4.初めての異世界
草原に立っている。
人族を作ってから5千年後の世界だ。
轍の跡のようなものがあることから馬車の通り道といったところだろうか。
「あははははははははは。」
よくわからないが凄く楽しい。
だいぶ子供の精神に引きずられているようだ。
少し落ち着いたので、自分の姿を改めて見てみる。
―――金色の忍者装備を着ていた。
「3バカーーー!出てこい!!」
「「「お呼びでしょうか。主さま。」」」
3バカが顕現した。
「こんなに早く呼ぶなんて、主さまったら寂しがり屋なんですから。」
「こんなに早く呼ぶなんて、主さまってば私がいないとダメなんですから。」
「こんなに早く呼ぶなんて、主さまったら私のこと好きすぎなんですから。」
3バカが変な掛け声で俺の周りを回り始めた。
「「「主っさまっ、ハイ!、主っさまっ、ヘイ!、主っさま、ホイ!」」」
無言で丁度目の前を通ったフローラに腹パンをする。
ドゴォ
え?
フローラが吹っ飛んで行って遠くの木にぶつかった。
あ、消滅した。
「おい、この力はなんだ?」
「主さまにふさわしい力を追加しておきました。」
何もなかったように顕現したフローラが説明する。
腹立つくなぁ、こいつら。
「この金ピカの服は?」
「主さまにふさわしいように黄金の服にしました。」
「サプライズプレゼントですぅ!」
「「「主っさまっ、ハイ!、主っさまっ、ヘイ!、主っさま、ホイ!」」」
頭痛い。イヤッホゥーとか叫んでるし。
俺のせいとはいえ、もう少し何とかなんないかなぁ。
「元に戻すように。」
「「「え?」」」
そんな理解できませんみたいな顔されても。
「俺はちょっとズルしたけど、人として死ぬんだ。手に余る力はいらない。あと金ピカも。」
「でも、でも。」
「いうこと聞けないなら、俺が死んだ後も俺の魂との接触禁止にするから。」
「「「そんな!」」」
「俺の一生なんて、あと60~70年くらいだろ?チョットだけ待ってろ。」
「「「うぅ~。わかりました、主さま。」」」
元の設定に戻った。
「ふぅ。じゃあお前たちも帰るように。」
「「「せめて祝福だけでも!」」」
なんの意味もないキラキラした風を受ける。
「生暖かくて気持ち悪い。」
「「「酷い!!」
3バカが泣きながら帰っていった。
気を取り直して、まず自分の状態を確認しよう。
「ステータスオープン!」
あれ。
風呂敷に荷物を担いでいるので、マジックバッグに移しておこう。
「マジックバック!」
あれれ。
何も起きない。
とりあえず魔法をつかってみよう。
チートだし火や水は大惨事になりかねないので風魔法がいいだろうか。
魔法をイメージして。
「ウィンド!」
適当に呪文を唱える。
ただの英語だった。
手から風がでているように見える。
実際は手から出ているわけではないけど、よろけて倒れてしまった。
「おおー!」
倒れた後も、魔法は止まらない。
これどうやって止めるの?
体の力が抜けていき、意識が途切れた。
ぺし。
「おい。」
ぺし、ぺし。
何だよさっきから。
「おい。起きろ、坊主。」
だれが坊主だ。俺か。
目を開ける。
筋肉質のおっさんがいた。
少し離れて馬車が2台と数人の人がいる。
「大丈夫か?」
「頭痛い。気持ち悪い。」
「何でこんなところで寝てるんだ。」
俺は事情を説明する。
魔法を使ったら止められず意識を失ったこと。
言葉と文字はインプット済み。
いきなりの異世界で会話もできない、文字も読めないは厳しいからだ。
というか、この世界の言語は自分が最初に人に与えたものだ。
日本語という選択肢もあったのだけど、まず文字の種類が多い。
漢字、ひらがな、カタカナと。
文法が適当でも通じるあたりは利便性が高いともいえるけど、整頓されていないともいえる。
さらに「生」などは同じ漢字でも複数の読み方があり、意味まで違う。
送り仮名を付けたらもっと増えていくため、不採用とした。
結果、何万という世界を見てきた中から、シンプルかつ覚えやすい言語を採用した。
言葉は何千年という歴史の中で変化していくものなので、この時代の共通語を習得しておいた。
「魔法の制御ができてないのか?」
不思議そうな顔をしている。
「それよりも坊主。ここで何をしている?親は?」
こんな時のために色々設定を、、何も考えていなかった。
「名前はリク。親はいない。何でここにいるかもわからない、です。」
元の名前は大地。オンラインでのニックネームをよくリクとしていたので、それを使う。
適当な設定にするより、わからないとした。
本当のことを喋っても信じてもらえないし、話すつもりもない。
「おじさんたちはどこに行くの?」
「こっちにはラムルカの街しかないぞ。わからないか?」
素直にうなずく。
世界が安定してからは種族の滅亡とか大きな戦争とかの重要情報以外見ないようにしていたので、国の大ざっぱな位置くらいしか知らない。
「俺も連れて行ってもらえないでしょうか。」
10歳らしく僕にしようかとも思ったけど、自然に俺で。
「俺はただの護衛でな。雇い主に聞いてみないとわからん。
ただ連れて行くにしても馬車に乗る間は、その武器は預かるぞ。」
「わかりました。」
おじさんがぽっちゃりした人に相談しに行った。
専用装備にしたから他人には使えないんだけど。
得体のしれない子供を乗っけるんだし武器は仕方ないか。
ちょっと不安。
手持無沙汰になったので周りを眺める。
あ、バッタ!のような虫。
捕まえて観察する。魔法は怖いから鑑定は使わない。
大人になってからは虫を触るのも嫌だったが、抵抗ない。10歳効果かな。
ちなみに虫・植物・動物・魔物などは神さまの管理化の世界や地球から取ってきたり、空想上の生き物を作ったり。
牛肉食べたいしね。
5千年の期間でどう進化・絶滅したかは知らない。
乗せてもらえた。いい人たちだ。
筋肉がパウルさん、ぽっちゃりがハンスさんで、ハンスさんは商人だそうだ。
ここはヴァルガーデン王国の最西端、カレンベルク侯爵領。
ハンスさんはカレンベルク首都の隣の街エルン出身の商人。
最近王都にお店を出した新進気鋭の商会のナンバー2。今回はラムルカに仕入れに行く途中とのこと。
エルンから途中農村が2つあり、ついでに物売りしながら来たところ。
ラムルカで魔物の部位や薬草を仕入れて帰るそうだ。
ラムルカは王国最西端の防衛都市。
さらに西から北にかけてルドの大森林が広がっていて魔物の住処、ほぼ人類未開の地。
王国は開墾と討伐をしながら西の果ての森に到達。防衛拠点として兵士を駐屯させていたが、人や物が行き来するようになり街となった。
一晩野営して、明日の午前中にはラムルカに着くそうだ。
普段は隣の村を朝出発して1日頑張れば夕方にはラムルカに着くそうだが、今回は余裕をもって1泊することに。
その辺りの木に馬を括り付けて、夕食の準備。
この世界で初めての食事。
居候なので贅沢は言わない。
干し肉とスープだった。おおっ、定番!
街のご飯はもう少し何とかなってるといいなぁという感想。
簡単な魔法について教えてくれた。
魔法陣を出して見せてくれる。
指先から火を出す魔法と水を出す魔法。
火はマッチくらい。水はコップ1杯。
魔法陣なんて設定はしていない。気絶したときの魔法でも出ていなかった。
不思議に思ったので聞いてみた。
「なくても魔法は使えるが、魔法陣が一般的だな。
魔法陣がないと制御が難しいんだよ。」
「呪文は必要なの?」
「慣れれば使わなくても出せるようになるぞ。こんな感じだな。」
パウルさんが無詠唱で指先の魔法陣から火をだす。
「呪文は魔法のイメージを助ける役割だな。慣れればこんな感じで詠唱なしでも可能だ。」
「なるほど。自分が意識を失ったのは魔力切れで?」
「そうだ。死にゃしないんだが、辛いだろあれ。」
「はは。身をもって体験したからね。」
魔法については研究が必要だ。
寝る準備をする。
この辺りはほぼ魔物は出ないそう。
なので、見張りもいらないそうだ。地面の上に布を引いてくれた。
清潔空間培養日本人の自分が地面で寝られるか心配だったが、気が付いたら朝だった。
トイレはその辺の草むらで。
トイレ魔法という旅人ご用達の穴を掘る魔法もあるらしい。
人生初の野糞だった。葉っぱで拭く。
俺の尻はデリケードだから、かぶれないか心配だ。
トイレ事情も死活問題になりそうな予感がする。
馬車に乗り出発。
色々な話を聞いていたら昼前にラムルカについた。
身分証のない俺は衛兵の許可がないと街に入れないそうなので、2人とはここで別れることになる。
ハンスさんがいうには特に問題なく街に入れるだろうとのこと。
荷物を返してもらって、2人にお礼と別れの挨拶をして衛兵の詰め所へ向かう。
2人に聞かれたようなことを聞かれたので、同じように答える。
あとはここで何をするか聞かれたので、ご飯を食べるため仕事をしたいと答えた。
人手不足で、子供でも仕事はいっぱいあるようだ。
武器は持って歩いてもいいが、抜くと捕まることもあると注意を受ける。
街へ入る許可が出た。
まあ戸籍もない世界だとこんなものだろうか。
こうしてラムルカの街に足を踏み入れた。
とりあえず降り立つ。
魔法を使ってみる。
言葉と文字について。
商人とのコネクション。