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契約で結ばれた彼女が可愛くて身悶える

シュライン誘拐後の話です。

 渋い顔をした部下から提出された調書を読み終え、「うーん」と唸ったカルサイルは執務机の上へ調書の束を放り投げた。


「コレはあまりにも荒唐無稽すぎて、どうしたものかねぇ」


 幼馴染みであり上司でもある、王弟アルフォンスから任された国家転覆を企てた罪人、王子の婚約者だった男爵令嬢アリサの聴取。

 調書に書かれていたのは、アリサはこの世界のヒロインで自分は全ての男性から好かれる存在だと思い込んでいる、という荒唐無稽な話だった。

 自称『ヒロイン』だというアリサの企てた『悪役令嬢』の誘拐は、彼女の中では『隠しキャラ、アルフォンスと結ばれるため必要なイベント』とされ、失敗したのは悪役令嬢シュラインが自分を苛めなかったから、らしい。


「これでも、自白剤を使って聴取した結果です」


 疲れきった声から、アリサの発言を書き出した部下の苦労が伝わってきて、カルサイルは深い息を吐く。

 自分は愛されるヒロインだと思い込み、全てをシュラインのせいにしているとは質が悪い。

 計画に協力したリアムと執事や兵隊は王族殺害未遂で捕縛され、厳罰を下されるということをアリサは全く理解していない。


「で、ヒロイン様はどんな様子なんだ?」

「取り調べをする女性騎士へ「モブが偉そうにするな」「私には王妃様がついているんだ」と威嚇しているそうです」

「モブ? 何だそれは? 何を言っているんだ?」


 支離滅裂な言動を繰り返し、王妃が誘拐に関わっていると自ら話すのは愚か者だとしか言えないが、聴取した女性騎士は調書をどう纏めるか頭を抱えただろうと、カルサイルは苦笑いする。


「情状酌量の余地は無し、か。まぁ、溺愛する妻を傷付けた者をあのアルフォンスが生かしておくつもりは無いだろうしな」


 すでに、国庫を私物化して度重なる浪費にシュラインへの暴行、隣国の王族との密通容疑、捕縛直前に王宮へ放火した罪により王妃と協力した侍女は捕縛されている。

 王妃はアリサと共に近々処刑されるだろう。勿論、王妃とアリサの処刑は極一部の者しか知らされない。




 一週間後……カルサイルの推測通り、王妃とアリサの処刑は秘密裏に執行された。

 二人の死は病死によるものと処理され、葬儀は王族に連なる者にしては地味な、密葬に近い形で行われた。


 王妃の死から半月後、突然発表された国王が退位し王弟のアルフォンスへ王位を譲渡するという報が、王宮前広場の掲示板と国営新聞社が配った号外という形で国民へ知らされ、王都は騒然となる。

 表向きの退位理由は、王妃を亡くしたことにより心身が衰弱し国王の責務を果たせなくなったため。

 真相を知る元老院に近しい貴族達は、傾国の王妃を退けたアルフォンスの即位を歓迎したという。




 ***




 元老院派の貴族達の期待を他所に、アルフォンスは不機嫌さを隠すことなく側に控える補佐官を睨んだ。


「私を睨まないでくださいよ。殿下」


 言葉を切った補佐官はコホンと咳払いする。


「いえ、失礼しました。陛下」

「まだ早い」


 ペンを握る手を止めてアルフォンスは息を吐く。


「退位の儀までは兄上が国王だ」

「失礼いたしました」


 胸に片手を当てて頭を下げる補佐官から、アルフォンスは執務机へ視線を戻す。

 積み上げられた書類の山の半数は国王退位に関わるもの。残りは、国政に関わるものだった。


「後始末が多いのは仕方無いとはいえ、夜中までシュラインに逢えないのは堪えるな」


 今朝、アルフォンスを見送るシュラインは顔色が良くなかった。

 昼食もあまり食べられなかったと護衛に付けている影から報告を受けている。


(王妃になるのが負担となったのか。それとも、王宮へ居を移したせいで体調を崩してしまったのだろうか?)


 愛する妻のことを思うと居ても立ってもいられず、アルフォンスは椅子から立ち上がった。


「フィーゴ、休憩だ。一時間で戻る」


 慌て出す補佐官が口を開く前にフィーゴへ短く告げ、アルフォンスは扉へ向かって歩き出した。




 半焼して改装中の王族居住区とは反対側に用意した部屋へ向かうと、ワンピースの上からショールを羽織ったシュラインが出迎えた。


「シュライン」


 普段より楽な服装のシュラインは今朝よりも顔色は良くなっており、アルフォンスは安堵から引き締めていた口元を緩ませる。


「お帰りなさいませ、アルフォンス様」

「体調を崩したと聞いた。大丈夫なのか?」


 頬を包み込むように触れるアルフォンスの両手に自分の手を重ね、シュラインは目を細めた。


「風邪をひいただけですし、皆が気遣ってくれますから大丈夫ですわ。アルフォンス様こそお疲れではありませんか」

「愛しいシュラインに逢えれば疲れなど全て吹き飛ぶよ」


 ちゅっ、リップ音を立てて唇へ口付ければシュラインの顔が赤く染まる。


「愛してるよ」

「あ、あの、わたくしも、貴方が、好き、です」


 全身を真っ赤に染めたシュラインは耐えられないとばかりに視線を逸らす。

 互いの気持ちを確認してから幾度となく愛し合っているのに、彼女の中の羞恥心は無くなってくれないらしい。

 愛の言葉を囁くだけで恥じらい身を縮める初なシュラインが可愛くて、アルフォンスはソファーへ押し倒したい衝動を僅かに残った理性をかき集め抑える。


「アルフォンス様?」


 息を荒くするアルフォンスをシュラインは上目遣いで見る。


 ぶちんっ

 すり減った理性の糸がぷつりと切れる音がアルフォンスの脳内に響いた。


「くっ、可愛すぎるっ!」

「きゃあっ?!」


 勢いよくアルフォンスに抱き締められ、そのまま幼子を抱くように縦抱きにされたシュラインは悲鳴を上げた。




「はぁ、そろそろ戻らなければならないか」


 膝に座らせたシュラインを好き放題愛でていたアルフォンスは、壁掛け時計を見上げ呟いた。

 腕の中に閉じ込めていたシュラインを解放し、名残惜しいと彼女のこめかみへ口付けを落とす。


「アルフォンス様、あっ」


 アルフォンスを見送ろうと、立ち上がったシュラインの視界が揺らぎ足元をふらつかせた。


「大丈夫か?」


 倒れそうになるシュラインを片手で抱き止める。


「少し目眩が、すみません」

「いや、私こそすまなかった。抑えられず無理をさせてしまった。……侍医を呼べ」


 部屋の隅に控える侍女へ命じ、会釈をした侍女は侍医を呼びに出て行った。




「妃殿下はお休みになられました」


 診察を終え寝室から出てきた初老の侍医は、足を組んでソファーに座るアルフォンスへ頭を下げた。


「で、どうなのだ?」

「しばらくの間は安静が必要です」

「安静? 風邪をひいたと聞いたが、酷いのか?」


 立ち上がりかけたアルフォンスは、彼が赤子の頃より知っている侍医も初めて見る姿で、思わず両目を細め微笑んだ。


「いえ、風邪ではありません。殿下、おめでとうございます。妃殿下はご懐妊されていらっしゃいます」

「は?」


 侍医の言葉を直ぐには理解できず、口をポカンと開いたアルフォンスは口と同じく開いたままの目を数回瞬かせた。



仕事が山盛りで残業続きです。

何とか年内で完結出来るように頑張ります。

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