第7幕 シナリオにない暗転
「なんで、私の話を信じてくれたんですか?」
一通り喜びを噛みしめてから、疑問に思ったことを聞いてみた。信じてもらえたのは嬉しいが、そこが不思議で仕方ない。
「お前の話は嘘にしては荒唐無稽すぎる。それに、嘘だったらもっと上手く作ってさっきの矛盾も存在しなかったはずだしな。逆にお前は正直にしゃべりすぎなんだ。」
「レンってば、こんなこと言ってるけど要は桜坂さんのこと気に入ったから依頼を受けたんですよ。」
フジさんが、楽しそうに耳打ちしてくれる。もちろん、フジさんの冗談だろうけど、何だか嬉しさも倍増だ。嬉しすぎて自分でもわかるほど気持ち悪い顔をしていると、フジさんの話が聞こえていたのか少し不機嫌そうな表情をしたレンさんがこっちを見ている。
「おい、依頼は受けてやるが、大事なこと忘れてないか?」
(はて、なんだろう?依頼に報酬とかは必要ないはずだし・・・。)
首をひねっているとまたもやレンさんが嫌な笑い方をした。
「お前が隠していること全て話せ。なんで、お前はあの状況で声が聞こえた?」
さあーっと血の気が引いていく音がした。とりあえず、矛盾点の言い訳をしなくては!!
「えっと、あれはささいな言い間違えで・・・」
「誤魔化すな。俺は確認したよな『付け足す情報や偽りはないか』と。だが、お前は今になってあれを言い間違いだという。つまり、偽っていたということになる。俺は、お前の話が嘘ではないと信じたから、依頼を受けたんだ。あれが、嘘だったら依頼は断らなければならないな」
「そんなの屁理屈です!!」
「屁理屈でもなんでも、お前は選ぶしかないんだよ。」
にたりと笑う様子はまるで悪魔だ。
(なんて嫌な奴なの。ちょっといい人だと思ってたのに)
助けを求めてフジさんを見るが、目を伏せていてレンさんを止める気配はない。孤立無援だ。
(どうすればいいの?)
レンさんは私が何かを隠していることを確信しているからそれを聞くまで諦めないだろう。しかも、頭がいいので生半可な誤魔化しはきかないし、依頼を受けてもらうには正直に真実を話すしかない。
私の秘密は子どもの頃に気味悪がられてから誰にも話したことがない。両親すら子どもの時だけのことだったと思っているだろう。親しい人にも話していないことを初対面の人間に話すのはやっぱり抵抗がある。それに、この人にも気味悪がられるのかと思ったら寂しい気持ちになった。こんな最低な人間でも私は気に入ってたんだと思う。
そうだ、逃げてしまおうか。それなら、私も傷つかない。
(でも・・・逃げたら伊織が・・・)
自分の保身のために伊織を危険な目に合わせたくはない。それに、ここまで来た意味がない。
例え、この人たちに気味悪がられたとしても私は伊織を守りたい。考えてみたら簡単なことだ。
(私は、伊織が一番大切なの)
長い葛藤の後、私はやっと覚悟を決めた。
「私の秘密守っていただけますか?それが条件です」
「約束しよう」
レンのその言葉だけは何故か信用できる。この人は秘密の重さを知っている、そんな気がした。