命令に従うだけ。
「さて、雑談は終いだ。あー。拠点を作った方が活動はしやすいか。」
そう言うのは、紅い瞳を持つイケメンとしか言いようがない男だ。
名を黒江光希と言った。
「作ってくれるのか。何から何まで悪いな。」
龍はその言葉に甘える。実際、魔獣を倒すのも、悪を淘汰するのにも自分達の活動するべき場所は必要だと言える。
生憎と龍は今無一文で、戦力になるかどうかで言われればならない。
だから──多分光希は真冬のことしか見ていない。自分より強い相手が自分側へ着くことしか考えていない──
心苦しさを感じながらも先程光希が目を向けたように龍も真冬へと目を向けた。
「…そんなに見ても…楽しいことないよ」
「美しい女性とは見ていて花があるものだ。特に野郎ばかりだと、貴女のような女性は目立つ。勿論良い意味で」
ある意味口説き文句だが、光希はそれを口説き文句で行っているつもりはないらしい。なんとなく発音が、口調よりもその声の出し方が"興味なさそう"と言うしかないくらい気だるげなものだった。
そして、そんな遣り取りよりも……
「────いつの間に!?」
自分がいた場所なんて知りもしないし、囲まれたりガトリング放たれたりで周囲の様子なんて碌に見てもいなかった。だが、明らかにこんなものはなかった筈だ。と思える建造物が聳え立っていた。
見た目は洋館…というより豪邸…趣味は置いといて他に比べて綺麗すぎる。拠点がこんなに目立って良いのか。と疑ってしまう程に
「気に入ったか。なら良い。もう部屋の割り振りも済んである。これから人数が増えることも予想して部屋の数だけならビジネスホテルなんて比にもならん。取り敢えず500人入っても有り余るくらいか。使用人も俺が用意しよう。」
矢継早に言うものだから口を挟む余地もない。
これが話術だとするなら、この男は営業向けだと言える。
そんな思考はさて置いて真冬に対する献上。的な思惑は無いらしい。
先程から話を聞かされているのは龍だ。
その真意を探って良いものか。
「なぁ、黒江。おま──」
「光希でいい。俺も龍と呼ぶ。」
「そ、そうか。光希。俺より真冬に話した方が立場的にやりやすいんじゃないか?」
「バカか。"道具"に話しかける変人だと思われていたとは心外だ。」
先程の口説き文句らしき発言をして置きながらこの対応。理解が及ばない。
「人を殺す為に生まれてきたような奴が、"真っ当な人生"であるとでも?そいつは命令されれば人を殺す。ただそれだけの存在だ。見た目が良いのはかなり残念だが。」
「なっ──」
「何もおかしなことは言ってない。今、自分の立場を理解しているのか?殺戮兵器を側近にして、何も言わずともお前を守ろうとする道具より、その主人であるお前に話をした方が賢いとは思わないか?…お前の決定は【閃光の辻】の決定なんだ。」
驚いた。少なくとも自分自身ではそんなことは微塵も思っていなかった。目的の協力者。とは都合の良い言葉だったのかもしれない。
「わかった。肝に銘じておく。俺の判断で巻き添えを食う奴がいるという事も。」
「賢明だ。付け加えるとこれからお前は500人の命を背負う形になる。呉々も不穏を招かないようにしてくれ。俺の顔に泥がつく。」
それだけ言えば踵を返し、その趣味の悪い豪邸へと入っていった。
「真冬、お前はそれで良いのか」
「好きにすれば良い…私は龍の命令に従うだけ。」
納得出来ない。いや、したくない。
此処で正すべきだと心底思う。
だが、先に言われた通りそれでは不穏を招く。
言ってやりたい…お前は道具ではなく人だ。と
その時だった。妹の亡骸がフラッシュバックする。
甘い言葉は毒だ。利用して潰す方が良い。
そう思考を切り替えたのに罪悪感がないことに不安を覚えつつ光希の後を追った。
//////////Black Spell//////////
いやらしい妄想癖を持つ貴方。
それも命令なら従います。存分に堪能しなさい(
「…仕方ないから…付き合ってあげるの…」
「光希。手に負えん助けてくれ」
「断る」
「薄情者め!」