9.受付嬢ラウラ
~受付嬢ラウラ~
わたしはラムルカの街の冒険者ギルドの受付嬢、19歳になったばかり。
この街は兵士と冒険者の街。
そのせいか娼館がとても多く、綺麗な人もいっぱいいる。
その中でギルドの受付嬢をやっていると、手に届くかもしれない華みたいな感じでとてもチヤホヤされる。
悪い気はしない。
一緒に働いていた2人が辞めてしまったので、毎日倒れそうなほど働いていて今は泣きそうな日々。
ある日変な子供がギルドに入ってきて、凄く見つめられた。
ちょっとカワイイ。
お姉さんにドキドキしちゃったのかしらと思ったら盛大に吐いて倒れたわ。
「えぇぇぇぇっ!」
放っておくわけにもいかないので仮眠室に運んで、吐瀉物の後片付け。
何で私こんなことしてるのかしら。
子供が唸っていたので、声をかけてみる。
「ねえ、ねえってば。」
なんかイライラが増す返事をされた。
何この子。
ちょっと話してみると素直にお礼を言われたわ。
リクという冒険者志望の子で年齢に関して嘘をついてきた。
性格悪いかも。
内心ムカッとしてたら「お姉ちゃん」って呼ばれた。お姉ちゃん。
ドックーン!
心臓がビクってはねたような気がしたのは、もちろん気のせい。
読み書き計算ができるって言ったのを聞いて、もう藁にもすがる思いでキープ。
お姉ちゃんって呼ばれたのは関係ないから。ないから。
ちょっとうるさくしてたらギルマスが下りてきたの。
そうしたら変態って騒ぎだした。
ギルマスが変態?普通の獣人族よ。
獣人族を見るのも初めてだったらしく驚いたらしいの。
記憶がないって話だけど、獣人族の記憶が全くないのかしら?普通にいるのに。
ギルマスの許可も下りたし、人手が足りないって言っていたアデーレさんのところに相談。
今日の晩御飯を食べさせてもらえるようにお願いしに行く。
行く途中もとっても可愛くって、うちに住ませてもいいかと思ったくらい。
アデーレさんのところで住込みで働くことになったわ。よかった。
でも日中はどうしてもギルドで働いてほしいので、アデーレさんと調整。
これで少しは楽になるといいなぁ。子供に期待している時点で終わってるのよね。
今日はギルドの仮眠室を貸してあげることにしたから、仕事が終わったら迎えに行ったの。
ギルドへの道を覚えてもらわないと困るからね、他意はないわ。
帰り道もカワイイ。ちょっとまずいわ、私の中の何かが壊れそう。
めちゃくちゃ琴線にふれてくる。
フロントの手伝いをしてもらおうと思っていたら、話し合いの結果、解体班に取られてしまった。
解体から借りているヨハンを、職員が入ってくるまで正式にフロントへ。
リクは解体がないときのお手伝いになってしまった。残念。
フロントの手伝いをしてくれる時はかなり役にたってくれている。
書類整理もできるし、計算なんて私より早いかもしれない。
凄い拾い物だわ、この子。
ギルドへの正式雇用を勧めたけど断られてしまった。悲しい。
リクがルーカスを休みになる前日はたまーにうちに泊まらせる。
1回だけ一緒に湯あみをしたら真っ赤になって2回目からは入ってくれない。
かわいいのに。
リクは甘えんぼというより寂しがり屋だ。
1人が嫌なわけではなさそうだけど、他の人といるときはとことん一緒にいたがる感じ。
ご飯を作るときも一緒に作りたがるし、夜寝るときは手を繋いでいいか聞いてくる。マジやばい。
朝起きると大体私が抱きしめているので、苦しそうに寝ている。
一緒に朝ご飯を作って、ギルドまで手を繋いで送ってくれる。ムッフー。
リクが泊まった翌日の私はとっても艶々していると、宿直明けのテーゼに言われた。
ギルドにやっと人が入ってきてくれた。
アロイスはこの街で活動していた元Bランク冒険者。
Bランクまでいった凄い人なんだけど、私がギルドに入ったときから知っているからそういう感じがない。
30年やっていたパーティが解散になったので、それを機に引退をしてギルド職員に。
副ギルドマスターになって将来はどこかのギルマスになる予定。
彼に育てられた冒険者も多いから、みんな言うことを聞く。
凄くやりやすくなった。
もう1人はマリー。孤児出身で私がギルドに入った時の年齢より2歳若い。
この子も読み書き計算ができるからということで孤児院より紹介された。
リクに比べればまだまだだけど、覚えるのも早く素直でいい子だ。
正式雇用は問題ないだろう。
今は孤児院から通っている。
2人が入ってきてギルドにも余裕ができたと思ったら、リクが変なことを言ってきた。
「王都に行こうと思うんだけど。」
子供が行けるわけないでしょって言っても全然聞かない。
バカみたいなかっこで暴れている。
恥ずかしいからやめてほしい。
仕方がないので、Gランク試験に受かったらっていう条件をつけた。
受かるわけないんだから。
元々人が入るまでの手伝い予定だったので、冒険者見習いとして仕事をさせるようになった。
解体も上手なので結構評判がいい。
一回Bランクの冒険者にお願いをして様子を見てもらった。
決して過保護ではないから。
返ってきた答えは問題なくGランクになるだろうと。
特に採取の感がとてもいいらしい。
たまに訓練を見ているアロイスにも聞いてみた。
「ねえ、リクはどんな感じなの?強いの?」
「強いな。同年代だとまず負けないだろう。Dランクでも相手にならないかもしれない。」
「そんなにっ!?」
かなり驚いた。あの子が戦うところなんて見たことないけど、Dランクは一人前の冒険者と認めれらるランクだ。
「魔法抜きなら冒険者の中でも上位クラスだな。
剣筋が凄い綺麗なんだよ。どこで学んだんだろうな。ただ、実戦経験は乏しいように感じる。
それも慣れてきたから、剣だけなら俺も勝てないかもしれない。」
「嘘でしょう?」
アロイスに勝てるかもしれない?それこそ信じられない。
「その上で魔法を使った戦い方を覚え始めたからな。手加減できなくなってきた。
あいつのジョブ知ってるか?」
「確か忍者だっけ?希少なジョブすぎてあまり知られていないわね。」
めったにいないジョブなので、現役冒険者でも1人いるかどうか。
「俺も初めて戦ったんだが、あのジョブはかなりヤバい。
口から魔法が出せるっていう意味不明なジョブだとしか思ってなかったんけどな。
剣で押し合いしてる中で口から魔法が飛んでくるし、口から飛んでくると思ったら手から出てくるし。
詠唱されるとクセで手を見ちゃうんだよ。それを分かったうえで詠唱・無詠唱まで使い分けてやがる。
あれは対人戦ではかなり危険だ、戦争向きだな。」
「魔法の使い方も上手なのね。」
「使える系統は普通だが、教えた魔法も即効で使えるようになってるな。
センスがいいというか、頭がいいというか。」
「あの子は頭もいいわね。私より計算早いし、ミスもほとんどない。
記憶なくす前はどういう子だったのかしら?」
「わからんがな。天才とはああいうのを言うのかもしれないな。
もしかするとリクは将来Sランクに届くかもしれない。
俺が見てきたなかでも、断トツだ。」
「Sランク……。」
Sランクは英雄クラスだ。
現役では世界に2人しかいなかったはず。
冒険者の多いこの街でもAランクが最高で、それでも国どころか世界のトップレベルの冒険者なのに。
「Gランクは間違いなく合格するだろう。ラウラには残念かもしれないが。」
「うん……。」
素直に残念だと思う。
できればこの街で冒険者をやってほしいとも思う。
この仕事をしていると出会いも別れもとても多いけど、別れるのはやっぱり寂しい。
リクはきっと行っちゃうんだろうな。
試験当日の朝が来た。
リクは緊張のかけらもなく、いつも通り。
いつも通り過ぎて心配しているこっちがバカみたい。
本当に大丈夫かな?
みんな問題ないって言ってるけど、ケガだけはしないで欲しい。
試験は3日の間に課題をこなすこと。
8時の鐘で始まる。
12時の鐘がなって、しばらくしたらリクが戻ってきた。
何かあったのかと心配になった。
「ラウラお姉ちゃん、マリー、終わったよ。」
「は?」
ギルマス、アロイス、私、と試験に立ち会った冒険者でリクの試験結果を確認。
冒険者から報告がある。
「すべての課題を難なくこなしていた。あの年であそこまでやれる奴はいない。
あの子は何者なんだ?」
「我々にもわからない。ある日ふらっとギルドに入ってきた。
知っていることは記憶をなくした子供ということだけだな。
リクをこの街に連れてきた冒険者も、この子は記憶がないと言っていた。」
「採取も討伐も、最初から位置が分かっているかのようだった。
探索魔法持ちか?魔法の発動は見えなかったが。」
「魔法に関しても、かなりのセンスがあると思う。
一般的な系統以外は使ったのは見たことはないから、探索魔法は使えないと思うが。」
「とにかく、落とす理由がどこにもないな。GどころかDランクくらいにしてもいいくらいだ。」
「規則上それは無理だ。残念だがGランクの見習いにしかなれない。」
「まあ、放っておいても勝手にあがってくるだろう。将来の英雄候補だ。」
異論なんて出ることもなく、リクは合格した。
英雄の器。
ギルドがリクに出した評価だ。
本当に凄かったのね、リク。
他人視点と外から見た評価
最初から俺ツエ―で来ているので、他人の評価も最弱スキルとか無能レッテルとかにはしない。