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20.ヒロインだったはずの私②

王妃リリア視点の続きです。

 王太子妃となり五年ほど経ったある日、ヘリオットから告げられた内容に、リリアは驚きのあまりティーカップを取り落としそうになった。


「アルフォンスに婚約者を?!」

「アルフォンスも十三歳、王族としては婚約を結ぶのが遅いくらいだ。リリアがアルフォンスを気に入っているのは知っているが、これはもう決定したことなんだ」


 体調を崩した国王の代わりに政務をこなしていたヘリオットは、用件だけ告げると側近達に急かされ部屋から出ていった。


「アルフォンスに……」


 ギリッ、奥歯を噛み締める。

 成長期に差し掛かったアルフォンスは、背も伸び始めたがまだ少女のような可憐さは失われておらず、中性的な線の細い美少年となっていた。

 前世で夢中になっていた、とあるアニメの主人公とアルフォンスの姿が重なり、何かと理由を付け彼を呼び出しては茶会や散策に付き合わせていたリリアは、扇を握る手に力を込める。


(だから最近は呼び出しても、忙しいと言って来てくれなかったのね! アルフォンスに婚約者だなんて、駄目よ!)


 前世、様付けまでしていた推しキャラと良く似た、可愛い可愛いアルフォンス。

 彼を傍らに置いておきたい。彼が攻略対象キャラだったら真っ先に攻略したかったのに。いっそのこと、彼の初めてを奪って男にしてやろうか。

 リリアの中に、沸々と歪んだ欲望が沸き上がってくる。


 王太子妃となってからのリリアは、欲しいものは我慢せず手に入れてきたのだ。アルフォンスに対する欲を我慢するなど、出来るはずはなかった。


 翌日、王家に伝わる媚薬をヘリオットを唆し手に入れ、婚約者候補の侯爵令嬢へは牽制のため刺客を送り込んだ。

 計画では、媚薬を“誤って”飲んでしまったアルフォンスが苦しんでいるところを、“偶然”出会したリリアが優しく介抱してあげるつもりだった。

 ところが、アルフォンスはリリアの手を振り払い必死で逃げて、自室へ鍵をかけ閉じ籠ってしまった。

 一方、侯爵令嬢が乗った馬車は思惑通りに“運悪く”賊に襲われた。馬が暴れて横転した馬車から投げ出された令嬢は、全身を強く打ち命を落としてしまう。

 顔に傷がつけばいい程度に思っていたリリアは、この結果に少々胸を痛めたが数日後にはそれどころでは無くなった。

 もっとショッキングなことを知り、侯爵令嬢の死は上書きされてしまった。

 王妃の口から、媚薬を自力で抜いたアルフォンスの同盟国への留学が発表されたのだ。


「婚約者の侯爵令嬢を亡くし、アルフォンス自身も何者かに毒を飲まされました。このままではアルフォンスの命が危ないと判断し、陛下とわたくしの二人で留学を決めました。貴女が何を言おうとも無駄です」


 反対意見はバッサリと王妃に切り捨てられ、十日後にはアルフォンスは留学のため同盟国へ行ってしまった。


 この頃からだった、リリアの思惑通りにいかないことが増え出したのは。

 茶会や舞踏会の開催、ドレスや装飾品までも王妃から口出しされるようになり、リリアの中で鬱憤が溜まっていく。

 王妃と王太子妃の不仲は貴族内に知れ渡り、リリアの立ち振る舞いに眉を顰めていた社交界に影響力を持つ貴族女性からは敬遠され、社交も上手くいかない。


 最たるものは、息子ヘンリーの婚約者を義両親に決められたことだった。


「お義母様! ヘンリーの婚約者を決めたとは、どういうことですか?! ヘンリーには私のように恋愛結婚をして欲しいのですっ!」


 相貌に涙を浮かべ、リリアは両手を胸に当てて反対だと訴えた。ヘリオットならば、直ぐにその訴えを聞き入れてくれただろう。だが、王妃は鼻で嗤った。


「恋愛、ですって? 臣下や他国とよりよい関係を築くための政略結婚は王族の義務です。特に、ヘリオットの行いで王族に失望して離れてしまった臣下の信頼と忠義を取り戻すため、こちらも誠意を見せねばなりません」

「でもっ」

「母上、そのような言い方は、」

「ヘリオット、貴方は黙っていなさい!」


 王妃に睨まれたヘリオットは、唇をきつく結んで俯く。

 椅子に座り静観していた国王は、椅子の肘掛けを支えにして立ち上がり口を開いた。


「そなたが騒ごうと覆ることはない。ヘンリーの婚約者は、カストロ公爵令嬢に決定した」

「カストロ公爵?! あの、シャーロット様の従兄弟じゃないの?!」

「仕方あるまい。シャーロット嬢との婚約を一方的に破棄したことで、トレンカ公爵家とカストロ公爵家は王家から距離を置いてしまった。両公爵家との繋がりを強くするために、これは必要な婚約なのだ」


 病に蝕まれてもなお威厳を失わない国王へ、さすがのリリアも言い返すことは出来なかった。


 正式にヘンリーの婚約者となったシュラインは、王妃教育を受けるために頻繁に登城し、義母からの評価を上げていく。

 国王が病に倒れ、ヘリオットが国王に即位してからも王太后が目を光らせているせいで、リリアは王妃としての責務と窮屈な思いを強いられていた。




「気に入らないわ」


 デビュタントの貴族子息、令嬢達のために開催した舞踏会。

 婚約者としてヘンリーの傍らに立つシュラインは、かつてリリアが王太子の婚約者の座から蹴落としたシャーロットそっくりの容姿をしていて、彼女を見ていると気分が悪くなってくる。

 留学から帰ってきたアルフォンスも舞踏会には参加しているのに、彼の周囲には護衛とダンスの順番待ちをしている令嬢達が群がり、近付くことも出来ないでいた。

 ヘリオットの横に座り挨拶は済ませ王妃の仕事は終わっている。媚を売りに来る貴族の相手をしながら、アルフォンスとヘンリーが令嬢達とダンスをしているのを眺め続けるのは、苛立つ上に退屈だ。


「疲れたから」とヘリオットへ退席する旨を伝え、リリアは立ち上がり出入り口へと向かう。

 出入り口へ向かうリリアへ、貴族達は会釈をして道を譲る。

 その光景に満足して口角を上げたリリアの耳に、一人の令嬢が漏らした言葉が届いた。


「あーあ、ビールとか日本酒を飲みたいなぁ」


 はたっと、リリアの足が止まる。


「貴女、今何て?」


 デビュタントの証の花の髪飾りを付けた令嬢の肩を掴む。


「お、王妃様っ、ご機嫌麗しく、」

「そんなことはどうでもいいわ。貴女、今日本酒って言ってなかった?」


 令嬢の瞳が大きく見開かれ、可愛らしい顔が驚愕の表情となる。

 それが、転生者アリサとの出会いだった。



 男爵令嬢アリサを自室へ招き、前世の話をしていくうちに彼女はリリアにとって都合の良い相手だと分かった。

 男爵令嬢とは名ばかりの庶子。さらにアリサは、恋愛ゲームの知識はほとんど無かった。

 前世、数多くの恋愛ゲームを楽しんだ記憶を活用し、ヘンリーをアリサに夢中にさせる。そして、卒業までにカストロ公爵令嬢シュラインを悪役令嬢に仕立てて、ヘンリーの口から婚約破棄を宣言させ新たな婚約者にはアリサを据える、という計画を二人で立てた。


(婚約破棄までは上手くいっていた。どこから上手くいかなくなったの? アリサがアルフォンスに興味を持ってから? 用意したシナリオ通りに動かなくなってから?)




 ガチャガチャ、ガチャリッ


 静かな室内に扉の開閉音が響き、リリアは音を立ててソファーから立ち上がった。


「アルフォンス!」

「貴様の処刑を執行する日が決まった」


 笑みを浮かべ、アルフォンスへ駆け寄ろうとしたリリアは固まる。


「それまでの日々、懺悔と後悔で苦しみ抜くがいい」


 無表情のまま、アルフォンスは吐き捨てるように言い放った。


「私としては公開処刑にしたいところだが、公開処刑では未だに身分差を愛の力で乗り越えた王妃として、貴様を神格化している市民の一部が騒ぎだすだろう。そして、優しいシュラインが気に病んでしまうかもしれない。よって、処刑場所は王宮内の競技場だ。アリサという女も、一緒に処刑されるから寂しくはないだろう。対外的には病死にしておく。兄上には病んだ心を癒すため辺境で静養していただくつもりだ」

「嘘、嫌よぉっ!」


 悲鳴を上げてアルフォンスへ突進しようとするリリアを、二人の騎士が前に出て阻止する。


「嫌よっ! 処刑だなんてっバッドエンドじゃない!」

「バッドエンド? 犯した罪は償わなければならぬ。ただそれだけだ」


 金切り声を上げて髪を振り乱して暴れだしたリリアへ、アルフォンスは侮蔑の眼差しを向けた。


リリアさんの思考がアレ過ぎてつらい(°∀°)

次話も別視点となります。


誤字報告ありがとうございますm(__)m

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