7.冒険者見習い
ギルドに人が入ってきた。
元冒険者はアロイスさん、見習いの子はマリー。
俺にも後輩ができた。
先輩として鍛えなくては。
「マリー。俺は厳しいからな。ビシバシいくぞ。」
「あんたは職員でもないでしょ。一番下っ端よ。」
「そうなの!?」
「もう、この子はリク。仲良くしてあげてね。」
「よろしくな、坊主。」
「よろしくね。リク。」
「よろしく。アロイスさん、マリー。」
人が増えてギルドにも余裕がでてきた。
ミスが減り、仕事の効率もあがってくる。
解体も元の体制にもどったので、少し難しい解体も手伝わせてくれるようになった。
ルーカスの方も順調だ。
トイレ掃除も皿洗いも手慣れたものだ。
最近は仕込みの手伝いやサラダを作ったりもしている。
そんな感じで冒険者生活を始めて半年が過ぎた。
「あれ?冒険者生活?」
何もしていなかった。
俺はある目的を果たすため、わざわざ10歳にしたのだ。
王都に行かねば。
まず相談。
「王都に行こうと思うんだけど。」
「子供が1人で行けるわけないでしょ。領都ですら馬車で急いでも7日もかかるのよ。」
「全然大丈夫!」
「なにが大丈夫なのよ。無理に決まってるでしょ!」
「ラウラお姉ちゃん。おーねーがーいー!」
仰向けで手足をバタバタさせて駄々をこねる。
10歳だから許される行為だ。
マリーの目が冷たい気がする。
「あぁもう!11歳まで待ちなさい。
Gランクの冒険者試験に受かったら考えてあげるから。」
冒険者になれる年齢は13歳。
11歳でGランクの試験を受けることができる。
このGランクは正式な冒険者ではなく、ギルドが特別に発行する仮免許。
Gランクになれれば、Fランクの依頼の一部を受けることが可能になる。
Gランクをめざす子供たちは冒険者の下で荷物持ちしながら薬草採取、狩り、解体などを教わる。
狩れる魔物と狩れない魔物、狩り以外の稼ぎ方を学ぶ。
子供たちが勝手に狩りに行くのを抑制するために作られたもので、ご飯を食べるために魔物を狩るしかない子供たちの救済措置。要は冒険者の手伝いをさせてお駄賃をあげる制度。
ギルドは助成金を使って報酬を上乗せして、なるべく危なくない仕事に見習いをつけて斡旋する。
低ランクの冒険者は生活するのも大変なので、報酬の上乗せは大助かり。
ランクをあげる際のポイントにもなるので、上を目指す冒険者からの人気は高い。
子供の安全を守れて、仕事を教えることができる冒険者の評価が高くなるのは当然で、ギルド側にも重宝される。
見習いにとってはGランクになるほうが冒険者になるより難しい。
冒険者と同じ内容の試験になるからだ。
子供にとっての1歳は大人とは異なり、小さくない差がでてしまう。
Gランクに受かるような子は無茶をしがちだが、大成するのも少なくない。
その分早死にしてしまう子も多い。
一方でじっくりと育った子供たちは色々な技術や知識を学んでいて、無茶をすることが少ない。
教えるものうまいので、そこそこ優秀な中堅冒険者になることが多い。
ギルドにとっては、子供たちがGランク試験に受からなくてもかまわない。
冒険者の元で死なないことを覚えることが大切だからだ。
ラウラさんは俺に十分な見習い期間経て、普通の冒険者になって欲しいと思っているのだろう。
チートの凄さを見せて安心させてあげなければ。
ラウラさんが俺にできそうな仕事を探して冒険者と交渉してくれた。
見習いになるので、無料公開されている攻撃魔法を習得させてもらう。
薬草採取から始まり、ウサギや鳥などを狩り方を覚える。
武器と防具はギルドが貸し出してくれた。
鳥もウサギも襲ってこないので剣で倒すのが難しい。
弓か魔法が主体となる。
森で炎系の魔法は厳禁なので、罠、弓、風魔法のどれか。この森では今のところ炎系の魔法を使う魔物もいないそうだ。
剣の出番はウルフやレッサーボアなどの襲ってくる魔物。
低ランクでは1匹狩れたら十分というか、持ち運びながらの狩りは出来ないので安全な場所で解体して必要な部位を持ち帰る。
残りの部位は地中に埋めるか燃やすのがルール。血の匂いは他の魔物を呼び寄せてしまう。
魔物の解体は低ランク冒険者よりうまかったので喜ばれた。
この森の少し奥の方の支配者はゴブリンだ。
ゴブリンと聞くと弱いイメージだったが、とんでもないと言われた。
非力だが仲間同士で意思疎通ができて、道具を使えて、魔法を使える個体もいる。
こんなのが森で罠を張り、集団で狩をするのだから非常に恐ろしい。
繁殖力も高いため、ゴブリンは狩れるときは必ず狩らないといけない魔物だ。
その割にお金にもお肉にもならない。
最近の調査では、ゴブリンが森で狩をするから魔物の氾濫が少ないこともわかってきた。
やつらは大物も狩る。
ゴブリンは非常にやっかいなハンターであると同時に森からの防衛力でもある。
ルドの森から資源を得るには、ゴブリンに代わって森の近隣を安全に確保することが必須。
兵士や高ランクの冒険者が日々がんばっているが、あまり成果が上がってがっていない。
休みの日には森に1人で出るようになった。
自分の持ってきたチート装備慣れておくためだ、というか使ったこともなかった。
持ってきたキツネのお面を被る。神社などで見る白いキツネだ。
忍者だし素顔を隠すこともあると思って持ってきた。効果は何もない。
一応特殊装備でお面を被っても視界は良好。
他に狛犬とタヌキの面を持ってきている。
狛犬は神社繋がり、タヌキはキツネに合わせてあるがデフォルメされている。
この忍者スーツは隠密性に優れているので森には丁度いい。
頭巾は嫌だったのでフード付き。
森ウサギに気づかれることなく接近して小刀をふるう。
森ウサギが真っ二つになって地面まで刃が刺さっていく。
「うおおお。ナニコレー。」
あわてて引っこ抜いたら勢いあまって木に。
何の抵抗もなく木に刃が埋まる。
何この剣。
深呼吸してから、木に向かい魔力を込めずに小刀を一閃。
豆腐を切る感覚で刃が木をすり抜ける。
ヒヒイロカネで作った小刀と脇差。
鞘や柄の部分は木曽ヒノキを使ったこだわりの一品。
ちょっと赤みがかってカッコよく、魔力を通すと赤みが増すのが美しい。
もちろんこの世界にもヒヒイロカネは最高の素材として置いてある。
入手難易度が高いので発見されているかは知らない。
「人前では使えないな。」
とりあえず、自分で使いこなせるように猛練習した。
魔物を倒しているうちにレベルが1つ上がった。
音楽とともにレベルアップのお知らせがあるわけではないので、明石さんを見ないとレベルが上がったかはわからない。
レベルは人族につけた特性。
人族といってもドワーフやエルフにはつかない。
獣人族が獣化できるように各種族には特性をつけている。
人の特性はレベルで最大値は100。
魔物を倒すと魔力の質量に合わせて経験値が入る。
経験値は人族以外には意味を持たない。
チートな自分はレベル10から始めている。
レベルアップを楽しみたいので最大にはしていない。
レベルに合わせてHPや力や素早さの数値が上がる。
というのは色々あってやめた。
HPというのがしっくりこなかった。
例えばHP100の人が両足が切断されるとHP10になる。
この数値化のイメージができなかったのだ。
両足が切断された状態がHP10で治癒魔法をかけると足がくっつく。
この世界でも魔法で足を戻すことは実現可能だ。
首が切れてもHPが1でも残ってれば回復可能となるのは違和感があった。
その状態までいくと、この世界では死んでから蘇生魔法になるだろう。
首が切れた状態で蘇生できるかは不明だけど。
蘇生魔法は今のところ聖女にのみ持たせているスキル。
俺も魔力的には使用可能だが、おそらく魔力量が全然足りないだろう。
蘇生のさせ方もわからない。
レベルアップによる力や素早さアップに関しては理解できる。
それも、HPに合わせるのが無理だった。
人は時速100キロ超える速さで走れてしまい、30メートルジャンプができる。
武器を持っても力を入れると壊れてしまうのだ。
人族が異常になった。
バランス調整のため、他の種族や魔物もそれに合わせた世界はひどいものだった。
高価な武器でなければ、人が武器より強くなるのだ。
レベル差が激しいとどうにもならなくなる。
仕方がないのでレベルで数値があがっても、能力の上昇を抑えるようにした。
なんか、数値のわりに結果がしょぼくて悲しい感じに。
レベルを上げても数値がほとんど上がらないようにしてみた。
今度はレベルアップの爽快感が全然ない…。
うまい感じに納得できるものができなかったので、レベルによる能力の数値化をやめることにした。
HPとかではなく魔力によるドーピング機能を採用。
レベルが上がると魔力量が増える。
増えた魔力の一部で身体を強化する。
レベルがあがっても効果がしょぼいことは変わりないが、具体的な数値にならなければ気にならない。
レベル100でレベル1の人の2倍くらい。
これは2倍の力になったり、2倍の速さで走れたりすることではなく、魔力による補助が2倍になるということ。
俺がレベル100だったとしても、大人の男性に腕相撲で負けてしまう。
鍛えていなければ効果も薄い。
それでも鍛えることで、高レベルの冒険者にはそれなりの効果がある。
生死に直結するのだから、上げておいて損はない。
魔力によるドーピングが可能ならば、レベルや種族に関係なく肉体強化が可能となるということ。
この世界で強くなるポイントの1つだろう。
意外なところで素晴らしい効果が生まれた。
レベルの高いお年寄りは元気な者が多いのだ。
視力の衰えやヒザの痛みなど、多少なりとも緩和される。
年を取ってもレベルは下がることがない。
レベルを上げて、老後に備えようと思う。
子供のご飯
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