公爵令嬢の侍女
短編初投稿!相合谷 凛音です。
ビッチな公爵令嬢に仕える侍女が、今回の主人公です。『ざまあ』要素は少ないかも…。
ライフェン王国の『フェア・ブレンネン公爵令嬢』といえば、誰もが知っている名前でしょう。決して絶世の美女だとか、外交の鬼だとか、そんな理由ではありません。
ですが、別の意味では…
確かに美女ですね(イケメン権力者の前では)
確かに鬼ですね(侍女の前では)
こんな人物が、王妃の有力候補でいいのでしょうか…。手当たり次第 殿方に媚びる公爵令嬢が?侍女に暴力をふるう公爵令嬢が?未来の国母で…いいわけねぇだろうがああああああ!!!という言葉を飲み込んで、私、エルン・シックザール は毎日 フェア様のお世話をしているのです。
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「ちょっと!こんな姿でリヒト様に会えるわけないでしょう!?早く直してちょうだい!」
「は、はいっ!申し訳ございません…!!」
「フェア様、どちらの髪飾りに致しましょう?」
「そうねぇ…」
今日のフェア様は、普段より一段と 機嫌が悪い様子…。まあ 理由は言わずとも分かっております。皇太子様が他の有力候補と、懇意にしていらっしゃるとか。
フェア様は、直ぐに他の殿方に狙いを変えたようですけれど…。次はベッセルング公爵子息殿だそうですよ?リヒト・ベッセルング様といったら、年頃の御令嬢方の間で有名な御方。御嬢様―期待はしていませんが―頑張ってくださいませ。
「もう少し綺麗に纏めて!!」
「はい!」
「ああ、もう!使えないわね!!」
「も、申し訳ございません!!」
パンッ!乾いた音がした後、一人の侍女が頬を押さえて踞りました。
(ああ、将来有望な侍女だったのに)
侍女は涙を流しながら、扉の向こうへと消えていきます。あの子は もう二度と、フェア様の前に姿を表すことはないでしょう。公爵家の長女である御方の不興を買ったのですから。
きっと今日中に、この屋敷から出て行くはずです。少し羨ましく感じますね。フェア様の幼馴染みである私は、辞めようにも辞められないのですから。あ、侍女として失格とか言わないでください。これには理由があるのです。
自分が気になっていた殿方に媚びる主。一人や二人なら "まあしょうがない。好みが被ったんだな" で済ませましょう──枕は濡れますが。
しかし!六人や七人となれば "ふざけんなああああ!!" と思うのも仕方がないと思うのです。うふふ…恨んでなんかいませんよ。ええ。私が "○○様は素敵な御方ですね" なんて言った後、その方に近づいて媚びるような主なんて知りません。フェア様は素晴らしい方ですから。チラリとこちらに目を向けて、嘲笑うような御方じゃありませんもの。ほほほほほ…。
ああ、フェア様の白馬の王子様。今すぐ 迎えに来てくださいませ。御嬢様と離れられるのでしたら私、いくらでも手助けいたしますわ!
「ねぇ、エルン」
「はい。どうされました?」
チラリと私の方に目を向けたフェア様の髪は、他の侍女によって編み込まれていました。長く美しい赤髪は複雑に編まれ、青く輝く髪飾りはフェア様の美しさを際立たせています。
「リヒト様は どんな物が好きなのかしら?調べて頂戴」
「畏まりました」
「頼んだわよ。うふふ…」
薄く色づいた頬に手を宛てるフェア様は、正に恋する乙女。よし、白馬の王子様はリヒト様で決定ですね。私のような被害者を増やさないためにも、頑張りますわ!!
今日の舞踏会で皆様に聞いてみましょう。ああ、今夜が楽しみ!
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きらびやかな舞踏会の大広間。その会場に隣接している小部屋は、侍女が待機する場です。小部屋といっても大部屋並みの大きさですけどね。流石 王城、といったところでしょうか。
上品なデザインのソファに腰掛け、私は早速 情報収集に移りました。こんなとき、一番 頼れるのがルーメル・オープスト。焦げ茶の髪と瞳を持った美人さんです。彼女とはもう四、五年の付き合いになりますね。
「リヒト様が好まれる物?」
「ええ。ドレスのデザインや髪型、好物など他にも色々と教えてほしいのですが…」
「ああ、フェア様からの頼まれたのね。ふ~ん、今回はリヒト様なの…」
「今回は本気のようでしたよ?」
「あら、私の憧れていた殿方に媚びたときは本気じゃなかったのね」
ああ、ここにも被害者が…うちの御嬢様が申し訳ありません。本っ当に申し訳ありません。
「別に気にしてないわ。エルだって被害者じゃない」
「そうですね…」
「ふふ、あなたも大変ね。…えっと、リヒト様が好まれる物だっけ?あまり派手なのは好まれないそうよ。宝石類でギラギラさせるのはダメみたい」
抱き寄せたとき痛いですし、ダンス中も腕にゴリゴリきますもんね。目にも優しくないので納得です。
「ふむふむ」
「あと、香水は控え目の方がいいわ。あ、好物のことだけど、甘い物は苦手みたいよ。ケーキやクッキーはダメね」
「なるほど」
あら、意外ですね。あの外見ですから、てっきり好物かと思っていました。ふぅ、危ない危ない。フェア様に間違った情報をお教えするところでしたわ。
「意外って顔してるわね」
「ええ、好物だと思っていました」
「御令嬢方にたくさん押し付けられたらしいわよ?ふふ、今じゃ親しい人からしか貰わないみたい」
それは嫌にもなるでしょう…。肉食猛獣顔負けの目で迫られたら、誰だって怖く感じます。やはり肉食系な御嬢様方は逞しいですね。
「というか、よく知っていますね。流石ルーメルというか…」
「え!?あ、ほら、侍女の情報網といいますか…」
「なるほど、理解しました」
恐らく、ベッセルング公爵家で働く侍女の誰かが、情報を流しているのでしょう。守秘義務を知らないのかしら?侍女 失格ですね。まあ、私も侍女 失格なのですけど!ふふ、お仲間がいらっしゃったのね。
「ありがとうございます」
「いいえ。お役に立てたようで なにより。情報網のことは黙っといてね」
「ええ。他言は致しません」
さて、他の方にも聞かなくては!!!
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「フェア様、リヒト様の好物について調べておきました」
「あら?甘い物は苦手なのね」
「……」
私の手から奪うように、メモを取ったフェア様が満足そうに頷きました。 "ふざけてんのか?礼くらい言えよ、アホ娘ええええ!!" という言葉を飲み込んで、私は にっこり と笑います。
「ひっ……」
あら?侍女の皆様が青ざめているのですが、どうされたのかしら?
「ああ、次の舞踏会が楽しみだわ!」
「頑張ってくださいませ、フェア様」
「勿論!リヒト様もいいけれど、ルフト様もいいわね…」
"どちらにしようかしら?" 楽しげにフェア様は笑いました。ええ、本当にどちらがよろしいんでしょうかね?私は、何のために情報を仕入れてきたのでしょうか? "情報収集 意味あった?無かったよね…!!" おほほほほ、このアホ娘どうしましょう?
はあ、当主様も当主様ですわ。このワガママ娘をどうにかするべきだと、私は思いますがね!
「エルン様、旦那様が御呼びです」
「分かりました。今 行きます」
あら、お暇でも出してくださるのかしら?
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"エルン、国王様がお呼びだ。直ぐに準備を整えなさい。明日 迎えが来る。分かったなら さっさと出ていけ"
昨日、椅子にふんぞり返った当主様は、ゴミを見るような目で私を見ました。この親にして、あの娘あり。親がこれでは、娘がああなるのも頷けますね…。
翌日、迎えの馬車に私を押し込んだ当主様は "くれぐれも粗相のないように" それだけ言うと、屋敷の中へと帰って行きました。きっと、迎えの方が向ける嫌悪の視線に気づいていないのでしょう。愚かな方です。
「怪我は?」
「大丈夫ですわ。お気遣い 痛み入ります」
「いえ、無事でよかった」
迎えの方は にこり と笑いました。その笑顔の裏には何があるのでしょうね?とても気になります。なんだか楽しいことが起きる予感。
「ここから城に着くまで、少し時間があります。世間話でも どうです?」
「是非」
あらあら、フェア様の貴族生活も あと少しのようです。うふふ、私の胃薬生活も あと少し。
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ある夏の夜の舞踏会。
天井から吊り下げられた大きなシャンデリアは、光を反射し黄金に輝いていた。その下では様々な色合いのドレスが、流れるワルツに合わせて舞っている。そこは、おとぎ話や絵画の世界に飛び込んだように美しい。
そんな場所で、それは起きた。
"皇太子エーデル・ヘルシャー・ライフェンと、レミリア・プレーゲン公爵令嬢の婚約をここに発表する"
国王陛下のその言葉に、顔を歪めるフェア様。 "いやいや、他の男に狙いを変えたのあんたでしょ!?" と最初の頃は何度思ったことか…。今では "またかよ" としか、思いませんけどね。
「何なのよ…何でそんな奴を選ぶのよ…!」
フェア様、普通に聞こえてます。レミリア様は、仮でも未来の王妃様なのですよ?不敬罪ではないかと…。まあ、どう思おうとフェア様の勝手ですけどね、私が側に控えているのを忘れていませんか!?ほら見てください、皆様の目を!私を巻き込まないでくださいませ!!
「フェア・ブレンネン公爵令嬢。何か不満でも ありまして?」
「何故、レミリアなのです!?」
「あら、彼女は未来の王妃なのよ?それは不敬罪ではなくって?」
"……ああ、このクズ本当にどうしてくれようか。目の前の美女 誰だか分かってる?現 王妃様なのよ?現!噛みつくんじゃない!お前の その頭は飾りかああああ!!!" げふん げふん、失礼致しました。つい…おほほほ。
「ふんっ、まだ婚約者でしょう?レミリアは、まだ私と同じ身分ですわ!」
「フェア・ブレンネン公爵令嬢。貴女は何か大きな勘違いをしているようですね。貴女とレミリア様が同じ身分?笑わせないでちょうだい」
「どういう意味ですの…?」
王妃様は、かなり怒っているようです。まあ息子の婚約者を侮辱されたら、誰だって怒るでしょう。王妃様の、お気に入りでもあるようですし。それよりもフェア様、自分から破滅の道を進んで どうします。その先は、貴族生活に終止符が打たれるであろう道ですのよ?
「数々の御令嬢方に対する苛め。陰では醜聞になるであろう、噂を流していたそうですね」
「なっ!」
「幸いにも"ある者"のお陰で、嘘だと証明されましたが…心の傷は早々には癒えないものです。どう、責任を取ってくださいますの?」
「意味が分からない!私は やってないわ!」
やはり、猪突猛進なフェア様は不敬罪という言葉を知らないようですね。王妃様に対する不敬罪、皇太子様の婚約者に対する不敬罪、今日もフェア様は順調に罪を犯します。本当は、今すぐ捕まってもおかしくありません。そうならないのは、一重に"もっと思い罪を"という 王妃様の考えのお陰でしょう。
え?もう4つの罪がある、ですって?苛め、噂についての証拠がありませんわ。『証拠がない=逃げ道』ですもの。フェア様を逃がさないためにも、証拠は必要です。
「そこの貴女は どう思いまして?」
王妃様が私に視線を向けました。明らかに "殺ってしまえ。この女を畳み掛けろ" と目が語っています。ところがフェア様は何を勘違いしたのか、私に縋るような視線を向けてきました。王妃様の目がスッと細められ、周りの貴族の方々が震え上がっています。
「…フェア様の学園生活は、目に余るものがありました。先程、王妃様がおっしゃいました 苛め、噂の数々。どれをとっても、許されるものではありません」
「ッ エルン!あなた何を言ってるの!?」
視界の隅で何かが吠えているようですが、知ったことではありません。私の一生が!かかっているのです!私は捕まりたくありませんから!!
「あら?貴女はそう思うのね」
(あれ?侍女は普通の考えを持ってるんだ)
「我が主と同じ意見は持っておりません」
(勿論!フェア様と私は違いますよ)
意訳すると、こうなります。表面上 にこやかに話す会話の裏は、すさまじいものでした。王妃様は "あなたはそちら側の人間でしょう?違うの?" と私を疑い、私は "フェア様と同類?ご冗談を。私がフェア様のような態度をとることは ありません" と白旗を上げ、逃げているような状況です。
周りの貴族の方々の表情は『興味津々』『楽しそう』『不安そう』と様々でした。その殆どが さけずんだ視線を向けてきますが…。
「ふふ、そうね。では、貴女はこちら側でいいのかしら?」
(疑ってゴメン!お詫びに こっちに入れてあげる)
「勿論でございます」
(ありがとう!仲間に入れて!!)
「ちょっとエルン!ふざけんじゃないわよ!!」
"何でこいつが入ってくるの?" と顔を歪める貴族の方々を尻目に、王妃様は愉快そうに笑いました。一方、フェア様は肩を震わせ睨み付けてきます。そんなことよりも、自分の仲間がいなくなったことを気にするべきでは?
「あらあら、何て品のない。大声を上げる淑女が、どこにいるのです?淑女失格ですわね」
「何ですってーー!?」
王妃様はフェア様の未来を嬉々と潰します。髪を振り乱してヒステリックに叫ぶ女性。いくら 容姿、金、権力を持っていたとしても、嫌ですよね。おまけに王妃様に噛みつく狂犬。周りの殿方はドン引きです。ほら、フェア様の貰い手がいない。
「そうそう、噂を晴らした "ある者" のことだけど…ずっと貴女の側にいる人物よ」
笑みを消した王妃様が、唐突に言いました。言葉をつまらせたフェア様は、暫く考え込んだ後 私を見ます。 "エルン、なの…?" その問いに私は頷きました。
「はい。私でございます」
「何で…!!」
「貴女は お礼の一つも言えないのかしら?」
王妃様、良いのです。欲望に忠実なアホ娘の謝罪なんて、期待していません。苛め、噂、その全ては我が主の手によるもの。下の者が尻拭いをしなくてどうします。騙された皆様には しっかりと証拠を見せ、真実を知ってもらいました。
「余計なことを…!あんたは平民じゃない!!信憑性が無いわ!!」
いやいや『余計なことを…!』って言っちゃってますよ!?王妃様も "本当のこと言っちゃえば?" みたいな視線を寄越さないでくださいませ!
言っていいものか、と悩む私の前で 王妃様は笑いました。そして、花が咲くような美しい笑みで…
「本当に幸せな方ね。ふふ、教えてあげて?」
『教える』という選択肢以外、全てを潰したのです。酷いです王妃様。『上の方からのお願い=命令』ですのに。まあ命令ですからね…貴女の『配下』として『影』として、『主』だった者に教えて差し上げましょう。長年 被ってきた『侍女』という仮面を捨てて……────。
「カッツェの者として、フェア・ブレンネン公爵令嬢が行った悪行の数々は事実であることを、ここに宣言いたします!」
会場が騒がしくなりました。それもそのはず。カッツェと言ったら、王族の忠実な影として有名ですから。その一族は、時に諜報員として、時に暗殺者として、永く王族に仕えてきた一族です。
今回は表舞台に出たため、私はバレてしまいました。ですが、私以外にもカッツェはいますし、私一人知られたところで支障はないでしょう。
これでフェア様も納得…
「何それ…カッツェって何?」
……あれ?
「貴女、カッツェを知りませんの…?」
会場の静寂を切り裂いたのは、王妃様でした。そこには、隠しようのない呆れが含まれています。お子様方 "マジかこいつ" みたいな目を向けないでください。これでもフェア様は 自分のことを才女だと思っているのですから。
「カッツェとは、王族に仕える一族のことよ」
「エルンが、王族に仕えてるってこと?」
「そうなるわね」
断罪の場が、教室になりました。何でしょうかね、これ。確かに、フェア様は教育を碌に受けていない お馬鹿さんですけど…まさか貴族の常識が通用しないなんて…。呆れたような視線が痛いです。私に向けられたものでは、ありませんのに…。
「エルン!ずっと私を裏切ってたわけ!?」
「いえ、裏切ったわけでは」
「じゃあ 何なのよ!」
仕事です。言いたいけれど、言えません。だって守秘義務ですもの!王命ですもの!内容を口にしたその日には、私の首が物理的に飛ぶでしょう。
「兎も角、カッツェの者が事実だと証明したのです!必要ならば、貴女が傷つけた御令嬢方も呼びましょうか?」
「な…」
王妃様、最初から呼んだ方が早かったのでは?なんて口が裂けても言えません。無知って素晴らしいですね。
「貴女が行ったことは許されることではありません。よって、貴女の身分を剥奪いたします!!」
「嫌よ!これは何かの間違いだわ!!」
「見苦しいわフェア。身の程を弁えなさい!」
ざまあ。指を指して高笑いしたい気分です。被害者の皆様!容疑者が捕まりましたわ!あら、あそこにいるのはルーメル!?やだニマニマしてる!隠せてないわよ!うふふ、今すぐ語り合いたい!キャーーー!!どうしましょう!?やだ私ったら、落ち着かなきゃ!でも口角が上がりそう!!落ち着いて私、平静に平静に…。
「エルン助けて!!」
「お断り致します」
「誰に向かって…!!」
「平民のフェアに言っています」
王妃様が身分剥奪と、言ってたでしょう…。その耳は飾りですか?『平民の』を強調した私は悪くないです。
「え、あ……」
私の言葉で漸く、自分の置かれた状況を理解したみたいですね。『身分剥奪=平民』貴族なら子供でも…いえ、平民でも知っていることですのに。興味津々にこちらを見ている お子様方、将来こんな人になってはいけませんよ。
尤も、彼らの目を塞いだり遠ざけたりしない ご両親も同じことを教えようとしているのでしょう。良かったですね。教材として役に立ってますよフェア──もう平民なので『様付けはしません!』
意気消沈したフェアは騎士様につれられ、会場から出ていきます。娘を切り捨て、助かろうとした当主様も、横領などの罪で騎士様に引き摺られていきました。余罪も たくさん見つかるはずです。
その後、ブレンネン公爵家に務めていた、執事や侍女も取り調べを受けました。数人の罪が発覚し、王城へ つれていかれました。そして私は、晴れてブレンネンから出ることができたのです!
今は…
「エルン、お茶を入れてもらえる?」
「畏まりました」
王妃様付きの侍女をしております。先輩方はとても優しく、給料は前よりも多い。正に理想の職場でございます。
ああ、本当に…あの夏ほど楽しかったことはありません。とても楽しゅうございました!
何故、侍女を続けているのか、ですって?私の本業は『影』であり、けして表に出ることがないものですから。隠すための職業は必要でしょう?私は 王妃様の猫。"カッツェ"の名がバレている。それが、なんなのです?私の本業に支障をきたすことはありませんわ。変装すれば何とかなりますもの!うふふ、猫を被るのは得意でしてよ。
「エルン、頼みがあるの」
「何でございましょう」
今夜も猫は笑う。黒い尻尾を揺らし、エメラルドの目を細めて。
──私は、エルン・カッツェ・シックザール。王妃様の猫でございます。──
ありがとうございました。
『世間話』=情報提供 & 交換




