?」

「は?」

   「ちょっと⁉︎」


 *


 ダダダダダ、だん!!  


「引ッけえええええええ!!!」


 *


「ぐぬぬぬ」


 カブ抜きに力をふり絞ること、十二回。


 巨蕪はふてぶてしい感じで、少しもゆらぎません。

 


 急成長した巨蕪は、今が一番おいしいタイミングのはずですが、まるで抜ける気配なし。しかし、見れば見るほど、美味そうな色つやと丸みと大きさです。


 ララティ、ぶつぶついって目が血走ってます。


「ぐぬぬぬ……

 オールドターニップはときに魔法に目覚めて、爆発的に大きく美味しくなる。けれどかわりに、大地とかたくつながって不動になる。

 ……噂は真実だったピョン??


 もう、十人くらい増やせば ?

 いや、こうなったら、馬車馬を借りて来て??」」


 巨蕪のロープの引き手は、今50人近く。少年執事も洗濯娘も巻き込まれて、みんなヨレヨレです。ノリと勢いで、がんばるのも限度みたい。



アプラース王子

【 現在、状態異常;疲労 】

「ラ、ララティ?」

「大きなカブは、どうしても地面から『引いて』抜かないとダメなのかい?」


ララティ

【 現在、状態異常;焦燥、視野狭窄 】

「 … ん"? あ"?」


アプラース

「引っ張るまえに、まわりの土を掘り下げてはどうだろう」


 あっ、と、固まったララティ。

 ガッ、と、後頭をつかまれました。

 

 背後から、こわーい、顔をしたアイジス姉さんがララティをつかまえてました。勝手がバレました。

 


 アプラース王子は、どこかにララティが連れて行かれたので、その後、残ったみんなとカブを掘り出しました。荷車からはみ出る大きさで、あずけられた領主館の料理長は引きつったお顔になりました。


 だけど、なれてますからね、きっとすぐ回復します。夕食はきっとごちそうです。庭で鍋かも?


 さあ、このお話はこれでおしまい。





「「「 みんなといっしょに引っ張りたかった!!!」」」

 ……… 魔獣学の授業時間だった子どもたち。







・♢ ♢ 解説 ♢ ♢・



◉グレートオールドターニップ


 グレートオールドターニップは、巨木の樹海の比較的浅いところでみつかる、巨大植物です。植物魔獣ではありませんが、偶発的に魔法能力が目覚めるようです。


……魔獣深森は巨木の樹海として知られています。


 ほかの草花もおう盛な成長をみせて、森の奥ほど巨大で、小屋のような巨花マンモスフラワー、大熊が腰掛けられる大キノコも見つかります。


 怪物級に大きくなる蕪もその一つで、ふだん、目立たずひっそりと育ち。何かのきっかけで「力」に目覚めると、あたりの地力を吸いつくすようにみるみるうちに根部が巨大化します。

 一夜で仔牛ほどの重さになり、白く重い多肉質は滋味豊かで栄養豊富です。

 色々な味付けをした料理を楽しめて、野菜スティックにしてもおいしく食べられます。


『最優のグレートオールドターニップ(ザ·ワン)』は伝承の中の巨大蕪で、大きくなる早さも旨さも格別で、200キロにもなると言うことです。

 しかし、未知の魔法をおびて大地にがっちりつながり、異常なサイズの根部をきれいに引き抜くのは不可能であるとも•••


○栽培化

 グレートオールドターニップは、うまくて無毒なので、大陸西方の開拓地でこれまで何度も栽培が試されました。

 しかし、巨木の樹海の外で育てようとしても、ただの蕪になったりあっけなく枯れてしまい。大量の土砂を一緒に試験地へ運んでもうまく育ちません。

 失敗の理由は、今のところ不明とされています


 

✓ララティが主役の中編


くいしんぼウサギと格好をつけたがる神官

作者:NOMAR

https://ncode.syosetu.com/n8462ga/

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本作品は、NOMAR さまにショートストーリーの提供、意見感想を頂いています。ありがとうございました。 **


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