ジビエ魔獣肉 ①『 城郭都市ローグシー 』
ジビエ魔獣肉 ①『 城郭都市ローグシー 』
大陸西方よりさらに西へ、果てしなく広がる巨木の樹海《魔獣深森》。
異形の自然にはドラゴンやグリフォン、マンティコア、オーガといった数多の怪物がひそみ。最奥の地には、闇の神が眠る都市があるとも噂される。
その深部は、人の侵入を拒む魔の領域だ。
城郭都市「ローグシー」は、そんな魔獣の巣窟に最も近い貴族領の中心地だ。領主は、スピルードル王国で、最も武勇で名高いウィラーイン伯爵家である。
今、樹海の彼方へ、赤い陽光が落ちようとしていた。人と魔獣がせめぎ合う開拓地に夜闇が広がる。
ローグシーの街にも影がさし、みるみる大きくなった。
大陸中央で聖典を学ぶ神学生ならば、今を魔の時刻とでも呼び。その光景に闇の神の息吹、魔獣の脅威を感じ、信仰心を奮い立たせるかも知れぬ。
実際に住む庶民はどうかといえば、まぁ、そんな感性と無縁だが。
日常生活でいちいち、日の出日の入りに感極まっていられない。一人で魔の森で遭難しているのではない。人里の夕食という時間帯はどこも忙しく、街はあちこち混み合う。手元足下に注意だ。
ローグシーの街中の、ハンターが出入りする酒場。そこでこの時間、名が呼ばわれる魔獣とは ……
「──グリーンラビットの脚肉の丸焼き、まだぁ! 」
「おまたせぇ、出来たよ!」
「串焼きの盛り合わせ追加ね! 大皿二つ。ヨロイ(ヨロイイノシシ)と豚で、両方、塩!!
「ヨロイはまだあるけど、豚はこれで最後! 次から羊肉ね!」
「── すまない。トカゲ尾肉のステェキ、また、頼めるかな」
「あ、お客さん昨日の? ごめんねぇ。まだ、新しいの入ってないの。ギルドに依頼は出したけど、昨日の今日だから── 」
「そうか、連れに勧めたかった。あれは旨かった」
「ありがとぉね。 今日はヨロイイノシシの串焼きがすっごい、オススメだよ? 」
「ジャスパルではあまり…いや試しに食べてみよう」
「お客さん、はじめての猪肉? うっわ、うちの店が?? よおっし、楽しみにしてて!!」
… この時間帯の魔獣は「お肉」。
人の食卓のメニューだった。