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思惑通りの結末

 王太后宮の日当たりのよいサロン。


 中央に置かれたテーブルを挟み、向かい合わせにアルフォンスと王太后は座っていた。

 戴冠式とその後の晩餐会の打ち合わせを話し終え、王太后の雰囲気が事務的なものから何時も通りの雰囲気へ変化したのを察知し、侍女達は部屋から退室していった。


「それで、シュラインの体調はどうなの?」

「まだ悪阻で寝込む日もありますが、経過は順調のようです。侍医からは、戴冠式の頃には体調も安定するだろうと言われております」


 やわらかいアルフォンスの表情は、計算したものではない身重の妻を慈しむ本心からの微笑み。

 幼い頃から己を律してきた息子の、初めて見せた顔に王太后は目を丸くした。


「貴方は……そんな顔も出来るのですね。婚姻を承諾した時は、契約だと割り切った関係でシュラインと接していくのかと、心配していましたのよ」

「シュラインには、国政が落ち着くまで私の妻の役を務めてくれればよいと、彼女に情を抱いたとしても白い結婚のままで、子を成すつもりは無かった。後継ぎが必要ならばエレノアの子を養子に迎えても構わないと、以前は思っていました。ですが、」


 言葉を切ったアルフォンスは自嘲の笑みを浮かべた。


「王太子の婚約者として身に付けた、完璧な公爵令嬢の仮面を取り払った飾らないシュラインを知るにつれ、彼女があまりにも可愛らしくて我慢出来なくなりました。契約期間が終わったとしても、もう私から逃がしてはやれない」


「過度の愛情は恐怖を抱かせます。気を付けなさい」

「ご安心を、加減はしております」


 垣間見えたアルフォンスの激情に、王太后の背中に寒気が走った。


「リリアの処刑は妥当でも、ヘリオットから王位を簒奪するまで貴方がやるとは思わなかった。貴方はヘンリーを傀儡の王に仕立てるつもり、ではなかったのかしら」


 以前のアルフォンスは国王の政務を引き受けていても、自らが表へ出るつもりは無いように見えた。だからこそ、ヘリオットは王位に無関心だと油断しきっていたのだろう。


「私が動かなくとも、近いうちにカストロ公爵と元老院が反乱を起こしていたでしょう。母上が元老院内と貴族内で高まる王族への不満を逸らすため、私にシュラインを娶らせたように私も国の未来を憂い、行動したまでです」

「憂いていた? 元老院と結託しヘリオットを弑そうとしていたのはアルフォンス、貴方でしょう」


 フッと息を吐いて王太后は器用に片眉を上げる。

 アルフォンスが諜報と暗殺に長けた影を使うように、王太后も独自の情報網を持っているのだ。

 ヘンリーが学園へ入学した頃から王位簒奪の準備を進め、最終学年に上がるまでにアルフォンスが元老院と主要貴族を、カルサイルが騎士団を掌握したのは知っていた。


「何をおっしゃるのですか母上。私が尊敬する兄上を弑すなど、恐ろしいことを企てるわけないでしょう。王位の簒奪? 元老院の不満を抑えるためには、シュラインを手に入れるためにはカストロ公爵を納得させなければならなかった。私は、苦渋の選択をしたまでです」

「苦渋の選択、ねぇ」

「おや? 母上はエレノアの子を王位に据えられないのがご不満ですか?」


 挑発的な問いに王太后の顔から表情が消える。


「いいえ。正当なる王家の血を持ち、賢王と成れるだろう貴方が王と成るのですから、不満などありません」

「ヘンリーも正当な王家の血を持っておりますよ」

「享楽に溺れた品格無き者は王座には据えられない」


 感情のこもらない、冷たい表情と声で王太后は吐き捨てた。


「貴方とシュラインの子は優れた王となるでしょう」

「……母上、全ては貴女の望み通りということですか」


 影からの報告では、王族の権威を失墜させかねないヘンリーを諌めず、男爵令嬢との交際を正当化させるようにヘリオットとリリアの純愛話を聞かせたのは、優雅に紅茶を飲む王太后。

 シュラインとの婚姻を持ちかけたのも、カストロ公爵と元老院を王家へ繋ぎ止めアルフォンスが国王夫妻を廃すよう仕向けるため、だとしたら。


「ええ、わたくしの望み通りアルフォンスが国王と成ってくれて、孫まで出来るなんて嬉しいわ」


 悪びれもせずクスクス笑う王太后と、母親を睨むアルフォンスの間に冷たい空気が流れた。




 ***




 夜半、侍女からアルフォンスの来訪を告げられたシュラインは、クッションを敷き詰めたソファーから立ち上がった。


「起きていて大丈夫か?」

「今日は朝から調子が良いの」

「そうか」


 目を細めたアルフォンスはシュラインの肩を抱き寄せ、ソファーの背凭れに掛かっていたショールを彼女の肩へ掛ける。


「王太后様はお元気でしたか?」


 シュラインに問われアルフォンスの眉間に皺が寄る。


「相変わらずの狐っぷり、いやお元気な様子だったよ。シュラインの体調を心配されていた」

「悪阻も落ち着いてきましたし、近いうちにご挨拶に伺わないと、って何をなさっているのかしら?」


 肩を抱きながらシュラインの首へ顔を埋め、背中から尻を撫で下ろす不埒な動きをし始めた夫の手をぺチンと叩いた。


「今日は、久しぶりに母上と話して疲れた。明日は朝から、面倒な議会があるからシュラインを補充しているだけだ。……愛しているよ」

「も、もうっ」


 耳元で愛を囁くだけで全身を真っ赤に染めるシュラインが可愛くて、我慢出来なくなったアルフォンスは俯きかけた彼女の顎へ親指をかけて、上向きにさせる。


「アルフォンス様っ、まっ」


 真っ赤に染まったシュラインが制止の言葉を紡ぐ前に、アルフォンスは食むように唇へ口付けた。



これにてアルフォンス編終了となります。

小話を一つ更新して、完結となります。

ここまでお付き合いくださった皆様ありがとうございました。



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