紅魔館
「文文。新聞でーす!」
「はーい」
朝早く。
パタパタと駆けてきた妖夢が、文から新聞を受け取る。
そんな少し前の白玉楼では考えられなかった光景は、既に日常として定着しつつあった。
「今日は、何か面白い記事はある?
お茶くらいなら出すけど」
「あやや、残念ですけど次の機会にお願いします。
今少し忙しいので。
あ、面白い記事なら、何時もみたいに一面に載ってますよ!
それでは!」
「頑張ってくださいねー」
手を斜めにして額に当てた、軽く敬礼をした文は、風と化して白玉楼を飛び出していく。
文字通り、忙しいのだろう。
最後の妖夢の声は、聞こえなかったかもしれない。
「妖夢ー、天狗が来たみたいだけど、新聞来たー?」
「来ましたよー」
とりあえず戻って幽々子と妖璃と一緒に新聞を読もうと決めた妖夢は、足早に縁側に戻っていった。
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「赤い霧ですか。
でどころは、幻想郷に新しく出来たこの館みたいですね」
「大きい館だねー」
「そうねー」
幽々子が広げた新聞を右から妖夢、左から妖璃が覗くように見る何時もの状態で、三人は密着して新聞を読む。
端から見ると、親が読んでいる新聞を双子の子供が興味本意に覗き混んでいるように見えて、なかなかにほっこりとする景色だ。
「にしても、来て早々に異変を起こすなんて、血気盛んなんですかね?」
「そう考えるのが普通だよねー。
でも、なんとなーく違うように感じるんだよねー」
「そうねー」
「「幽々子様?」」
先程から気のない返事を続ける主に、二人の従者はどうかしたのかと心配する。
だが、幽々子はニコニコと笑うだけだ。
そこに、妖璃は危険を感じた。
キセルを一服する。
「幽々子様、何をたくらんでいるんですか?」
「あらら、流石に妖璃にはバレるわね」
「幽々子様、今私の事を軽くバカにしてませんでした?」
「妖夢は、あまり頭が回る方じゃないもの。
妖忌と一緒で、切れば何でも理解できると一時期思ってたものね」
うぐっ、と妖夢が口を詰まらせる。
それを見た幽々子がクスクス笑うのを見て、妖夢はからかわれたことを自覚した。
だが、妖夢の口から文句が飛び出す前に、妖璃が口を開いた。
「幽々子様、やってもらいたいことは何ですか?」
「妖夢が面白かった頃の妖忌に似てるのに、貴方は少しつまらなくなった頃の妖忌に似てるわねぇ、妖璃」
「すみませんです」
「良いわよ別に。
こうしてあげれば」
スルリと妖璃の手を引いて、引き寄せると耳に強く息が掛かる。
瞬間、艶やかな悲鳴が響いた。
「可愛くなるものね~」
「は、はひぅ」
「妖夢も見る?
今の妖璃の顔、すごくかわいいわよ。
いつの間に能力使ってたのかしら」
「見ませんよ。
あとで妖璃が泣きます」
「貴女の顔も真っ赤ね。
この紅魔館みたい。
どっちが赤いか見てみたいわ~」
「からかわないでください!」
「からかってないわよ。
ちょっと気になっちゃたの。
だ・か・ら」
脱力状態の妖璃を妖夢に向けて押し付ける。
妖夢が慌ててそれを抱き抱えるのを確認したあと、幽々子はパチンと指をならした。
妖夢が不思議な浮遊感に襲われる。
「見てきて感想、教えてね?」
目玉だらけの空間に、双子の半霊は落ちていった。