2幕 風の便りはいつ来たる
送信しました
(とうとう送ちゃった・・)
スマホの画面を見つめ、ため息をついた。本当かどうかも怪しい噂に縋るのはどうかとは思うが自分の力ではもうどうにもならないのだ。それに、もう時間もなく、噂でもいいから誰かにたよりたい。そんな思いから半ば勢いで送ってしまったけれど本当に助けてもらえるのか不安で仕方がない。
(今は夜の11時だから、噂通りなら24時間以内に返事が来るはず)
落ち着かない気持ちのまま、明日も学校があるため眠りにつくことにした。もし、夜中にメールが来てもすぐに気づけるように着信音量を少し上げて置く。これで準備はOKだ。ベッドにはいると眠れない日々が続いていたことに加え、助けてもらえるかもしれないという安心感もあって少しではあるが眠ることが出来た。
そして、まだ夜も明けきらないうちに目覚め、すぐさまスマホをチェックするが、新着のメールは届いていない。はあ、と思わずため息をついてしまった。
「大丈夫、まだ時間があるじゃない。」
そう自分を励ますと学校に向かう準備をして家を出る。もちろん、スマホは持ってきたが校内では鳴るとまずいのでバイブ設定にしておく。
学園についてもポケットのスマホばかり気になって、声をかけてくる友人にも気の抜けた返事をしてしまったし、午前の授業にも身が入らなかった。
昼休みになり、いつも一緒にお昼を食べる友人が待つ中庭にむかう。正直、スマホに張り付いて居たい気分だが、友人に怪しまれてしまうのでそうもいかない。自分の様子がおかしければ、心配性な友人は理由をきいてくるだろう。そして、依頼したことを話してしまえば芋づる式に依頼内容についても聞いてくる可能性が高い。誤魔化すことは苦手ではないが、自分としても本意ではない。それならば、初めから気づかれないようにした方がいいだろう。ここ一週間友人が部活で忙しかったし、クラスも違うので顔を合わさずに済んでいたが、今からはバレないように気合いをいれなければならない。
(よーし!普段通りにするのよ)
にこっと顔に笑みを作ると、友人の元に駆け寄る。
「おまたせー」
「ていうか、なんかあった?」
席に座るやいなや向かいに座る友人である三木本伊織に顔を覗き込まれる。
「えっ、えっ、なんでもないよ」
気合いを入れたにも関わらず、いきなり核心をついてこられて驚きを隠せない。
「だって、目にクマが出来てるし、いつもだったらメールすぐに返信くれるのに大分たってからの返信だし、さっきもドモったし」
(す、鋭い・・・。っていうか、私のアホ。なんで気づかなかった・・・)
やばい、やばい、やばいと呪文のように心の中で唱えながら必死で言い訳を考える。このままでは、速攻でバレてしまう。そんなことになっては、今まで隠してきたことが無駄になってしまうではないか。
(そんなことには、させないんだから)
訝しげな顔をする伊織から目をそらしつつ、口を開く。
「あのね・・」
伊織が、うんうんと頷きながら身を乗り出してくる。
「あのね、実は、私、この前の数学のテストで30点とっちゃって・・・。さすがにやばいなあって思って遅くまで勉強してたの」
私が数学が苦手なことは、伊織も知っているし不自然な嘘ではないはずだ。そう思いながら伊織の反応を窺う。
「ああ、そうなのね。だから、クマも出来てるし返信も遅かったんだ。もしかして、メールで邪魔しちゃったりした?」
ううん、大丈夫だよ。と答えながら何とか騙せたらしく安心した。かといって、30点で信じてもらえたというのは少し情けないものがある。いくら苦手だといっても実際の点数は、もうちょっと上だ。
「私が教えてあげられたらいいんだけど・・・」
時間ないしなー、と悩み始めた伊織を見て、自分のことを心配してくれているのだと思うと嘘をついてしまったことに対して罪悪感が増してくる。
「最近はちゃんと勉強しているから平気だよ。それより、伊織の方こそ公演の練習で大変なんじゃない?」
「まあ、大変と言えば大変なんだけど好きなことだから楽しいんだ。」
そう言って伊織はにっこりとほほ笑む。好きなことに一生懸命取り組んでいる姿は、とても輝いていて、見ていると応援したくなる。
伊織とは、1年の頃に同じクラスになり、クラスが離れてしまった今も昼食を一緒に食べる仲である。伊織は茶色の少しウェーブのかかった長い髪に長いまつげが印象的なモデル系な雰囲気がある美人で、性格も姉御肌気質で面倒見がいいため女子からも男子からも人気がある。地味で性格も明るいとは言えない自分とは正反対だ。
また、伊織は演劇部に所属していて、次の一般公開公演で主役を演じることが決まった。全国コンクール常連のうちの演劇部で二年生から主役が選ばれるとうのは異例のことで先輩たちの指導にも熱が入っている結果、放課後はもちろん昼休みも返上して練習している。最近、一緒にお昼を食べられなかったのもこのためだ。今日はたまたま演技指導をしてくれている部長に用事があったため、練習がなくなったのである。
それからしばらく、何気ない会話をしていると予鈴がなった。
「予鈴なっちゃたから行くわ。勉強みてあげられなくて本当にごめん。あと、また明日から練習はじまるからお弁当一緒に食べられないわ。それもごめん。」
「気にしないでよ。それよりも、練習頑張ってね。応援してるよ。」
おう、と片手をあげて返事をする後ろ姿見送って、ふうっとため息をつく。久しぶりに伊織と会って依頼のことがバレずにすんだと安心した反面、絶対に解決しなければという思いが強くなった。しかし、頼みであるところからは連絡が一向にない。
まだ、お昼じゃないか、と朝と同じことを思って自分に気合いを入れおす。
しかし、授業も終わり放課後になってしまった。周りでは部活に向かう生徒や遊びの予定を立てる生徒でにぎわっている。私は部活にも入っていないので急いで帰り支度を済ませると学園を出た。