8.魔法と試験
時間があるときに仲良くなった冒険者に魔法や剣技を教わる。
魔法陣の作り方も教えてもらった。
「魔法を出す瞬間に、魔法ではなく魔法陣を出すと作れるんだよ。」
「魔法陣ってすでに出てるよね?」
「すでに固定化された魔法だからだな。
オリジナルを作る場合はまず固定化を目指す。固定化しなくてもいいんだが制御がめんどくさいからな。」
「固定化のやり方は?」
「魔法を発動する瞬間に止めて魔法陣を出す魔法に変換することだ。」
「練習方法とかないのかな。」
「あるぞ。既存の固定魔法を魔法陣を出した段階で止める。
これができれば、感覚が分かるらしいんだが難しくてな。俺もそうだが大抵の奴はできない。
歴史の中で少しずつ汎用化魔法を固定化してきたものを使っている感じだな。」
一度固定化してしまえば体が覚える。
正確には体内の魔力に記録される。
おそらく明石さんに追記されているだろう。
記録した魔法が使えるかは、自分の魔力がその魔法陣を使うだけの質量を満たすことと、魔法本体のイメージをできるかどうかにかかっている。
魔法陣を習得する方法は2つ。
1つは発動者から魔法陣を渡してもらうこと。
魔法陣に触れることで受け渡しが可能なので、固定化のできる人はそのまま渡すことができる。
もう1つは魔法陣の記録された魔法紙から習得する。
ギルド、教会、学校などの公共施設であれば基礎魔法が置いてある。
無料のものもあれば、有料もある。
あとは魔法屋で買うことだ。
汎用性の高いオリジナル魔法を作れれば、魔法紙の手数料で一儲けすることも可能だ。
魔法を作る、固定化する、魔法紙に魔法陣を記録する、一般受けするなどハードルは高い。
「オリジナルの魔法とか持ってないの?」
「あまり必要性がないんだよ。」
ファイアーボール、よくある火の玉を飛ばす魔法だ。
これだけで何種類とあるそうだ。
サイズ・温度・数など。
ある天才が魔法の固定化を作ったその時代に、色んなバリエーションの魔法が固定化された。
それから約千年後、また一人の天才が現れた。
彼は魔法陣に穴をあけ、魔力による調整で威力などのコントロールを可能としたのだ。
これによりファイアーボールであれば1つの固定魔法でサイズ・温度・数などを調整できるようになった。
ただ、これらを同時にコントロールするのは結構難しい。
そのため魔法の使い方は、1個の魔法陣ですべてやってしまう人、ある程度に固定化しサイズや数だけを調整可能にした魔法を使う人、完全に固定化された状態で使う人の3パターンに分かれる。
攻撃魔法で一番多いのが完全固定、生活魔法はある程度の固定、建築や鍛冶などの職人が使う魔法は調整可能なものが多い。
冒険者が固定化された魔法を好むのは魔力の残量把握や基礎戦術の構築がしやすいからだ。
「俺が考えられる魔法なんて、大体もう誰かが作ってる。」
「なるほど。」
「あとは、上のランクになるとアイデンティティとしてオリジナル魔法を持つ奴がいるな。炎帝なんかそうだ。」
都市国家連合にいるSランク冒険者で炎帝という異名を持った冒険者がいる。
彼のオリジナル魔法が"炎龍"という高火力の炎の龍を出す魔法だそうだ。
この炎の龍は別に意思があるわけではないので、ファイアーボールとの違いは特にない。長細いからファイアーキュウリにしても結果は一緒だ。
ただ見栄えもよく、ランクも伴って低ランク冒険者の憧れの的になっている。
魔法陣の仕組みは魔道具にも使われている。
魔道具は人が覚える魔法陣と違い、魔道具そのものに属性まで付与するため作る側にも技量を求められる。
属性を付与しなくても作れるが、使い手がその属性の魔力を流さなければならない。
属性付きであれば魔力を通すだけで魔法の利用が可能となるが、魔道具側の属性が切れると補充する必要がある。
電池みたいなものだ。
火を起こす魔道具は火属性が付与されているが、属性が空になったら、火属性の魔力を流すか再度火属性を充電しなけらばならない。
魔物が落とす魔石を利用しても発動は可能だ。
魔法の固定化はあっさりと成功した。
魔法陣という魔法を出すというイメージが最初からできたからだ。
新しく魔法も作っていく。
探索の魔法だ。
固定化されてそうなんだけど、無料の魔法紙の中にはなかった。
鑑定とかも教わっていないから、お高いのかもしれない。
ギルドこそ鑑定や探索なんか無料で配布すべきだと思うけど。
探索の有効範囲を調整できるようにしたけど半径20メートルくらいが森での限界。
魔力的な問題ではなく情報量の問題。
この魔法も最初はやらかした。
いきなり森では実験は怖いので、東側の安全地帯で明石さんに範囲の名前と位置を聞きに行く。
「おげえぇぇっぇぇぇっ」
砂の一粒まで探知の対象に適用されたため、吐いて気を失った。
衛兵さんが倒れたのを見て門の近くまで運んでくれたみたい。
引きずって。
復活後、明石さんに調整をかけていく。
無機物を除く、魔物のみに絞るなど色々考えた。
結果、使い勝手がいまいちの魔法になってしまった。
魔物のみに絞った場合、アリやハチの魔物が大量にいると同じ事がおこる。草でも同じ。
まず、範囲内の生き物をグループ化して数を取得。
人類が未知の生き物は植物、魔物といった大きな単位で1グループにする。
結果が少なければ次に魔物サーチや植物サーチをかける。
多い場合は対象さらにを絞りこむの繰り返し。
しかも移動しながらでは使えない。
歩きながら常に発動し続けることが単純に難しいのだ。
魔物のいる世界でのスマホ歩きに近い。
ピンポイントにしぼったサーチでは意外と使えることが分かった。
素材採取と周囲の安全確認の補助的な魔法かな。
いくつかの探索魔法を固定化しておいた。
魔法だけでは接近戦に弱いので、剣技も必須になる。
剣技については、小刀と脇差の戦い方は最初から取得済み。免許皆伝、達人の領域。無手も同様にいける。
ただ、この世界で同じような刀はなかったので、片手剣を両手で持って使っている。
訓練場で対人の実戦形式にも慣れていく。
冒険者になるなら対人戦闘も必要になるから、やるべきとのこと。
刀の戦い方はマスター済みでも、そこに魔法が加わってくるとまったく別物になってしまう。
魔法はケガをしないように水と風のみ。訓練用の安全な攻撃魔法も固定化されていた。
固定化便利すぎ。
アロイスさんともたまに打ち合う。
力では敵わないので受け流しつつ速さで対抗していく。
剣を使いながら魔法を使おうと思って、手を出そうとすると腕を切られる。
腕を切られないように意識すると力で押し込まれる。
相手の魔法を意識しても剣で切られるし、剣に集中すると魔法にやられる。
「うがぁーーー、難しい!!」
「剣を使いながら何も考えずに手を出したら、切られるに決まってるだろ。
タイミングを考えろとはいっても、こればっかりは経験だからな。間を覚えることと魔法を感じとること、この2つが重要だ。」
「魔法って感じ取れるの?」
「意識したことないか?魔法を使おうとすると魔力が集中するだろ。
そこを叩くと魔法の発動を止められる。わずかでも違和感を感じ取れるようになっておけ。」
なるほど、見るだけでなく感じることも大事と。
「よっしゃ、もう一度!」
その日初めてアロイスさんから1本取れた。
口から魔法使ったけど。これはジョブスキルだからセーフ。
トイレ掃除、狩、解体、戦闘訓練、魔法研究、皿洗い、トイレ掃除をしているうちに半年が過ぎ11歳になった。
いよいよGランク試験が受けられる。
試験の当日マリーが朝から来ていた。
「応援にきたよー。」
頭をなでてくる。
マリーはいつも俺を子供あつかいする。
「1歳しか違わないんだから、頭をなでるなー。
マリーだって昼寝の時にテーゼさんに抱き着いて寝てるくせに。俺だってモフモフさせてもらったことないのに。ないのに!」
ぐぎぎ、くやしい。
「なっ、なんでそれを!」
真っ赤になってる。
「いいもんね。俺だってラウラお姉ちゃんと一緒に寝たことあるし!」
「ちょっと、誤解をまねく言い方やめなさい!」
「ラウラお姉ちゃんはな、歯ぎしりが凄いんだぞ。」
ゴツン!
げんこつが飛んできた。
「ぐおぉ。」
頭を抱える。
そのあと2人がかりでめっちゃ怒られた。
「まったく、あんたは試験当日なのに何でそんななのよ。」
「リク、本当に大丈夫なの?」
マリーが心配そうに聞いてくる。
「うん。大丈夫、まかせて!」
「無理して受からなくていいんだからね。」
「大丈夫だって。それじゃ行ってくるね。」
2人に激励されたので、やる気がでてきた。
試験は3日以内に特定の野草採取とウルフかレッサーボアを2匹ソロで狩ること。
試験官はBランクの冒険者。
あの人のところで手伝いしたことあるな。見られてたかな。
武器はギルドから借りた片手剣。防具は忍者装備。
サクッと探索魔法で野草の位置を特定。
必要な量だけ採取して、ウルフかボアをサーチ。
ウルフが1頭いたので、風上に回り込んで素早く動脈を切る。
子供の力だけでは無理なので体に魔力を通して肉体強化は当然している。
絶命を確認して、森の外に運ぶ。
再び森でサーチ。
いないので範囲を広げてウルフとボアでサーチ。ボア発見。
慎重に近づいていったけど見つかってしまった。
突っ込んできたけど、焦らずに引き付けて軸足に向けて風魔法を放つ。
バランスをくずして倒れたところを同じように動脈を切る。
頑張って森の外に運んで試験官を見る。
「文句ないというか凄いな。今すぐDランクでも通用するだろう。」
「じゃあ合格?」
「正式発表はギルドに帰ってからだけどな。」
「とりあえず魔物を解体しちゃうね。魔石と持てる分のお肉。半分持ってください。」
さくっと解体して持ちきれない部分は焼いて骨を埋める。
「めちゃくちゃ手際いいな。正式な冒険者になったらうちのグループに入らないか?」
「ありがたいけど、王都でやることあるからね。」
会話しながらギルドに戻る。
「ラウラお姉ちゃん、マリー、終わったよ。」
「は?」
こうしてGランクの仮免を取得した。
魔法陣について
Gランク試験