ジビエ魔獣肉 ③ 『 魔獣・三大肉 』
ジビエ魔獣肉 ③ 『 魔獣・三大肉 』
… 龍肉が伝説の存在。ブルーベアの背肉が、ハンターすら滅多に味わえない逸品とすると。
ふつうに出回るが、とても手の届かない高級品。あるいは、庶民にもやさしい定番の魔獣肉も存在します。
『三大』と俗に称される『牛』『猪』『兎』です。
そのうち『牛』の魔獣…『長角牛』の狩りは、ハントというより、大勢の兵士を動員した国境紛争さながら。
あふれ出た魔牛の群れを撃退して犠牲者を出さず、猟果を山とかかえた凱旋となれば、街はお祭り騒ぎです──
□□ SS □□ 思い出となる日
人類の大敵がひしめく異形の樹海・魔獣深森。
スピルードル王国は、大陸西部で魔境に臨む新興国であり、魔獣の脅威から中央諸国を守る「盾の三国」のひとつであった。
ウィラーイン伯爵領はそんな王国にあって「盾の中の盾」といわれる猛者の邦(地方)。
その日、領都ローグシーは昼日中から騒がしかった。
大通りに、大きな魔獣のすがたが──
「── 長角牛を生け捕りだって?」
「あぁ、それも “銀冠” 級の牝牛を二頭もだ」
街の大通りには人がつめかけ、既に祭りのような賑わいだ。
騒ぎの中心は大型の運搬用の馬車に鎖で縛られて運ばれる長角牛と、馬車を囲み護衛するウィラーイン領兵団と魔獣深森調査隊の勇ましき姿。
ローグシーの街のハンターギルドは熱い空気に包まれていた。魔獣狩りの猛者たちの言葉がホールを飛び交って、
「はぐれ牛じゃないか⁉︎ よく群れから離せたなぁ」
「いの一番に牡牛ボスを狩って、走りつづける群れをバラしたんだとさ」
「… さすがは無双伯爵と領兵団」
長角牛は下位の草食獣で、からだは大きいが特異な力をもつ魔獣ではない。
しかし、それは単独のときの話。巨牛の群れの大移動は肉の雪崩か津波だ。大人七、八人分の体重の長角牛の密集した突進は、重装騎士の隊列も踏みしだいて肉と鉄クズの敷物にする。
その群れの先陣を切る、ひときわ大きなボスの牡牛に一騎討ちとは── 無謀、ありえない。
しかし、生きた牝牛の魔獣が街に運ばれてくることもまた、ありえない。
ありえない猟果。
何よりの勇戦の証し。
大通りは人があふれ、ギルドホールの中にまで領民の歓声が届いていた。
「ほかに三頭分も肉があるってよ」
「長角牛は美味いが、人がいないと森から運べんものなあ。それをまるまる三頭もか?」
「青髪の商会長がな、今回の狩りに大型の荷馬車を用立ててたんだ。塩や酒樽の重い荷を運ぶ、特別仕立てのをな」
「剛毅だなおい」
「牛どもに西の道を荒らされて困っていたらしい」
「それでも剛毅なことだ。特別馬車とやらが魔獣に壊されていたら、丸損だ」
── 彼らは知らなかったが、討伐に同行した六輪の荷馬車には御者台、そして荷台の三方向に商会の意匠が飾られていた。
今、大荷馬車は大通りを進んでいた。
長角牛のボスを倒し、大群を追い散らした討伐隊の帰還はまるでパレード。先頭になった一台は、最大で最初の猟果、大群のボスの牡牛を載せて、ひときわ大きな角の頭を荷台の木台に掲げていた。
領都は祭りの盛り上がりだ。
シウタグラ商会の青髪商会長は、大通りの混雑を商館の二階の窓から見下ろし、ひっそりと笑う。
「中央出身の商人が、魔獣に怯むヘタレと思われていてはローグシーで円滑な商いをできませんからね」
これでシウタグラ商会はハラード伯爵と懇意にしていることをアピールできた。更にはローグシーの街の住人に、いざというときに頼りになる商会、と、ふたたび示すことができた。
青髪の商会長は、今後の催しを思い出して、ニマニマと微笑む。
「… 酒と調味料、香辛料が売れそうですね。ふふ」
「“ 戦冠 ” 級の大角の牡牛、って。三〇年ぶりくらい?」
「ん。だが、あんときの“ 戦冠 ” は仕留められなかったはずだ」
…… ハンターギルドの騒めきは一向に収まらない。今は、ボスの牡牛が話題。
「トロフィー(ハンティングトロフィー)にするかなぁ」
「王都に献上しておかしく無い大物だ。そりゃするだろ」
「マイスターたちが仕事の取り合いだな」
「…… 脳みそ、もらえないかな」
「おい、今のだれだ?」
そこへ、どこかくたびれた雰囲気の三人の男女がフラフラと建物に入ってきた。討伐戦に参加したハンターたちだ。
ギルドホールの人混みが、素早く左右に分かれて彼らに注目。精魂尽き果てたという感じで、三人組はあっという間に空けられた椅子に身を投げ出し、
「っあー……、キツかった」
「お疲れさん、どうだった? 領兵団との合同の討伐戦は?」
「表の騒ぎを見ればわかんだろ? 夕方には広場で肉祭りだ」
「久々に “ ウィラーインの大鍋 ” が引っ張り出されるわよ」
おお…… と、聴衆から声が漏れた。
うぉ おおおおおおおお!!
…… 丁度、その頃。
「パレード」の終点で、ギルドホールの数十倍のどよめきが沸き起こった。
中央広場の群衆を割るように運ばれて、仮設の演台の傍へ据えられたのは、とんでもない大きさの金属器 ── ウィラーインの大鍋。
“ 戦冠 ” 級の大物牡牛が、丸ごとおさまりそうな馬鹿げたサイズの調理器具だ。厚みも重さも異常。
昔から伯爵家は、大勢の市民や兵士を広場に集めて、婚礼や戦勝の記念などに酒やご馳走を振る舞った。領主と領民がともに祝い、喜び、讃え、憂いを晴らす。
ウィラーインの大鍋とは、王国でも最大級の調理器具であり、ある種の祭具なのだ。
数年前、未曾有の魔獣災害が大陸中央を冒し、大国の一つが事実上崩壊した。新たに生まれた魔獣の樹海をさけて、中央教会の聖都は遷都を余儀なくされ、大変な規模の難民が行き場を無くし、大混乱は未だにおさまってはいない。
人類の文明圏を割り砕いた災厄は、その余波を、遠く離れたウィラーイン伯爵領の領都ローグシーに届かせた。そして当時、不穏な空気を吹き飛ばしたのが伯爵家の『婚礼』だった。
このときは事情があって、ウィラーインの大鍋は使われなかったが、騎士と聖獣の新郎新婦が、町中の「屋根上を」駆け巡る華麗にして異形のクライマックスは唯一無二、今も市民の語り草だ。
今は少し時が経ち、新たな政争や外乱の火種、未知の魔獣の噂も生まれた。ローグシーの市民の不安感情はわずかだが、たしかにまたふくらみつつあった。
そんな中、久々に領兵が出動した討伐戦の快勝だ。そして、大鍋の出番だ。しかも、ぶつ切りで持ち帰った牛の肉を大盤振る舞いだという。
長角牛の肉は『安い』部位でも、拳一つ分で、庶民のふだんの十数食に値する。ふんだんに討伐で得られたとして、街まで持ち帰ったなら加工肉にして商材にするのが通例だ。
異例中の異例。鍋など、あり得ない贅沢さだ。
── パレードは終わったが、広場から人は去って行かない。むしろ、興奮はさらに増していた。
荷馬車の魔牛肉── 狩られて数日たって食べごろだ── は、人々の目の前で無造作に下され、適当に切り分けられて、そのまま本当にあふれるほど大鍋に投じられた。
味を整えながら煮込まれてゆく。
よそうための小皿が山のように用意された。
さらに肉と臓物の一部は串焼きにされた。湯気と煙にのって、美味そうな煮物とタレの匂いが辺りにひろがった。
一方、酒やほかの軽食が広場に続々と持ち込まれていた。伯爵家が買い上げた品がかなりあったが、そればかりではない。いくつもの商会が、酒樽や食材を山と載せた荷車を次々、送り込んで来た。
── 『どこぞ』の新興商会に負けてなるものかという老舗たちだ。
大鍋の料理が出来上がるまで、まつことしばし。
市民は、参戦した兵士やハンターのまわりにあつまり、熱心に討伐戦の話を聞いた。
魔牛の大群がウィラーイン領の西方にもたらした災禍は、詳しく市民に伝えられていた。
長角牛の群れは、いわば『生きて動きつづける土砂崩れ』。人食い魔獣のように一度に多数の死傷者を生まないかわりに、辺地の交通を混乱させ、農耕地や果樹園、貯水池、水路、井戸などの生産基盤を破壊してまわる。荒廃と貧困を生む。
だが、ボス巨牛は討たれて群れは逃げ散った。
やがて、長角牛の肉の美味が人々に手渡されはじめると、どこからともなく拍手喝采が沸き起こり、伯爵をたたえる声が上がる。意味もなく胴上げまで始まる。興奮は最高潮に達した。
街の人々は、領主にして英雄たる伯爵に守られていること。恵みを分かちあい、喜びをともにしていることを「同じ鍋」を食して実感した。
人々が気がつかないこともあった。
ウィラーイン伯爵の巨牛討伐は瞬殺。ハンターや兵士たちは自然と、酒がまわるほど親しみを込めて、初陣の若い王子。そして、かれとともに遠征の魔獣狩りでしごかれた、いささか頼りない配下たちを話題にした。
巨牛の群れが崩れ去った後、じつは大事だった。
解体現場の血の匂い、迷い牛の鳴き声にひかれて肉食魔獣や亜人型魔獣があたりから集まり、川辺の野営地にも三々五々、押しかけてきた。
伯爵はといえば、いろいろな魔獣と手合わせできる格好の機会、と、観戦モードに。王家から預けられていた第二王子と、その直属の魔獣深森調査隊の背中を押した。
文字通り、野営地の外へ。
討伐隊が死骸や壊された建物を片付け、迷った魔牛を樹海に向かわせ、群れを完全に追い払ったことを確かめて、復旧作業の専門部隊に引き継ぐまで一日半。
王子とその部下たちは悪戦苦闘した。
ハンターの実戦経験は初級レベルなので、さすがにベテランハンターたちが近くで援護した。だが、王子が、初見の魔獣相手に力闘するかと思えば、最も年かさのその部下がコボルト(よりにもよって)に殴り倒されて運ばれるなど、エピソードに事欠かなかった。
さらにルーキーたちのデスマーチ中、伯爵は、何度もふらりと姿をみせて応援やアドバイスをした。手本もみせた。おかげで市民は、伯爵の話題をことさらせがんでも、いつの間にか、ローグシーに追放された王子の耐久戦を聞かされることに………
「あなた、わざとかしら?
自分の巨牛殺しは一撃必殺。かわりに弟子の「かれ」が話の中心よ。最悪の蟷螂にも一騎討ちで勝った── 聞こえる? 追放王子、あらため、狩猟王子と呼ばれそうな勢い」
「たゆまず力を養い、覚悟を持ってあの場にいた。だから無理難題を引き受けて、理不尽な『おかわり』すら斬り伏せた。力と意思があればこそだ。
── なぁ、アプら・・ おおぅ」
「あら、やっと気をゆるめたのね」
祝宴に参加した若者は、壇上で伯爵夫妻とならんで座っていた。最前ようやく、街の有力者の挨拶が途切れたが、そのまま声もたてず、座ったまま意識を手放していた。
まだ十代の元王子は追放の身。座るのは辺境の木で出来た椅子だった。テーブルには大ぶりのお椀があり、山もりの最良の部位の旨肉が湯気を立てていた。
◇長角牛肉
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魔獣深森で獲れる、最高の赤肉と評判です。
薄切り肉でも濃厚な味わいと噛み応えを楽しめ、エキスが豊富で、サッと炙っただけで旨味が増します。
さらに肉の部位ごとに切った面の美しさ、脂の甘さ、風味の違いも楽しめます。
長角牛(長角牛肉)は、金冠級、銀冠級というほかにはない等級がつくのも特徴です。過去、ジビエ肉が王宮の晩餐で絶賛されて注目され、希少な部位が貴金属の塊さながらに取引された歴史に由来します。
長角牛は大柄でタフで、群れで開けた土地を移動するので、ハンターが少人数で狩るのは困難です。
このため、よく肥えたまま群れからはぐれた長角牛は値千金。みつかればハンターたちが目の色を変えます。
もっとも、倒したらすぐに血抜きなどの処理をしなければ生臭い肉になり、たいてい、ある程度までキチンとした解体が必要となります。
さらに血を嗅ぎつけた魔獣が集まってくるため、数日、重労働と死闘続きとなり。結局、『貴重な部位の肉だけ街へ持ち帰る』ことすら、戦争さながらの大規模討伐でなければ難しい話です。
『長角牛ハンター』
最近、長角牛狩りと肉の輸送に特化したハンターチームがあらわれ、話題になっています。
かれらはまだ若い5人組ですが、時たま現れる “はぐれ牛” を探すかわりに、ボス牛が率いる群れを長期間追跡し、狙った個体を巧みに誘い出す危険なやり方を何度も成功させました。
手ぶらで帰って来ることもよくありますが、特筆すべき点は、チームに死者や重傷者をひとりも出していない(つまり、メンバーが経験を増やし続けている)ことです。
今のところ、リーダーの素性も、少人数で群れをいなす具体的なノウハウも不明です。
◇ヨロイイノシシ肉
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ヨロイイノシシの肉は、家畜豚や牛とまったくちがう美味で、しつこく無い脂が特徴です。とても調理しやすく庶民から食通まで人気があります。
加工品のベーコンやジャーキーも好まれます。
ヨロイイノシシの魔獣肉は、なぜか生でも腐敗しにくい特性があり、干し肉にするとさらに長持ちします。ハンターが危険な巨緒をあえて狙う理由がそれで。街まで時間をかけて重い肉を運んでも、ほかの獲物ほど傷まず。十分満足できる取引を期待できます。
『スピルコ豚』
一種の、偽ブランドのジビエ肉です。
昔、大陸西部から中央諸国へ『野生豚の美味な肉』が輸出されたことがあり、大陸中央の富裕層を中心に大変な人気を呼びました。
しかし、その正体はヨロイイノシシで魔獣の肉でした。
野生豚に仕立てたのは通商関係の有力者の一人でしたが、軽いイタズラのつもりで、大陸中央の人々が魔獣にあまりにも無知で、魔獣肉を感情的に忌み嫌うため、適当な名前をつけたところ。美食家が絶賛されて思わぬ評判をえた、と、いうことです。
しかし、肉の正体が魔獣の猪とわかると『スピルコ豚』料理を堪能していた社交界に大混乱が起きました。
◇グリーンラビット肉
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肉は野性味と特有のコクがあります。
食べていたものによって風味がかわることが知られ、ある山地のグリーンラビットは、樹海の果実を主食にして上品な味のバランスとよい香りが生まれ、「盾の三国」の宮廷料理の最高級肉に取り上げられました。
グリーンラビットは、長角牛やヨロイイノシシと並ぶ「食される」魔獣で、庶民に最も近い存在です。
ほかの二種と比べると狩ることが容易で、数が増えやすく。好奇心が強くて食欲旺盛で、昔から樹海の外の開拓地に出没しました。
グリーンラビットは、人里近くの果樹園や牧草地などで討たれると、専門の屠畜業者や街の料理人のもとにそのまま丸ごと届けられやすく。余すことなく、全身の利用が試されることとなりました。
その最たるものが肉料理です。
脚肉はもちろん、舌肉から内臓、尻尾まで、ほとんどあらゆる部位が食され。現在、グリーンラビット料理は数千種のレシピがあると言われます。
グリーンラビット肉のコクやクセを劇的に改善する、すぐれた一工夫もあれば、耳肉(?)の揚げ物や酢漬け、といったよく分からないものも……
また、グリーンラビットの骨は、粉にして煎じて飲むと風邪に効くとされます。
骨髄は栄養豊富で兎骨スープは、胃腸が弱っていてもおいしく飲めて、病気や怪我の回復力を高めます。
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○ 参考 ○ モンスターの紹介記事
『長角牛』
https://ncode.syosetu.com/n3634gg/47/
『ヨロイイノシシ』
https://ncode.syosetu.com/n3634gg/54/
『グリーンラビット』
https://ncode.syosetu.com/n3634gg/21/
■■SS ■■ 思い出となる日 〜 AnotherSide 〜
「ウィラーインの大鍋」は、市民の歓声を浴びながら中央広場に運び込まれてきた。それははじめてみるものには、大鍋というより、木の葉の形の金属の舟にもみえた。
ロバにひかれて、中央広場の人混みを割って進む。
大きさに比してあまりにも軽々と運ばれ、無造作に石畳の上をこすっていた。
だが、だれも気に留めていない。まるで傷つかないと確信しているように。
群衆に混ざっていた大道芸人の双子の娘は、それを目にするなり、只ならぬ気配を発し── それぞれが数人の女に囲まれ、まわりの人間がなにか気がつくより早く、近くの建物に連れ込まれた。
「── 発掘兵器の外部装甲だ、間違いない」
「── あいつらの残骸ではない、だが、同系統だ」
笑いつづけていた双子たちは、緊張した面持ちで自分たちを取り囲む女たち…… 姉妹たちに、ひょいと四つの手を上げてみせた。
何も持っていない。
「暴れはしない。怒りの気持ちはない」
「暴れはしない。笑ったのは本心だぞ」
ふたりは、部屋の外の騒めきに笑顔を向けた。
「伯爵家が、発掘兵器を隠匿していた、などと思わぬよ。見ればわかる。あれは祭りの山車のようなものだろう?」
「まったく妹よ、古代兵器の超合金を鍋にするとはな。
ほどほどの大さの鉄の鍋をいくつも使う方が、よほど料理しやすいだろうに。……… ひとつの鍋、ひとつの火を囲むことにこだわるか。
盛り上がりが大事なわけだ、なあ?」
「まったく姉よ、古代兵器の超合金を鍋にするとはな。
黒の塔の古代妄想狂に見せてやりたかった。やつらが『価値なき命』と呼んだ開拓民の裔へ、鍋を振る舞うために火にかけるのだ。
怒り狂って悶死したかもだ、なあ?」
魔獣災害の防塞の一部につかえようものを。
いやいや、一点しかない遺物…… 替の効かないヒトカケにたより、将来まで戦い方を歪めることを良しとしなかったのだろう……
ふたりは心配した同胞たちの前で軽やかに笑う。
かつて、その滅殺に猛り狂った発掘兵器の同類(の一部)とこの街で突然出会って。しかし、その黒い瞳にかつての狂乱は無い。
古代の凶器のカケラの今様の使われ方に── 心から笑い。説明しがたい解放感を覚えていた。
「長角牛の鍋、か。美味そうだ、楽しみだな」
「アプラースは活躍したのか? 話を聞いてみるか」
「「そうだ、一緒に食そうぞ」」
ふたりは唖然とした姉妹たちを放って、楽しげだ。
………ウィラーインの大鍋が仕上がり、数千杯、長角牛の肉入りスープが老若男女へ振舞われるのは、それからしばし後のことだ。
双子の姉妹の過去編 〉 リス姉妹の二人旅
https://ncode.syosetu.com/n4627ff/7/