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4幕 蓮と藤

 

ドアを開けた先は、応接間のようになっていて机を挟んで1組の黒い革張りのソファーがあり、その奥に事務机がおいてある。そして、二人の若い男がいた。大人っぽく見えるが高校生くらいだろう。一人は、事務机に腕を組んで座っているし、もう一人は、座っている男の傍らにたたずんでいる。驚くべきことは二人ともものすごく容姿がいい。座っている男の方は、黒髪で切れ長の目をした線の細い綺麗な顔をしている。綺麗すぎて近寄りがたいくらいだ。パッと見には中性的な顔立ちにも関わらず、男性だとはっきりとわかるのは、肩幅が女性よりあり、女性特有の丸みがない故であろう。そして、黒いスーツを着崩していないことが、上品で凛とした雰囲気を際立たせている。

 その隣の男は、明るめな茶色の髪とダークブラウンの瞳を持つアイドル系な顔立ちをしている。芸能界に入ったら一気にスターに登り詰められるだろう。この人も黒のスーツをまとってはいるが、シャツのボタンを一つ外していて、元気な少年という印象だ。同じスーツを着ていても冬と夏のような正反対のイメージを受ける。


「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、おかけください」


座っている男がソファーを指しながら、自分も示したソファーの向かいに座る。ノックをした時の声はこの男だったようだ。やはり、魅惑的な声に導かれるように言われるままにソファーに座る。私が座ったのを見届けると茶髪の男がお茶を自分の前に置き、黒髪の男の横に座った。

「粗茶だけどどうぞ。」

茶髪がそう言ってにこっと笑う。爽やかな笑みだ。思わず見とれてしまいそうになる自分を叱咤して、とりあえず何か話そうと口を開く。何を話そうかと迷ったが、やはり最初は自己紹介から始めるのが妥当だろう。

「は、初めまして。わ、わたしは」

勢い込んで話はじめると、すっと黒髪に口を手でふさがれる。

「自己紹介は結構ですよ。桜坂千世さん。」

(うぇ?)

いきなりイケメンに手で口をふさがれるという暴挙に目を白黒させていると黒髪にそう告げられる。

(っていうか、いきなり何やってんの!!・・・え?あれ?)

未だに正常に働かない頭で千世は不思議なことに気付いた。

「私、あなた達に名前を教えてないんだけど・・・。」

そうなのだ、メールで依頼したときにも依頼内容だけで自分の名前は書いていない。だから、この人たちが知るはずがないのだ。自分の中で危険信号が点滅し、冷静さが戻ってくる。反射的に男たちを睨みつけた。もう、初対面で緊張するなどという次元の話ではない。

「なんで、私の名前を知っているんですか?」

「さあ、なんでだと思う?」

黒髪の男が笑みをたたえながら問い返す。その笑みが妖艶で、引き込まれてしまうような気がして本能的な恐れを感じた。背筋に寒気を覚えながらも負けじと更に睨み返すと、黒髪も更に笑みを深くする。睨みと笑みの膠着状態が続くかと思われたときに男の隣からため息が聞こえた。

「こら、あまり依頼人をからかわない。」

ぺしん、と黒髪の頭を苦笑しながらはたくと茶髪が自分と視線を合わせた。視界の端では、黒髪が自分の頭を撫でている。ちょっといい気味だ。

「失礼しました。改めまして、私たちは風姿花伝演劇部の部員です。私のことはフジ、彼のことはレンと呼んでください。」

予想外に二人は、代理人ではなく部員であったのだ。ということは、風姿花伝演劇部が学園内で活動していることや年齢も併せて考えると二人は学園の生徒なのだろうか。しかし、こんなにかっこよければ目立つであろうが、学園内でみかけたことはない。

(でも、レンとフジなんていかにも偽名っぽいけど)

まずは、とにかく偽名を使うような集団が自分の名前を知っている理由を判明させなければならない。

「なんで、私の名前を知っているのですか?」

「ああ、依頼内容を受けるかどうか判断させていただくに当たり、桜坂さんの事は一通り調べさせていただきました。名前は、機械に強い部員がいるのでメールアドレスから割り出しました。個人情報は部内で処理し、外部には絶対に漏らしませんのでご了承ください。」

よどみなくフジさんは言うが、内容は問題だらけだ。

(え?それって犯罪じゃないの!!風姿花伝演劇部って正義の味方みたいに言われてるけどただの犯罪者集団だったの?)

あまりの衝撃に口を開けないでいると、それを察したのかフジさんが申し訳なさそうな顔をした。

「桜坂さんが困惑されるのは当然です。しかし、我々も依頼者の名前すら分からないまま依頼を遂行することは難しいのです。」

フジさんの言い分は最もである。いくら凄腕の探偵だって依頼者の名前すら知らないのでは調査のしようがない。

そこで、はっと思いつく。

「えっと、フジさん?」

「はい、なんでしょう?」

こてっと首を傾げるフジさん。

「も、もしかして私のた、体重なんかも知られているんですか?」

そう尋ねた途端にレンさんが声をたてて笑い出した。笑うと近寄りがたさが消えて年相応の表情になる。

(この人でも笑うんだ。というか、さすがに笑いすぎ・・・)

レンさんは、笑うという域を超えて大爆笑といってもいいほど笑っている。

私としてもこの状況でする質問ではないことは分かっていたが、乙女にとっては重要な問題である。しかも、こんなイケメンに知られていたとなれば精神的ショックは倍増だ。それにしても、普段笑わなそうなレンさんに大爆笑されると恥ずかしくてたまらない。

(穴があったら入りたい・・・)

流石に穴はなかったので顔を手で覆って顔の赤さを隠す。恥ずかしさに悶えているとポンと頭の上に何かが置かれた感触がある。何事かと思い、手の覆いを外すとフジさんがほほ笑みながら自分の頭を撫でている。

父親以外の男性に頭を撫でられたことがなく、男性経験が少ないためどうしたらいいかわからない。今度は違う意味で顔が赤くなる。

(ど、どうすればいいのおー!!)


しばらく、なすがままになっているとフジさんはレンさんに向き直る。

「いい加減、笑うのやめろ。女の子にとっては大事な問題なんだぞ。」

レンさんは、叱られているにも関わらず笑い続け、ついにはゲホッゴホッとむせはじめる始末だ。

「すみません。こういう奴なんです。先ほどの質問ですが、今回の依頼には関係がないと判断したのでそのような情報は調べておりません。ご安心ください。」

(よかったー)

心の中で喜んでいると、やっと笑いの波が治まったのかレンさんが呼吸を整えている。

「それでは、レンも落ち着いたようですので、そろそろ本題に入りましょうか?」

この言葉をきっかけにレンさんは先ほどの爆笑が嘘のように無表情を顔に貼り付け、フジも笑みを消す。雰囲気が張りつめたものに戻り、私も背筋を伸ばし居住まいを正す。

(いよいよだ。)

はい、と返事をして先を促すとフジさんがレンさんを見やる。それを受けてレンさんが話し始めた。

「まず、お前に送ったメールだが、噂と違ったろ?」

そういえば、噂に聞いていた事と内容が違っていた。私も不思議に思っていたことなので素直にうなずく。

「俺たちは、依頼人に会うことはほぼない。依頼内容が送られてきた時点で、大体の事態は把握できるし、依頼解決に必要な情報や依頼者の個人情報を集めることが出来るからだ。だから、依頼人からあれこれ話を聞く必要もなくなる。まあ、どうしても話を聞く必要性が出た時にはメールで事足りるしな」

なるほど、と納得する。風姿花伝演劇部の技術力は先ほどのプロフィールの件で実証済みだ。

(あれ、じゃあ何で私はメールじゃダメだったのかな)

レンさんが言った通り、千世も依頼の時に大体の内容は説明したし、足りないことがあればメールで更に説明を求めればいいことだ。

「なんで、私には会ってくれたんですか?」

素直に聞いてみるとレンさんは不機嫌そうになる。

「黙って最後まで聞け。お前に会うことを決めたのは、依頼を受けるかどうか迷ったからだ。連絡が遅くなったのもそのせいだ。正直、依頼内容から悪戯かと思ったがお前を調べてみると悪戯をするような性格じゃない。だったら、直接会って話を聞いて悪戯かどうか判断してやろうということになった。」

うん、よくわかったようでよくわからない。要するに悪戯かどうか判断がつかなかったから、私の様子を見て依頼内容が本気かどうか確かめようということなのか。まあ、初見で断られなかったのは普段の生活態度のためだということは分かってこれからも真面目に生きていこうと心に決める。

「ということで、依頼内容についてもっと詳しく話してくれ」

黙れと言ったり話せと言ったり、この短い時間でレンさんは綺麗な顔をした暴君様であると痛感する。しかも、こちらの理解を待っていてくれない。黙っていると、それを肯定と受け取ったのかレンさんが妖艶な笑みを浮かべる。

「では、語ってもらおうか。なぜ、三木本伊織を切り裂き魔から守ってくれという依頼をするにいたったのかを」

正直、まだ頭は混乱していたがここは話すしかないようだ。一呼吸ついてあの日の記憶を何一つ取りこぼさないように丁寧に思いだし、話し始めた。


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