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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

青年と少女の普通ではない物語

作者: 懸巣

 地下室の様な部屋に響く、咀嚼音と(たま)に響く何かを砕く音。

 音源は、部屋の壁際に座る一人の青年。一心不乱に何かを食べている。その様子を近くにて、腰を屈め見つめる少女が一人。片腕は一部を残してその先がなく、残る一部を紐で強く縛り止血しているようだが、断面からは未だに血が滴り落ちている。その所為で床には大きな血溜まりが出来ている。だが、少女の顔には出血やそれによる死、また青年に対し恐怖や怯えは一切なく、痛みによる歪みもない。


 少しして、咀嚼音が聞こえなくなる。青年の手には白い何かがあり、体のあちこちが血に塗れている。白い何かをごみ箱に捨て、血や汚れを洗い流す為、少女は備え付けの洗面台の蛇口から幾つかの桶に水を注いで運ぶ。そして、数個の桶が青年の回りに置かれると、その中から一つを青年が自分の頭上に運んで一気に引っくり返す。その後、石鹸で服や髪、体をほぼ同時に手際良く洗っていく。その度に使われる水は汚れと共に部屋の片隅にある排水口へと流れていく。

 それから、歯を磨いて、青年は少女が用意した寝間着に着替える。

 少女は時計を一瞥し、何かを考える。然程経たずに終わって、備え付けのベッドにて青年は抱き着いて一緒に寝る。


 翌日。少女は両腕(・・)で様々な作業をしている。部屋の掃除、洗濯など。青年はその間、邪魔にならないよう移動する。一通り終わり、青年の前に朝食が置かれると急いで食べ始める。その時にも咀嚼音に混じり何かを砕く音がする。食べ終えると歯を磨いて漱ぐ。少女も少しふらつきながら、朝食を食べると歯を磨いて漱ぐ。


 少女はその後、青年と読書を始める。少女の見た目は十歳以上であり、実際に十二歳は越えている。普通なら現時刻は学校に居る筈である。しかし、少女は行こうにも行く事はできない。少女は、容姿は人であるが、実際は人非ざる存在である人外だからだ。又、両親が居ないからだ。

 一方、青年は十六歳の人間であり、帰る家がある。では、青年は何故ここに居るのか。


「これ、何と読むの?」

「これは『ほたる』だよ。」

 青年は、少女が読めない漢字の読みを教える。その後、少女は止めていた目線を再び動かす。少し経つと、また動きが止まり青年に尋ねる。その遣り取りが暫く続く。無言や有言は関係なく、二人の間には和やかな雰囲気が漂っている。ふたりは相思相愛である。


 さて、何故居るかという事についてだが。外に出辛い少女に青年が恋して共に住んでいる、ただそれだけ。

 経緯はこうである。

 青年は中卒後、アルバイト帰りに少女と出会い、一目惚れ。

 少女は買い物帰りのようで手に重そうな袋を持っていたが、少女は俺を見るや否や、物凄い勢いでその場を後にしてしまう。

 青年は一瞬遅れて、その後を追って、あるアパートに着く。

 そのアパートは、巷では近づいてはならないと言われている。理由は知らない。

 地下に降りる階段を数段飛ばしで下りて、その先の扉を開き中に入ろうとしている少女に追い付く。

 勢いはそのままで少女に抱き付いて告白。

 少女は行き成りの事に顔を赤くしてあたふたし、抱き付く青年を少女には有り得ぬ力で引き剥がし突き飛ばす。

 青年は突き飛ばされ、尻を強かに打つ。

 少女は涙目で部屋に入り扉を少し開け、そこからこちらを見る。

 そして、捲し立てるように自分の正体や断りを告げると扉を閉じる。

 青年はしょんぼりしつつも、俄然やる気が出る。

 それから仕事をしない日は、少女の行動を(つぶさ)に観察し、部屋の前に数度手紙と何かを置き、それを長い事続けて。

 そうして、ある日遂に少女は折れ、青年が引越して。それで今に至る。

 そう、青年は疑いようのないストーカーだが、今まで恋愛経験無しの少女は知らない。恐らくこの先ずっと知る事は無いだろう。


 少女が本を一冊読み終える頃、地下室だから分かりにくいが外は既に夕暮れだ。

「ねぇ、今更だけど少し聞いていい?私のお肉(・・・・)、美味しい?自分では・・その、分からなくて。」

 少女が青年に尋ねる。"私のお肉"とは、文字通り少女の骨付き肉。毎日三食全てではないが、この肉はよく食べられている。実際、昨日の青年の夕食はその肉。それ故に、少女は昨日片腕しか無かった。

 しかし、翌日には片腕は元通り。何故か。その理由については、先ず少女が持つ人外の力について説明しなければならない。

 少女は人外だからと強い訳ではなく、余り特出している能力はない。自分と同年代の常人より幾分か脚力や腕力が強く、寿命は常人と同じ。唯一、特別な事は―幾ら臓器や手足等を欠損しようとも心臓が動いていれば、深夜になると全て回復する。代価なしで。だから、昨日失われた腕が、翌日には元通りという訳だ。又、この能力のお蔭で数ヶ月前まで孤児(みなしご)で生きる事ができ、それから現在も貧窮しているから重宝している。


「美味しいよ。でも、何度も言うように。もっと美味しくなる様、もっと君が綺麗になる様、そして今後やこれから誕生するであろう子供の為に一生懸命働くよ。」

 そう言い、青年は微笑む。少女はその微笑みに顔を赤くし、そっぽを向く。

 それから、食事の用意が始まる。献立は今日も変わらず、()である。

 分厚い板に切断部位を乗せ、固定する。板には液体を一ヶ所から排出する為の溝が彫られていて、排出先の真下にバケツを洗って設置する。そして、切断予定の近くを紐でかなり強く縛って血流を悪くし猿轡を噛ませ―――青年は包丁でその周辺部の肉を削ぎ始める。麻酔はしていない為に、痛覚はそのまま。軽減される事なく伝わる激痛の余り、少女は堪えきれず叫ぼうとする。しかし、猿轡の所為でできない。少しして、限界に達してしまい、気絶し失禁する。しかし、休む間もなく襲う痛みの所為で直ぐに覚醒する。何度も気絶と覚醒を繰り返して、漸く削ぎ終わって肉片が付着している骨が露わになる。次に包丁を鉈に変え、峰を骨へと体重を乗せて振り下ろす。何回か繰り返して、漸くぼきっと音がして骨が折れる。その後、二つに分ける工程だが、やはり骨により時間がとられるも何とか終える。最後に程よく血を抜いて、遂に肉(二人前)が出来上がる。

 青年と少女は肩を並べて、和やかに肉を食していく。赤い液体で満たされているコップを時折飲みつつ。

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