第1話、新学期の朝
サンダーストーム木村です
「ちょっと! ユウジ! 起きなさいよ! もう朝よ!」
アラームよりもけたたましく、聞き慣れた声にそう呼ばれて俺が目を覚ますと、目の前には見慣れた幼馴染み――小鳥遊一華の顔がある。毎朝毎朝、頼んでもないのに家に起こしに来やがる、お節介なヤツだ。
「あ――なんだよ」俺は寝惚け眼を擦りながら答える。
「コラ! アンタはまたそうやって! アンタのせいで私まで遅刻しちゃうでしょ!」そう言って一華は俺の最終防衛ラインを簡単に引き剥がした。宙に舞った埃が燦然とした朝日に照らされる。
――そのとき、
「――ちょっと! なにしてんのよ!」威勢のいい声と共に、俺の部屋のドアを勢いよく開けてやってきたのは、妹――とは言っても、義理だが――のユイだ。「どこから入って来たの!?」
「どこって……」威勢のいい闖入者に狼狽しつつ、そう言って一華が指差すのは、俺の部屋の窓だった。おいおい、どんなところから入って来てるんだよ……。毎度のことながら、俺はうんざりして溜息を吐く。
「不法侵入じゃないのよ!」とユイ。その通りだった。
「なによ!」と一華。
「なんなのよ!」とユイ。
そうして二人は今日も額を突き合わせて、啀み合うのだった。
――やれやれ、と早くも俺は朝から二度目の溜息。勘弁して欲しいぜ。
◆
テーブルの上には納豆とごはん。飲み物はもちろん牛乳。これが二階堂家の朝食の毎朝の風景だ。時刻は七時半。今は俺とユイと一華が席に着き、いつもよりちょっと遅れ気味の朝食をとっていた。
「そう言えば」と、向かいに座るユイの服装を見て俺が言う。「ユイも、今日から俺たちと同じ学校の生徒か」
「うん! そうだよお兄ちゃん!」小さなお下げをぴょこぴょこと揺らしてユイ。「私、お兄ちゃんと同じ学校に入るために頑張ったんだから!」
「よしよし」と言いながら俺はユイの頭を撫でてやった。
「えへへ~」とユイはだらしのない笑みを浮かべ、くねくねと身体を捩らせた。
「――ちょっと!」
「「へ?」」俺とユイは顔を見合わせ、それから一華を見た。
「な、なんでもない……」そういう一華の顔がみるみる赤く染まっていく。
「? どうした? 顔が赤いぞ?」
「――なんでもないったら!」そう言うや否や、一華は席を立ち、攫うようにして鞄を取り上げると、弾丸のような早さで家を出て行った。バタン、とドアの閉まる音。ぽかん、と取り残された俺たちはもう一度顔を見合わせた。
「……なんだったんだ?」
「さあ?」首を捻るユイ。「――それよりお兄ちゃん、今日からは毎朝一緒だね!」
「ああ、そうだな」俺は肯いて見せた。
◆
ユイと二人で家を出てしばらく歩くと、電柱の陰から見覚えのあるシルエットがこちらを窺っているのが見えた。一華だった。
「そんなところに隠れてないで、一緒に学校行こうぜ」
「遅刻しちゃうよ!」とユイ。
「……うん」そう言って、おずおずと一華が電柱の陰から姿を現わす。「あの、」
「なんだ?」
「さっきは……ごめんなさい」
「気にすんなよ。それより」by the way,I lock watch,「早く行かないと、本当に遅刻しちまうぞ! 始業式から遅刻なんてしたくないからな」
「――もう」一華が笑う。「遅刻しそうなのは、どこかの寝坊助さんのせいでしょ!」
――そうして、今日も一日が始まる。
◆
サンダーストーム三田です