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15.強欲な彼女

嫌な気分にさせたらごめんなさい。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、一瞬意識が遠退きかけた。リアムに顎を掴まれたまま、シュラインは顔を左右に動かす。


「な、何を言っているの? アリサ様がアルフォンス様と結ばれるだなんて、許されるわけないじゃない! 彼女は王太子の、ヘンリー殿下の婚約者なのよ!」


 元老院が認めた王太子の婚約者、シュラインから略奪したのでさえ顰蹙を買ったというのに、王太子の現婚約者となったアリサが既婚者の王弟へ鞍替えするなど、姦通罪で捕らえられるどころじゃない。王族に対する反逆罪で、彼女の一族は処刑されるだろう。


「よく分からないけれど、婚約破棄はしなくてもアル様とも繋がりたいんだって。逆はー、とか言っていたかな? アリサ様は、王太子殿下よりアル様の方が大人で格好いいんだってさ。それに、王太子殿下は下手くそで、アル様の方が上手そうだからだって。理由が酷いし怖いよね」


 笑いを堪えて話すリアムとは違い、シュラインの顔からは血の気が失せていく。アリサの考えはとんでもないが、彼女が言っていた“逆はー”の意味は、まさか……


(逆はーとは、逆ハーレムのこと?! まさかアリサは、わたくしと同じ、前世の記憶があるの?! 逆ハーレムを作るようなテンプレヒロインなら、アルフォンス様は?!)


「わたくしを解放してください」


 先ほどとはうって代わり、真っ直ぐリアムの目を見るシュラインの顔色は悪いままだが、体の震えは治まっていた。


「何故? 僕が?」

「貴方はアルフォンス様を好いているのでしょう? このままアリサの好きにさせて良いの?」

「解放は出来ないなぁ。上手くいったら、アリサ様は僕を愛人にしてくれるって約束してくれたんだ」

「愛人って、どっちの?」


 アリサが約束したのは、彼女の愛人なのかアルフォンスの愛人なのか。逆ハーレムを本気で作る気ならば、もしや彼女はリアムも攻略したのか。

 嫌悪感でシュラインの体は鳥肌が立つ。

 顔を顰めるシュラインに対して「さてね」とリアムは首を傾げた。


 バタンッ、ギィィ……

 ゆっくりと扉が開き、ジャケットを脱いだニコラスが部屋へ入ってくる。


「さぁ、お喋りは終わりだよ。今から奥様は彼に凌辱されなければならない。なるべく痛くしないようにしてもらうし、僕も手伝う。嫌なら薬を使って気持ちよくしてあげるから、抵抗はしないでね」

「なっ、絶対に嫌よ! 冗談じゃないわっ!」


 体を捻って逃れようとするシュラインの肩を掴み、リアムは彼女の体を床へと押し付けた。




 ***




 大事な話があると、甥のヘンリーから呼び出されたアルフォンスは国王一家の居住区画へやって来ていた。

 正直な話、この区画には足を踏み入れたくもなかった。とはいえ、母親と現婚約者に振り回されている哀れな王太子のお願いを断るのもどうか。

 王太子の私室へ入室させるわけにはいかず、護衛のフィーゴは隣室で待機させている。アルフォンスはジャケットの内側に忍ばせた懐刀へ触れた。

 約束の時間を過ぎても、呼び出したヘンリーは姿を現さない。代わりに、アリサがアルフォンスの側に張り付いていた。


(これではシュラインに逢いに行くのが遅れる。今夜は……兄上と話をするため、無理だな)


 卓上時計で時刻を確認したアルフォンスは舌打ちしたくなった。


「ヘンリーはどうした?」

「もうすぐ、いらっしゃいますわ。それよりもおかわりはいかがですか?」


 ティーポットを手にしたアリサがティーカップへ紅茶を注ぐ。

 距離が近くなったアリサから香る甘ったるい香りが鼻をつく。

 香りを振り払うために、ティーカップを手に取ったアルフォンスは中身を一気に煽る。

 アルフォンスが紅茶を全て飲み干すのを、アリサはじっと見詰めていた。


「っ?!」


 叩き付けるようにティーカップをテーブルへ置き、ガシャンッと派手な音を立てる。

 険しい目付きになるアルフォンスを見て、アリサは嬉しそうに笑った。


「お前、何を盛った?!」

「ウフフ、気付くとは流石ですね。紅茶に入れたのは、王家に伝わる媚薬です。ご存知でしょう」


 白い腕を伸ばしたアリサは、喉を押さえるアルフォンスの肩へ触れる。


「この媚薬には即効性があるって聞いたわ。ねぇ、私が欲しくなってきたでしょう?」


 クスクス笑いながら、アリサは苦し気に上下する胸を指先で触れる。


「お前など欲しくない。私が欲しいのは、」

「言わせないわ」


 首に腕を絡ませて、抱き付いたアリサの唇がアルフォンスの唇を食むように塞ぎ、続く言葉を口腔内に封じる。


「くっ」


 滑らかでやわらかな女の肌の感触が、アルフォンスの力の入らない体にとって甘く痺れる毒となり襲いかかる。

 抱き付くアリサを押し退け、椅子から立ち上がるも媚薬に侵され始めた体では体重を支えきれず、力が抜けた膝から崩れ落ち絨毯へ倒れてしまった。


「抗わないで」


 片膝をつくアルフォンスの背中へ、妖艶に笑うアリサが抱き付いた。

 抱き付くアリサを振りほどこうとする、アルフォンスの力が入らない手を握り、息を荒くして汗ばむ彼の首筋へアリサは唇を押し当てた。


「ウフフ、私が欲しいんでしょ?」


 背後から耳元へ、息を吹きかけたアリサは甘ったるく囁き、首筋から指を這わせていきアルフォンスの胸元へ伸ばす。


「離せっ」


 プツリ、プツリと細い指先がジャケットを、次いでシャツの釦を外していく。


「アルフォンス様が私を抱いてくれたら、やって来たヘンリー様と侍女達が証人になってくれるの」


 密着させたアルフォンスの背中に胸を押し当てるようにして、アリサは釦を外したシャツから見える彼の肌へ触れた。


「ねぇ、アルフォンス様。我慢しないで、正直になりましょう? 私を抱けば、私の方がシュライン様よりイイと分かるわ」


 顔にかかるアルフォンスの髪を掻き分け、耳朶へ口付けながら優しく囁いた。


「くっ、私と体を重ねたら、貴様は姦通罪で処刑されるぞ。シュラインから奪い取った、ヘンリーとの婚約を破棄するつもりか」

「えぇー? やっぱり、ヘンリー様との婚約を破棄したら罪に問われるなら、じゃあそのまま結婚するしかないのね。そうだわ!」


 唇を尖らせていたアリサは、ニヤーッと三日月のように目を細めた。


「皆、私の恋人になればいいじゃない。私は皆から愛されるし、皆分け隔てなく、貴方も皆と同じように愛することが出来るわ。だから、一緒に気持ちよくなりましょうよ」

「貴様っ」


 憎々しげに睨むアルフォンスの唇へ口付けようと、アリサはゆっくり顔を近付けた。



シュライン、アルフォンス様ピンチ(+_+)

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