猫屋敷の退屈な夏の窓辺
強い日差しが降り注ぐが、日陰にはまだ涼しさを残す夏の午前。
今日、郷は庭に出ていた。すぐそばには、一目できょうだいとわかるよく似たふたりの子供がいる。化け猫たちの中でも、特に郷に懐いている萩と牡丹だ。
「サト、今日はお仕事しないの?」
「お庭で何するの?」
首をかしげるその姿は、綺麗に対称になっている。くてんと傾いた黒い猫耳の角度も同じだ。
「今日はここに朝顔を植えるんだ。毎年やってるんだけど、ふたりとも手伝ってくれない?」
「うん、いいよ!」
はりきってうなずく仕草と声が、ぴったりそろう。ただ、楽しげに揺れるしなやかなしっぽのリズムは違っていた。
それに気づいた郷は、おもしろいものでもみつけたように吐息だけで笑い、ふたりに花の種が入った袋を渡した。
「サト、この花が好きなの?」
「うん。季節感もあるし、成長を観察するのも好きだよ」
郷がプランターに土と肥料を入れる。ふたりの化け猫が子供なのは、姿だけだと未理からは聞いていた。
朝顔といえば、小学生の夏休みの宿題では定番というイメージがある。だからなのか、はしゃいで土を混ぜるその様子は、普通の子供のようだ。
袋の中の種は、去年の花が残したものだ。たまに買い足すこともあり、毎年色とりどりの朝顔が咲く。
「どんな花が咲くのかな」
「ん? ふたりとも、朝顔知らないの?」
「萩たち、花の名前知らないんだよ」
「だから、朝顔もどこかで見たことあるのかも」
「じゃあ萩くんと牡丹ちゃんも、僕と一緒に育ててみようよ」
郷の言葉に、ふたりの耳がぴんと立つ。振り返って期待に輝くそっくりな表情が、郷に向けられる。
「毎朝、お水をあげるんだよ。どう?」
「サトと、牡丹たちで?」
「そしたら、朝顔の花も見れる?」
「うん」
途端、ふたりは郷に飛びついてきた。感覚は猫のままなのだろうか。さすがに郷も受け止めきれず、さんにんして地面に倒れ込む。
顔を上げると、満開の花のようなふたりの笑顔。ぴこぴこ動く黒い耳がかわいくて、郷はそれぞれの頭をなでた。土に汚れた手を気にすることなく、ふたりは心地良さそうにその手に頬をすり寄せる。
その後、さんにんそろって、家事を担う未理に怒られることになるのであった。
*
「萩、牡丹。またその花見てるの?」
夏真っ盛り。照りつける日差しを浴びる植物を、萩と牡丹が見つめていた。
ちょうど洗濯物を干しに廊下を通りがかった未理は、屋外で膝をかかえているふたりに気づいた。窓の向こうに声をかけると、同じ金色の二対の瞳が未理に向けられた。
ここのところ、郷とさんにんで毎朝その花に水やりしているようだ。特に郷にべったりなふたりが、彼といるのは珍しくない。だが、花にも興味を示しているところは未理も初めて見る。
「サトと牡丹たちで育ててるんだよ」
「もうすぐ花が咲くって。サトが言ってた」
郷は小説家だけに、さまざまな方面に興味を示す。その影響を、そばにいるふたりも受けているのだろうか。
これまで、何かと理由をつけて猫でも変化時でも子供の姿に固執して、変わらずにいた彼らからは想像がつかない変化だ。
「咲いたら、サトと萩たちの次に、ご主人も見ていいよ」
「楽しみにしてるよ」
未理がそう言うと、ふたりは得意げに笑ってみせたのだった。
それから数日後。眩しい日差しが、日中の暑さを予感させる。
「ご主人、来て来て!」
「今日、朝顔咲いたんだよ!」
未理の両手を、ふたりの化け猫がそれぞれ引っ張る。興奮気味にしっぽを振り、猫耳がぴるぴる動く。
窓のすぐそばに置かれたプランターの前まで連れて来られた。目の大きい園芸用ネットが張ってあり、朝顔はグリーンカーテンの役割を果たしているようだった。
「未理ちゃん、おはよ。ほら、ここ見て」
ここ最近、花の水やりのためにふたりに叩き起こされるので、郷はいつもより早起きだ。そのせいか、いつにも増して表情がふにゃりとしている。
そんな郷が指差す先では、青紫色の花が咲いていた。白の線が入っていて、華やかだ。他にも二つ、紫がかった赤いものと、淡い水色の花が開いていた。
「この傘みたいにくるくるしたつぼみは、もうすぐ咲くところなんだよ」
「もっと咲いたらいくつか摘んで、牡丹たち、押し花作るの」
郷とは対照的に、朝から元気な萩と牡丹は朝顔を前にはしゃいでいる。
弾ける笑顔が、夏の朝に映える。これからいくつも花咲く朝顔のように、ふたりの新しい面も見えてくるのかもしれない。その可能性に、未理と郷も楽しみになるのだった。




