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アルフォンスの憂鬱な日々④

更新が遅くなりました。

 卒業式まで残り一月余りとなった頃、カルサイルと護衛兼学友のフィーゴと共に寮へ向かっていたアルフォンスは、燕尾服を着た若い従者に呼び止められ足を止めた。

 声をかけてきた従者の後ろに、朱金色の髪を綺麗に巻いた令嬢の姿を認め、カルサイルが「あっ」と声を漏らす。


「アルス様、此度はありがとうございました」


 王子の元婚約者、公爵令嬢は深々と頭を下げる。


「貴方のおかげでわたくしの身の潔白は証明できました」

「私に王子の素行調査を依頼されたのは国王陛下です。悪漢に襲われた貴女を救ったのは私ではありません。そこにいるカルサイルですよ」


 大したことはしていないと、表情を動かさずアルフォンスは答える。


「謙遜などなさらないでください。あぁ、殿下が貴方のような方だったならよかったのに」


 胸元へ手を当てる令嬢の頬は、ほんのり赤く染まっていた。


「ティリア嬢……一月後の卒業式で貴女の答辞を聞くのを楽しみにしています」


 隣にいるカルサイルへ目配せしたアルフォンスは一礼し、フィーゴと共に寮へと歩き出した。




「でん、アルス様」


 ギロリとアルフォンスに睨まれ、フィーゴは慌てて言い直す。


「カルサイルに任せてよろしかったのですか?」

「下手に公爵令嬢を慰めて、彼女や周囲に誤解されても困るだろう。彼女に同情していたカルサイルの方が私より適任だ」


 学力不振や生徒会の職務放棄、数々の信用失墜行為等をやらかし、幾度と無く教師からの指導や国王からの叱責を受けていた第一王子。

 彼の卒業前試験結果は悲惨なものだったらしく、怒り狂った国王から謹慎を言い渡された。

 王子という最大の後ろ楯を失い焦った件の伯爵令嬢は、取り巻きの男子生徒達を言葉巧みに唆し、王子の婚約者であるティリアに全ての罪を擦り付け、彼女の誘拐まで計画したのだ。

 悪漢によって襲われたティリアは、駆け付けたカルサイルとフィーゴによって助け出され誘拐は未遂に終わった。公爵令嬢誘拐未遂まで計画した者達は、学生だから、王子の友人だからと言っても看過出来ないとされ、関わった者は全て捕縛された。


「私はただ、鬱憤を晴らしただけだ」


 元生徒会役員達や高位貴族令息、主犯の伯爵令嬢が捕縛されて学園内が騒然となった光景を思い出し、アルフォンスは自嘲の笑みを浮かべた。

 兄ヘリオットが学生時代に起こした婚約破棄騒動に似た、この学園での一連の事件。

 もしや、恋愛小説か芝居の影響で各国の学園では婚約破棄が流行っているのかと、首を傾げてしまう。


 ヘリオットが起こした婚約破棄騒動前に両親が危機感を抱いていれば、自分のように腑抜けになった王子の行動を国王へ報告する者がいれば、あるいは王太子の護衛騎士が職務を全うしていれば、あの(リリア)が王太子妃にはならなかったのかもしれない。


「アルス様?」

「いや、何でも無い」


 もしも、と考えても今となっては全て遅いのだ。アルフォンスは首を横に振った。



 公爵令嬢マテリア誘拐を企てた者達は、未成年だからと、未熟だったからとしても当然許されることはなく。

 伯爵令嬢は毒杯による死罪、令嬢の両親は身分の剥奪と領地の没収。協力した宰相の子息と侯爵家子息は勘当され、身分を平民に落とされた。

 誘拐未遂には関わらなかったとはいえ、素行面から次期国王には相応しくないとされた王子は、王位継承権を剥奪された。辛うじて王族籍に名前は残るが王都から追放され、最果ての地を与えられることとなる。

 乾いた大地が広がる最果ての地の領主とは名ばかりの、事実上の追放処分。これで、次期国王として期待されていた王子の未来は固く閉ざされた。



 国王から恋愛に狂った彼等の処分を知らされたアルフォンスは、卒業式へ参加すること無く帰国の途に就くこととなる。

 卒業式前の帰国は、ここ数年病床に伏していた父親の葬儀に参列するためだった。


 ソレイユ王国へ戻ったアルフォンスには、父親の死を悼む間など無く第二王子としての仕事が待っていた。

 葬儀を終えた頃、「このような場で紹介するのは本意では無い」と、母親が前置きしてからヘンリーの婚約者だと紹介してきたのは、まだ幼い公爵令嬢だった。


「シュライン・カストロでございます」


 ホワイトブロンドの髪を巻き、アメジストを彷彿させる少し吊り上がった紫色の瞳をしたシュラインは、喪服の裾を持ってアルフォンスへ挨拶をする。


「っ!」


 顔立ちも仕草も記憶にある女性と似たシュラインを見て、アルフォンスは自分の目を疑った。

 カストロ公爵家とトレンカ公爵家には血縁関係があるとはいえ、シュラインは幼い頃憧れを抱いていたシャーロットに似ていたのだ。


(成る程、これだけ似ていたらシャーロット姉様を慕っていたエレノアが気に入り、王太子妃が忌々しげな顔をしているわけだ)


 シュラインへ親近感を抱いたと同時に、アルフォンスは危うさを感じた。学生時代、シャーロットを敵視していたリリアがすんなりとシュラインを受け入れるとは考えられない。

 もしもシュラインが危害を加えられたら、王家とカストロ公爵家との関係が破綻する。当然、今度こそトレンカ公爵家も黙ってはいないだろう。


(二大公爵家を敵に回して彼等が謀反を起こしたら、王家は終わりだな。だから、母上はこの場でシュラインを紹介したのか)


 母親の狙いに気付いたアルフォンスは表情筋に力を込めて無表情を貫いた。

 数年ぶりに会ったリリアは、アルフォンスと視線が合う度に上目遣いで見詰め、誘惑してくるような女。威嚇するように睨み付けてくるヘリオットも、残念ながら息子の婚約者となったシュラインを軽視しているのだろう。


 五年ぶりに王宮へ戻ったアルフォンスが父親を偲ぶ時間も、長旅で疲れた体を労る時間も無くその早馬は現れた。

 国王が崩御し国内が不安定となっている時を狙い、ソレイユ王国と長年小競り合いを繰り返してきた蛮族が国境沿いの砦を急襲したのだ。

 蛮族討伐のためと、王太子ヘリオットはアルフォンスを王都から離れた国境沿いの地へ向かわせた。

 その命令は、心身ともに成長した弟を王都から遠ざけ、あわよくば亡き者にしようという浅はかな考えだというのは明らかだった。だがヘリオットから離れたいアルフォンスは、これ幸いと翌日には百騎余りの騎士とともに国境沿いの地へ出立して行った。

 領地から兵士を引き連れ駆け付けたカルサイル、フィーゴが加わり砦へたどり着く頃には千以上の騎馬隊となっていく。

 国境の砦へたどり着くと同時に圧倒的な力で勝利をおさめ、族長を話し合いの席へ着かせたアルフォンスは、巧みな話術で武力ではなく対話により、僅か三日間で長年の争いを終結させたのだ。

 成人したばかりの第二王子の武勇は、王国中に知れ渡り国民は彼の功績を称え、アルフォンスは一躍英雄となった。

 元老院は次期国王にアルフォンスを推すも、彼等を無視する形でヘリオットが国王となる。


 その後、王都に残り国王派と元老院との争いに巻き込まれるのは面倒だと、早々に王宮を発ったアルフォンスはメルクス辺境伯領を拠点とし主に他国との外交に力を入れた。


 あえて辺境に居をかまえ、中央との関わりは最低限にしていたのだが、国王夫婦がやらかす度に王太后から脅迫紛いの要請を受け、国王夫婦の尻拭いに奔走する羽目となる。

 尻拭いの中に国王が行うべき政務が紛れ込ませてあるのも、王宮へ戻る度に元老院議会に参加させられていることの理由なども、とうに分かっていた。

 断りたくとも、アルフォンスが動かなければ王太后も動かない。狡猾な母親だと思うが、このままでは十年後には国が傾く。



「せっかくの夜会なのにさ、殺気を撒き散らすなよ。また、呼び出しか?」


 不機嫌さを全く隠さず、令嬢達を近寄らせないように見えない壁を築いていたアルフォンスへ、普段の騎士服ではなく燕尾服姿のカルサイルは歯を見せて笑う。

 正反対な雰囲気を放つ二人の親しげな姿に、遠巻きに様子をうかがっていた令嬢達が色めき立った。


「また、王妃がやらかしたらしい。母上から王宮へ戻って“説得”するように頼まれた」

「説得?」


 何だそれはと問うと、アルフォンスは眉を寄せ眉間に皺が寄る。


「あの女に媚びて我儘を諦めさせろ、だと。国に牙をむく毒蛇などさっさと始末してしまえばいいものを。くっ、今から鍛練場へ行き、憂さ晴らしをしたいくらいだ」

「……後で好きなだけ鍛練に付き合うから今は堪えろよ。これも仕事だろ」


 はぁ、と息を吐いたカルサイルは、今にも暗殺を企てそうな暗い殺気を纏うアルフォンスの肩を軽く叩いた。

 気持ちはわからんでもないが、多くの目と耳があるこの場での発言は気を付けてもらわないと困る。

 会場を見渡したカルサイルは、ホール中央で踊る男女の隙間から見える、女性と談笑している男性を顎で示す。


「ほら、あれがハルセイン伯爵だ。学生時代からの王妃の取り巻き、愛人の一人だという噂がある」

「連れているのは何者だ?」


 アルフォンスは伯爵の後ろに立つ、フリルで飾られたドレスを着た顔立ちに幼さが残る少女を見やる。


「奴隷の首輪をしているから、あの少女は伯爵の愛人だろうな」

「少女?」


 違和感を覚えたアルフォンスは、少女の頭の先から足元までじっくり見て、目を細めた。


「あれは男だぞ。王妃の取り巻き連中は揃って悪趣味だな」


 鼻で嗤えば、カルサイルは「はぁ?」とすっとんきょうな声を上げた。


手直しは後程。

ただ今、仕事がめちゃくちゃ忙しくて更新が停滞しています。連休は出張です。あちゃー(°∀°)


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