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ぼく一人  作者: わかやま
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 寒さがつのる日中、恒太郎はそれを隔てた本屋のレジで突っ立っていた。大学の近くにある本屋である。町の中心部からそうは離れていないが、駅から遠いため客が多すぎるということはなかった。

 今日は一限だけの日である。恒太郎は一限が終わるとそのままアパートに帰り昼食を食べる。そして間髪いれずにアルバイトにやってくる。ここはアパートからは自転車で十分ほどのところだった。

 暇ではない。客は本を買っていくし、掃除もしなくてはいけない。それに心がなんだか忙しかった。人々の動く姿を見ていると、自分も今何かをしているという意識が強くなり、焦りに似た感情が芽生える。アルバイトに来てぼーっとするなどということは一度もなかった。いや、普段の生活もそうなのかもしれない。それはいいことなのか、悪いことなのか。

 茶色いベストを着た若者が店に入ってきた。外は風が強いのか、寒そうだった。店に入った瞬間の顔には、暖かいところに来た安心感が浮かんでいた。

 さっきからコミックの棚を何度も往復しているのは、髪の短い女子だった。高校生くらいだろうか。しかし平日のこの時間帯に本屋にいるのだから実は恒太郎と同じくらいなのかもしれない。

 雑誌のコーナーにはうるさく主張する表紙がいくつも並んでいて、目をやるといくつかの字を追ってしまう。そんな時間の過ごし方もありだった。

 恒太郎は背筋を伸ばし、レシートの整理をしていた。すると後ろから話しかけられる。

「レジ変わるから、モップかけてきてくれる?」

 そう言ったのは店長だった。もうすぐはげ、そんなニックネームが似合うような彼はしかし、はげてはいない。額が異常に広いだけだった。

「はい」

 抑揚も何もつけずに恒太郎は答え、場所をあける。モップを手にして、本棚の間を掃除し始める。

 この本屋には、他にもアルバイトがいる。しかしその中で話をしたことがあるのは数人だった。話をしたといっても、大したことではなく、実際のところ親しくなれそうな人は一人もいなかった。そうなると恒太郎も、頑なに一人を通し、話しかけられないような態度をとった。本当はその行動には大した意味がないのに。

 店の中心の柱にかかっている時計が六時を指したころ、同じアルバイトの船井がレジに立ちながら船をこいでいた。客が本を手にそれを見ていた。恒太郎はレジに近づき、清算をした。船井はごめんと小さく謝った。彼は恒太郎より一つ上だった。

 やがて七時になり、恒太郎のバイト時間は終わる。そそくさと事務室に入りタイムカードを押すと、帰宅の用意をし、店を出た。店の外は真っ暗だった。

「さむ……」

 思わず声に出してしまう。そうだ、本当に寒い。薄い上着しか持ってこなかった恒太郎は急いで自転車に乗り、漕ぎ出した。

 卵を買おうと思ってたんだよな……。でも明日でもいいか。いや、今買った方がいいか。ああ、それにしても寒い。

 迷いながら交差点を右折し、近くのスーパーに自転車を止める。

 そして卵と、少しの野菜、それにサケを買って店を出た。また寒さと向き合った。

 帰ろう。

 恒太郎は自転車にまたがり、ペダルをこいだ。それがどうしても、一生懸命に見えていそうだと思ってしまうのは、自意識過剰なのだろうか。


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 休日のある日。ぼくはチェックのワンピースを着て町を歩いていた。ワンピースの下は最近買ったデニム。履物はブーツだった。髪は髪どめで止めてある。

「恒太郎さん」

 時計屋の前を通った時、ぼくはそう呼びとめられて声のする方を向く。見ると、右の通りから、とてもおしゃれで上品な服を着た君江さんがぼくの方を見て笑っていた。

「ああ、こんにちは」

「ええ。この間は美味しいピザをありがとう」

「いえ」

「あら、この辺でアルバイトでもしてるんでしたっけ?」

 君江さんはそう言いながらぼくの手荷物を確認する。ぼくは今何も持っていなかった。ポケットに財布は入れてあるのだが。

「いや、ぼくの働いている本屋はもっと先です」ぼくは北の方を指差す。

「ああ、そう」

 君江さんはとてもきれいだった。髪をきれいにとかし、高そうな服を着ている。ぼくは少し目を奪われていたが、すぐに「立ち話もなんですし、たまには二人でお茶でもいかがです?」と言ってみた。

 すると君江さんはにこやかに笑い、「ええ」と答えた。今日は腕時計も眼鏡もなかった。

 近くの喫茶店に入ると、ぼくらは紅茶を頼む。やがて運ばれてきた紅茶は暖かく、身体が温まった。

「こうして見ると本当に女の人のようね」

「そうですか」

 あまり関心がなさそうにぼくは答えた。実際、特に意味はないと思っている。しかし、ほめられるのなら悪い気はしない。

 芹沢さん達に会うときは、服装はまちまちだった。

「今日芹沢さんは?」

「あの人は今家で映画を編集してる」

「そうですか」

 ぼくはそうしている彼を思い浮かべる。想像の彼はとても真面目な顔で、もちろん眼鏡は手書きではなく本物だった。

「元気がないね」

 君江さんが窓の外を見ながら言う。ぼくも視線を窓の外に移すが、特にこれといったものは見られない、日常の景色だった。普通に店があり、普通に人が歩いている。

 ぼくは何も言わず、紅茶に口をつける。少しだけ冷めたそれは先ほどより飲みやすいが、暖かい方がよかったとぼくは思う。何も変わらないことが、どうしてできないのであろう。

「でも恒太郎さんはいつもそうね」

 ぼくは君江さんを見る。彼女は鮮明で、しかし形がなかった。

「よく分かるんですね」

 すると彼女は微笑んで、言う。

「みんな分かってるわ、みんな」

 ぼくはその言葉を心の中で繰り返した。


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 やはり冷やかな自分の部屋は恒太郎を歓迎していないかのようだった。寒い。恒太郎は電気を点け、うがいをする。そして腰を下す前に、部屋の奥にしまってあったホットカーペットを机の下にしいた。これだけでこの部屋は暖かくなる。この部屋はこれだけで自分にとって居心地のよい場所になるはずなのだ。

 ホットカーペットのスイッチを入れて、床に座る。テーブルにはこたつ布団を用意した。まるで冬の支度だった。恒太郎は自分を寒がりだと思っている。寒がりだとか暑がりとかは誰に言われたらそうなのかと常々思っているが、世間の基準が低いことを知った今では、自分は寒がりだと思うようになった。

「私、変わってるの」

「私、細かいところで記憶力がいいの」

 それらが何を基準にしているのかが分からない。自分の説明をしたい気持ちはすごく分かるが、もうちょっと冷静になろうと自分に言い聞かせる瞬間だった。しかし、そういう話になると、人は喜ぶ。それを利用して人とコミュニケーションをとる自分。気付くと虚しく、悲しかった。自分は冷たがりなのかもしれない。

 電気の力でカーッペットが暖かくなってくる。幸せな瞬間だった。床に大の字で寝転びたい。しかし、しない。それはそれで面倒くさい。

 恒太郎はいつものようにテレビとDVDのスイッチを入れようとして、今度はテレビだけを点けた。ニュースに変える。今日は何があったのだろう。ものすごくほのかな興味だった。

 しかし、ニュースはやっていなかった。ニュース番組では今、何故か今日の料理をやっている。

 画面をじっと見る。そこには小さい入れ物に入った調味料が並んでいた。こういうのが好きだった。料理番組は大好きだ。心が躍る。

 しかし、その料理を作る人、食べる人、周りにいるお笑い芸人などのしゃべりを聞いているとまた気が滅入ってきた。

 ため息が出る。今日も一日が終わる。自分は何ひとつ変わっていなかった。毎日毎日考えることだけをし、変わった自分を想像するも、行動には移せない。

 電話を見る。誰かからかかってこないだろうか。

 食欲がない。

 そして食材もない。

「ちょうどいいのか」

 なんかそれも悔しいな。丁度いいなんて、何か変だ。

 恒太郎はそのままこたつでじーっとしていた。暖かさと、思考だけを背負って時間を過ごす。何かをしようにしてもすぐに嫌になるのは分かっていた。というか、すでにその何かを想像しただけでいやな気持ちになっている。仕方がない。

 電話を見る。そして同じクラスの佐々木を思い出した。あいつは電話をしていたな。

 あいつはいいやつだ。だけど、自分とはうまくいくのか分からない。

 寝ようか。眠れないに決まっているが、寝よう。

 恒太郎は冷蔵庫から酒を出し、少しずつ飲んだ。その液体は一日の疲れた体に重く浸透し、気持ちよくなる。半時間もすると、眠気がやってきた。すかさず電気をけし、布団にもぐりこんだ。


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「トランプしようぜ」

 大水がそう言って自分の荷物からトランプを取りだした。夕食がすみ、机の上に残っているのは酒のみだった。

「ああ、しよう」

 ぼくも機嫌がよく、笑っていた。

「おう、いいな」

 橋本もやる気満々だった。

 広い机の上にトランプが配られていった。大水が一枚一枚三人のところにおいていく。

「おし、まずは七並べな」

 七並べか。久しくやってないな。何だか懐かしい気持ちになる。懐かしいなどと、まだ二十歳そこそこの自分が思うのは変なことなのに。

「俺からだ」

 大水が言い、カードを置く。彼はダイヤの七を持っていた。

 七並べは楽しい。そして、この三人でやっていることで、酒が入っていることで、ぼくの気分は最高のはずだった。実際ぼくは始終笑顔だったし、楽しかった。しかしそれはなんとも虚しい思いをさせた。

「何か悩みでもあるのか?」

 橋本が三連勝を遂げた後にぼくに言った。見ると大水もこちらを見ていた。

「いや、大丈夫だ」

 ぼくはそう答え、

「お前らは?」

 橋本は笑って、

「大水にはないよな」

 その言葉に大水は「なんだよー」と笑ったが、ぼくは今の空気が好きで、嬉しくなった。大水は、昔からこうなのだ。橋本も。そう、昔から。

「料理美味かったな」

 ぼくは言った。すると二人ともうんうんと頷いた。

「やっぱこれくらい出すと違うんだな。めちゃめちゃ美味かったもん」

「な。まずいのなかったな」

 ぼくらは時間を共有し、同じ料理について話す。

「大水の食べ方は相変わらずだったなー。好きなものを最後に残す」

「いんやぁ、今日はみんな美味かったからなぁ。あれでも試行錯誤を重ねたんだぜ」

「重ねた結果エビが最後か」

「もちろんだぜ」

 それからは仕事の話。昔の話や今の話、いろいろした。話題は尽きることはなかった。ぼくらは全力で話し続けていた。

 そしてぼくらはずいぶん長い間話す。朝が訪れることはない。


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 授業開始の十五分前に家を出た。やはり外は肌寒く、時刻はもう十時程であったが、気温は低かった。そう言えば今日からまたいっそう冷え込むと天気予報でやっていた。

 自転車に乗る。サドルが冷たいのに心の中で悲鳴を上げる。そのままゆっくりと漕ぎだした。

 アパートの前の道を東に100メートルほど言ったところで右折する。そこからは一本道だった。走っている途中風を切りながら恒太郎は、周りの景色が昨日と変わっていないか確認をする。同じ時間に登校する生徒が恒太郎を抜いていく。彼は先週食堂で見かけたな。あっているか分からない憶測を恒太郎は平気で確信にうつす。

 やっぱり近い大学。門をくぐり、図書館の近くに自転車を止める。本を二冊、返そうと思っていたのだった。そのまま図書館に入り、本を返す。中は暖かかった。再び外に出たときには、少し身体が熱くなっており、冷たい空気が気持ちよく思えた。

 恒太郎の通っている大学は決して広くはない。学部が一つしかない工業大学なので、学科数も知れている。他の大学に比べればとても狭いに違いない。恒太郎は建物を見渡す。こうして見ると、入ったことのある教室は少ない。

 図書館から少しだけ離れた建物に向かう。そこが今日の最初の授業の教室だった。今日の授業は、ただノートをとりまくるというものだ。先生は、そんなに板書が好きなのかというほどに書き続け、生徒らはただそれを書き写す。たまに誰かが質問をするが、人のしゃべる声が聞こえるのはその時くらいで、全体的にみると静かな授業である。

 しかしこれで勉強になるのだった。先生の板書は汚く、形式もわざと下手に取ってある。それを生徒らがノートに写すとき、生徒らはどうしても内容について考えないことにはそれを写せないのだ。形式を考え、どこに言葉が入るかを考える。この授業はひたすら学びの九十分である。ただ写すだけの授業のはずが、終わったころにはとても疲れている。もちろん、生徒の中にはノートのコピーを回したりしている奴もいるが、それでは恐ろしく頭に入らないのだった。

 授業開始後、恒太郎は今日もシャーペンを走らせる。頭の中にはいくつもの言葉が浮かびあがっている。いくつかはメモし、後で調べることにする。いつもそうしているのだが、調べるのは結局テストの直前になってからであろう。メモはきれいなまま次々と数を増やしていった。

 その授業が終わると、あともう一つ授業を受ければ今日は終わりだった。そして今日が終わると週末だ。休みである。心が解放されるようでもあり、しかし何もできないのは目に見えている。しかしそうは言っても休みは待ち望むものに違いなかった。

 携帯電話を確認する。そこには誰からの連絡も知らされてはいなかった。音が出ないようにそれを閉じる。

午後は、普通に過ごした。問題も変化もなかった。ただ、レポートが出た。


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 天井の色を声に出して言ってみたり、うずくまって布団の端の糸のほつれの長さを考えたり、無意味なことをしていた。

 家から出る気力がない。

 もともと、今日は出かける予定はなかった。出る必要はないし、出ようとも思っていなかった。じゃあ、問題はないはずなのだが、問題なのはこうした日々が一昨日から続いていることだった。

 流石に誰かから連絡があるだろう。そう思って携帯電話を開くも、誰からも連絡はない。ぼくはいろいろな人の顔を頭に浮かべる。しかしみんな、ただ空疎に笑っているだけだ。

 ひきこもり屋っていうのはどうだろう。

 はいはい、ひきこもりますよ~。よってらっしゃい、見てらっしゃ~い。

 これでは何をもって仕事としているのかがよく分からない。そうか、ひきこもるのなら、ひきこもって何かをしなくてはいけないか。しかしそれはちょっと違う気もする。

「白。でもちょっと黄色。あとちょっと灰色。茶色も」

 天井の色は、難しかった。ぼくは色の名前を知らなさすぎる。

 芹沢さんは、ぼくのことをどう思っているだろうか。千博は、今何をしているだろうか。誰か、ぼくのことを考えてくれている人はいるだろうか。

「いる」

 思われている。ぼくは何人の人に思われている。

 そのうえで連絡が来ないのだ。それは確信に近かった。ぼくの考えなのだから、正しいとか正しくないというものでもないのだ。

 ふと、いろいろな景色が見たくなり、ぼくは布団から出た。そして台所へ通じるドアを開ける。そこには想像通りの、真っ白な一本の道が現れた。永遠に続いていそうな道。きれいな道だった。

 こんなきれいな道は、あの劇団によく似合う。あの人がここを走り、そしてあの人が冗談を言う。ぼくは想像しながら、普通のスピードでそこを歩いた。出口はない。

 しかし急にさみしさに似た思いに駆られる。何もない。何もないのだ。これではいけない。

 ぼくは不安になり、周りを見回した。すると近くに宇宙船のようなものがあった。ぼくの着ている服は普通だったが、ぼくは疑いもなくその宇宙船に乗った。それは一人用らしく、ぼくが乗ると中は狭くなった。

 これがスイッチだろうと思う、青い出っ張りを押した。そしてハンドルをつかむ。するとどうだろう、外は相変わらずの真っ白から、急に反転、真っ暗の空に星が出ている。ぼくは冷静で、その中を進んでいく。まだぼくは一人だった。

『どこにいるの?』

 通信装置のようなものから声がした。それは誰の声だったろうか。芹沢さんの声のようにも聞こえ、君江さんの声にも聞こえ、はたまた千博、大水、橋本、誰の声にも聞こえた。

 そうか。やはりみんなぼくのことを考えていてくれたのだ。ぼくは嬉しくなって答える。

「ここだよ」


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 連結部に近いところに座っていた恒太郎は、電車が出発したときから強い揺れを感じていた。電車とはこんなにも揺れるものだったか。高校の時に通学で使っていたときは気付かなかったな。

 手に何も持っていない恒太郎は無意識に指を組んでいた。今日は本もない。

 周りの人間はみな知らない人だった。しかし、一度その顔を見ると、次見たときには何故かもう知っている人のように見えるのは不思議だった。同じ時間を共有しているということだけで、何かの感情が芽生えるのだろうか。その、あまりにも大したことではない関わりですら感じる共鳴は、どうして普段の日常コミュニケーションで発揮されないのだろう。

 鞄に手をつっこむ。そういえば音楽プレーヤーを持っている。恒太郎はそれをヘッドホンに接続し、電源を入れ、ヘッドホンを耳にあてた。音楽が流れてきた。いきなり、大声で歌い出した男の声にはとても惹かれるものがあり、少しの間だけ夢中になる。

 車窓から景色を見る。音楽を聴く。これは十分な、ながら作業であり、二つのことをしているのだから忙しいと言えた。音楽のリズムと景色と電車のスピードをうまく合わせられないかと思ったがうまくいかなかった。建物の現れるタイミング、その高さがあまりにもまちまちだったためである。

 目を閉じる。そしてすぐに開ける。

 二時間は長いな。今、恒太郎は実家に向かっているのだった。学校から帰ると、着替えと、兄に頼まれていたCD、あと少しの用意を持ってすぐに出発した。迷いのない行動には無駄な時間は不必要だった。効率のよい時間の過ごし方を何故か無意識に頭で考えていた。

 家に帰るのは夏休みぶりなので約二カ月ぶりだった。決して久しぶりではない。何も変わっていないし、何かが変わっていることを期待しているわけでもなかった。

 電車に乗っていると、きっといろんな会話が聞こえる。恒太郎は今ヘッドホンをしているので聞こえないが、あの、扉の近くに立っている高校生はきっと昨日のテレビドラマの話をしているのだろうし、その近くの二人席に座っている髪の長い女性はきっと、家族の話を友人にしているのだ。そして通路を挟んでその向かいに座っている三十代くらいの女性は今日の夕飯について考えている。彼女はそうだ、最寄り駅に着いたら、とめてある車に乗って近くのスーパーに向かう。そこで今日の夕飯の材料を買うのだ。あの顔はそのメニューを悩んでいる顔なのだ。

 恒太郎の家の夕飯は何だろう。考え始めて、しかし、もやっとしたものが想像の中に漂う。少し苛立ちを覚えたのだ。

 また景色を見る。真っ暗で見えないが、視線の先には山があるはずだった。しかしそれは今見えない。今見えなければ、意味ないのではないか。見えなければ、山はないに等しい。

 恒太郎は今日、親の作った料理を食べる。

 祖父母は大学に通う恒太郎を称賛したが、彼らには何か見えているのだろうか。ぼくの未来に。恒太郎には、何も見えなかった。ないに等しいのだ、未来なんて。


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 ぼくはありとあらゆる時間の過ごし方を思い浮かべては実行した。本を読み、映画を観た。しかしそれらは半日ももたない。気力はどんどん低下していく。何気なくぼくは、机の上のパソコンのスイッチをつける。そして、ある掲示板をのぞいた。そこはぼくがいつものぞく、他愛もない話ばかりをしている掲示板だった。

『味噌田楽が食べたい』

『旅がしたい』

『ノーベル賞ってすげぇな』

 そこには様々な人間が様々なつぶやきを書き込んでいた。それに対してのレスもいくつかみられる。ここの掲示板は思ったことを書きこめるという点で、ぼくはいつも利用していた。

 キーボードに手を置く。今考えていることをそのまま書く。

『消えたい』

 すると、すぐにもレスがついた。

『俺も』

『もちろん私も』

 そのスピード感に安心しながらぼくは続ける。

『何もしたくない』

 今度もすぐに返信がある。

『そうだな。じゃあ、千歩譲ったら何ができるか考えてみようぜ』

『千歩かぁ』

『私、電話は一億歩』

『そうか。俺はじゃあ、千歩だったら、チャーハン作るよ』

『チャーハン?』

『ああ。チャーハン作る』

『美味いのか?』

『さぁ、しらね。作ったことないしな』

『Rは?』

 ぼくは少しだけ考えてキーボードに指を走らせる。

『勉強かな』

 書いていて自分でも驚く。そうか、自分は勉強がしたいのか。

『なるほど。確かに』

『はぁ? 俺は絶対やだなー』

『学びはいいぞう』

 まるで直接話しているかのような錯覚に陥り、ふと他人の存在に気付いたりする。ぼくは落ち着いてキーボードのひとつひとつを眺める。人とのコミュニケーションがみんなこんなだったら、もっとうまくいくのだろうか。それでは一体、何が違うのだろうか。

 エンターキーを押すたびにぼくの胸は静かに躍った。

 ふと、何かのにおいが部屋に充満しかけていることに気付く。ぼくは反射的に周りを見回す。しかしもちろん何かがあるはずも、誰かがいるはずもない。何だ、一体。

 パソコンはそのままに、立ち上がり玄関の方へ向かう。見ると郵便受けのふたが開いており、そこから何かが見えている。

 ほんの少しだけ笑った。「誰か」がぼくの部屋の前で、料理を手ににおいを部屋に送っている。なんだよ、それ。

 団扇で仰いでいるのか? その図は滑稽だ。ぼくは想像してみたが、そこに人のぬくもりはなかった。

 このにおいは本物か? 本当に誰かそこにいるのか?

 ぼくはゆっくりと、玄関のドアを開いた。


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 玄関の扉を開くと、廊下の突き当たりには明るい照明が見えた。家のにおいがする。突き当たりにあるドアを開くとそこは居間で、今は家族三人が恒太郎を待っていた。

「時間、ぴったりだな」

「相変わらずだなー」

 言ったのは兄と父。恒太郎は「ただいま」と言うと、すぐにまた部屋から出、二階の自分の部屋に荷物を置きに行った。

 自分の部屋のにおい。何日かに一度は母が換気をしていると言っていたが、換気では取り除けない、自分のにおいがそこには染み付いていた。嗅覚では分からない、自分のにおい。

 電気をつけるとまず目に入ってきたのは、入口のすぐ横にある日本地図だった。すぐにも安心感が体中に走った。

「ああ」

 ただいま、と思う。この日本地図は恒太郎が中学生のときに自分で模造紙に書いたものだ。日本列島を書き、県に分け、それぞれの県には恒太郎が勝手に抱いたイメージと、少ないけれど人口などのデータも書いてある。もう7、8年は前のものだから、データも古いかもしれない。けどそんなことはどうでもよかった。湿気で紙が湿ったり、乾いてぱりぱりになろうと、恒太郎はこの地図を自分の部屋のシンボル的存在の一つとして決めていたのだ。

 荷物はベッドに無造作に置き、居間に戻る。その際、洗面所によってうがいをする。水が冷たかった。気持ちがいい。家に帰ってきた少しの高揚感にその冷たさはたまらないものだった。

「鍋、鍋」

 父は嬉しそうに言う。

「お酒飲む?」

 母は何故か慌ただしげに言う。

「……」

 兄はただ黙々と食べている。

 三人が三人とも恒太郎を歓迎しているのは何となくわかった。それが少しくすぐったく、家族の温かみを感じる。土曜日がこんな日になるのは悪くない。そこには険悪な空気もなく。

 本当か?

 ちょっとしたことでバランスを崩す恒太郎の家族は、すぐに空気を悪くし、みながみな苦しんでいた。そんなのは、ついこの間だってそうだったのだ。そう、今の状態は、ただ、今日の状態なのだ。

 でもそれのどこがいけないのだろう。いいのか。いいのだ。今日、みんなが楽しければ。もし、何かバランスが崩れるようなことがあれば、自分は喜んで譲歩しよう。

 兄はがつがつと食べ物を口に運び、父は酒ばかりを飲んでいる。家にいたころは嫌でしょうがなかった家族の食事のマナーにも、苛立ちを覚えなくなっている。これは成長なのだと勘違いするつもりはない。ただ、結果がよければ何でもよかった。

「うまいな。やっぱり鍋は大人数で食べたほうがうまい」

 恒太郎は思わず言っていた。仕方がない。口から出たのだから。

「そうさ、絶対そうに決まってるってー」

 父が言う。その顔は赤い。しかし恒太郎は苛つかなかった。

 たまにはこんな時間もいいな。虚しいだけの時間より、いいに決まっている。だけど、これが何になるだろう。考えても仕方がないのに、考えてしまう。

 これに関しては、フィクションなんか大嫌いだった。


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「返却は再来週の木曜日ですね」

 カードに印字された日にちを指しながらぼくは言った。相手はここにはよくくる男性だった。名前は確か、持田さんだったか。

 ぼくは目に見える範囲で館内を眺める。現在の利用者は三十人といったところか。時刻は九時半。いつも通りの人の量だった。この図書館は広い。もちろん、こんな世界の図書館なのだから特殊でないはずがないのだが、それはもう背の高い棚から、画質よく映像を見られるスペースなど、いろいろなものがある。背の高い棚というのは、今目の前に何列も並んでいる、全長約六十メートルの棚だった。もちろん高いところに行くのにはリフトや梯子が用意されているが、ほとんどの利用者は「飛んで」そこまで移動していた。

「井上くん」

「ああ、ミドリさん。おはようございます」

「おはよう」

 話しかけてきたのは、この図書館のすぐ近くでカフェを経営している青木緑だった。

 彼女は有名だった。社交的で、才能があって、たくさんの人に頼られている。もちろん、知り合いが多い。ぼくもその知り合いの一人だった。

「あのさ、この間言ってた本、あった?」

「ああ、ありましたよ」そう言ってぼくはすぐに受け付け内の棚に移してあったその本を見せる。

「どうも違う棚にまぎれていたらしいですね」

「そっか、ありがとう」

 料理の本だった。緑はカフェで出す料理をいろいろと研究しているのだろう。実際の厨房には変な五人組と、共同経営者の藤木信一郎がいる。藤木はできた人間で、安心していろいろ任せられるとよく緑は言っている。そこのカフェはやはり有名で、いつも混んでいる。

「あと何かお勧めは?」

 そう言われたのでぼくは、最近入ったミステリーや、新たな視点で書かれた面白い辞書などを薦める。緑はその話を真剣に聞いていた。

「やっぱり、本のことは井上くんに聞くのが正解だ。分かりやすいし」

 ぼくは笑って返す。そう言ってもらえるのは何よりもうれしかった。

 そのとき、後ろの方の棚で困った顔をしてこちらを見ている人がいるのに気付いた。ぼくは慌てて立ち上がり、緑に「すみません」と言うと、そちらに向かう。

 少し力を入れると身体はふわりと浮いた。そしてそのまま浮上し、その人のところにたどりついた。

「どうしました?」


 この世界にも、いろいろな職業がある。けれど、普通の世界と違うのは、誰もが自分のなりたい職業についていることである。ぼくももちろんその一人で、図書館司書を六年やっている。

 六年。多分、六年やっているのだ。

 自宅は自分の好きなように作られている。何と気持ちのよいことか。住みやすいのは当たり前のこと。

 道は、きれいである。土の色がよく、コンクリートなどはない。車などは一台も通っていない。ただ、空には箒であっちこっちを行き来するものをよく目にする。

 ぼくの家はとあるマンションの一室である。部屋のベランダからは東京タワーよりも高い塔が見える。そこへはいつでもいけるのだが、上ったことは一度もなかった。いや、もしかしたらあるのに忘れているだけかもしれない。


 目をつぶるとその景色は歪み、夢から覚める。そんなことはない。そんなことすらないというのが正確だった。

 ぼくは自分の部屋のベランダから塔を見ている。

「だってこの景色は瞼の裏にしか映っていない」


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 何の前触れもなく眠りから覚める。ゆっくりと目を開き、まず目に飛び込んできた勉強机を見て、実家に帰ってきていることを思い出す。自分のものはほとんどアパートに移してあるが、それでもこの部屋は半分ほど埋まっている。

 身体だけを動かして、ベッドの上に置きっぱなしになっていた本を手に取ってみる。それは恒太郎が高校のときに読んだものだった。懐かしい。

 懐かしいという言葉をよく人は言う。けれど、懐かしいという感情に、証拠はない。涙も出なければ、動悸が激しくなるわけでもない。人はみなきっと、意図せずその言葉を吐いているのだろう。

 どうしてこの本はここにあるのだろう。どうしてアパートに持っていかなかったのだろう。考えながら、答えは出さずにそのまま本を元あった場所に置いた。

 本棚を見る。そこにはたくさんの本があった。それは恒太郎が過去に読んだ本。それぞれに、その当時の恒太郎の指紋がついているのだ。それってすごい。

 けれど、過去とは一体何なのだろう。昔というのは、どういう意味なのだろう。どうして昔という言葉は、口にするのをためらわせるのだろう。

 やっと起き上がり、階段を降りた。居間のドアを開けると、そこでテレビを見ている父に出会った。

「おはよう」

 壁の時計は午前八時を示していた。

「おはよ」

 父はやっぱり何故か明るい声で言った。

 恒太郎はそのまま着替え、歯を磨き、トーストを見つけ、焼いて食べた。この家には、いつのまにかトースト焼き機があった。トースター、か。恒太郎がこの家に住んでいたときにはなかったものだった。聞けば、何かのくじで当たったものらしい。

 チン!

 そういう、びっくりマークのつく音を伴ってトーストが飛び出してくる。かわいい。恒太郎は少し笑った。

 マーガリンを塗って、それが溶ける前に、パンが冷める前に口に放り込む。一枚食べると、お腹がいっぱいになり、寝転びたくなった。うーん。

「今日は何をしよう」

 と口にするのも何だったので、とりあえず自分の部屋に戻った。カーテンをあけ、窓も開けた。朝の空気は澄んでいて、それはアパートの周りの空気よりもきれいだった。そこから見える景色の中には、あのくそばばあはいない。

 予習やら宿題の類は学校で済ませてきてあったので家にもち帰ったものはない。今日は何もしなくていい日だった。誰かを誘ってみようか。近くに住んでいる知り合いの顔を思い浮かべる。違うか。

 映画でも見ようか。いやそれではアパートの暮らしと変わらない。では、何をしたらいいのだろうか。

 恒太郎は突然に思いつき、本棚の中からあるアーティストの全曲集を引っ張り出す。ページには何度も開いたあとがあり、軽く開けると、決まったページに移動していた。

 適当にページを開き、あとをつけて閉じないようにする。そしてその歌詞を見て、歌ってみた。

 階下には父がいたが、特に気にはならなかった。あの人はテレビを見ているから、自分の声など聞こえるはずもないのだ。

 虚しさを抑えて、自分の声をよく聞いた。

 歌っている間は、全曲集をじっと見ていた。

 うーん……。そうだ、今日の夕食を作ろう。それがいい。歌うのをやめて、何をつくるかを考え出す。

 がんも。がんもにしよう。

 恒太郎はその旨を母に伝えると、また部屋で歌を歌い始めた。気持ちがいい。自分の声が気持ちいいとか勘違いしてしまいそうだった。

 しかし、隣の部屋で兄が起きる音がしたとき、歌うのをやめた。またベッドに寝転び、先ほどの本をぱらぱらとめくってみる。

また読もうか。

 いや、いいか。昔、読んだわけだし。

 昔。昔っていつのことなんだっけ。

 それからは四時間ほど、恒太郎はベッドの上で何もせずに過ごした。頭はせわしなくはたらいていたが、昼食をはさんでからはそれが昼寝に変わった。


        26


 道に緑が足りないか。そう思って道の端をみると、そこにはちゃんと野草が生えていた。そうか、生えていたか。ぼくは一人で頷いてまた歩き続けた。

 ぼくの家は駅の近くだった。そこから今、適当に町を歩いている。駅の正面には小さな噴水があって、そこでは若い男の人が二人でストリートライブをしていた。そこはいつもそうなので、みんなに受け入れられ、何人かそこで立ち止まって聴いたり、近くに座って聴いたりしている。

 その噴水にぶつかってから右に曲がると、すぐに楽器屋がある。何の気なしに視線を向けると、中で店長がギターを弾いているのが見えた。彼はたくさんの人に慕われている。音は聞こえなかったが、楽しそうな雰囲気だけは感じ取れた。

 その店の前の道は延々とつづいている。次の町まで続いているのだ。図書館もこの道に面していた。ぼくは歩き続け、次から次へと店を見て行った。家具屋。雑貨屋。布屋。時計屋。紙屋なんてのもある。この町にはほとんどの店があるが、どれも大してかぶっていなかった。かぶっていたとしても、商売敵とかそういう話にはならないようになっている。何より平和が大きなテーマなのだ。

 黒ネコの形の看板を右に曲がると、すぐ左にカフェがあった。緑さんの店だ。お昼時には少し早いので、すぐに座れるだろう。ぼくは吸い込まれるようにしてその店に入って行った。

「いらっしゃいませー」

 奥のカウンターから藤木信一郎の声がした。彼はぼくに気付くと、「ああ、ごぶさた」

 と言って自分の目の前の、カウンターの席を指した。店内にはまだ空いている席があったが、ぼくは悩むことなくそこに座った。

「大丈夫か?」

 カウンターを挟んで向かい合ったぼくに彼は言った。彼とは幼いころからの友人である。

「大丈夫。ちょっと、ひきこもってたけど」

「うん。いや、知ってるけど」

 ふふっと信一郎は笑う。ぼくもそれにつられて笑ってしまう。彼が営業向きだと思うのは、こういうときだった。客はきっとこの愛想の良さには弱いだろう。

「そんなときでも店にはこいよな。サービスしてやるから」

「ああ」

「で、何食べます?」

 彼はそばにあったメニューをぼくの方へ滑らせる。しかしぼくはそれも見ずにすぐに答えた。

「今日はクリームパスタ」

 家を出るときから決めていたのだ。変人コックの一人、レイちゃんが作るパスタはおいしいと評判で、ぼくもそのファンの一人だった。

 ぼくの声を聞いてか、偶然か、厨房につながる通路から顔を半分だけ出してその男がぼくの方を見ていた。

「見てるし」

「見てるな」

 信一郎と一緒になってそれを笑う。

「レイくん、クリームパスタだって」

 信一郎がそう言うと、右手をさっと揚げて宣誓のポーズをしたかと思うとすぐに厨房に消えて行った。

 その姿を見送ってから、再び信一郎はぼくを見て言う。

「緑も心配してたし」

「緑さん?」

「ああ、図書館行ったらいなかったって」

「ああ、休んでたから」

「いや、知ってるけど」

 青木緑は本当に頼りになる、できた人気者だった。彼女を嫌いな人はいないし、ぼくも例外ではない。そして今、その話を聞いてまた彼女への印象がよくなる。

「いい人だな」

「ああ」

 そう言う信一郎の顔はどこか誇らしげでもあった。

 しかしまぁ、今この場に彼女がいないのはまだ寝ているからなのだろうけど。

「まぁ、いつものことだ」

 実際彼女が店に出ているところを見るのは三回に一回ほどだった。事実上店長は信一郎で、オーナーが緑だという話だった。

 やがて出てきたクリームパスタは、やはり特別に美味しかった。ぼくはこの店が大好きだった。いや、この店だけではない。図書館も大好きだし、他の店だって好きだ。

 この町は、特別な町だった。


          27


 兄の自転車を借りて、近くのスーパーに向かっていた。通る道はどれも慣れ親しんだものだった。

 家の前の道から二百メートルほど先にある三階建ての家。同級生の家だ。通り過ぎながらその顔を思い出し、思い出にふけってみた。ふと、その家の庭に誰かがいるのに気付く。それは友人の母親で、恒太郎も中学生の頃に何度も会っていた。

 変わんないなぁ。変わらなすぎる。

 髪の毛から、服から何から同じのような気がするな。もちろんそんなことはないのだろうけど。

 もっと進むと庭に犬のいる家を通る。以前はここでよく犬に吠えられたのだった。

 いるかもしれないと視線を向けると、案の定犬は恒太郎を見て唸っていた。やがて吠え始める。そうか、まだいたか。そりゃいるよな。何してたんだろうな。

 スーパーの駐輪場は混んでいた。恒太郎は何とか自転車をねじ込み、中に入った。そしてかごに次々と商品を入れて行った。無駄のないスピードで、さくさくと入れていった。豆腐、ひじき、じゃがいも、あとは何がいるんだっけか。

 商品を入れ終わると、すぐにレジに向かい清算をすます。再び自転車のサドルを踏んだのは約十五分後であった。そして再び犬に吠えられたのはそれから五分後。家に帰ったのは十分後だった。

 時刻は四時半。恒太郎は買ってきたものを冷蔵庫にしまうと、先に風呂に入ることにした。かなり早いが、むしろ何だか気持ちがいい。

 台所に立ったのは六時前だった。材料を切り、豆腐は水を切ってから混ぜた。そうしてがんもをひとつひとつ揚げていった。一人暮らしではなかなか揚げものをしないので、久しぶりの揚げものだった。

 全てのがんもを揚げ終わるころには、家族は着々と風呂に入り、他のものを用意していた。そして恒太郎が席に着くと、一斉にみんなが料理に端をつけた。

 恒太郎はがんもを一口食べる。

 美味しい。

「美味い」

「美味しい」

 達成感と満足感で気分がよくなった恒太郎は、また酒を飲んだ。というか、もうすでに用意されていた。それはいつもより美味に感じる酒だった。

 兄の前にある皿のがんもはみるみるなくなっていった。恒太郎はそれを見て見ぬふりして、自分に近い皿のがんもを食べた。

 それは一つめより味が落ち、なんだか少しだけ虚しくなった。


 その夜。恒太郎は自分の部屋の布団の中で三時間は眠れずに寝転んでいた。ただひたすら考えていた。自分という人間や、他の人間のことを。

 昼寝したから眠れないのだろう。仕方がない。でもだからといって他にやることはない。仕方がない。こうしているしかないのだ。

 恒太郎の脳裏には今、様々な人の顔が浮かんでいた。しかしみんないい顔をしていない。それは自分のせいだろう。

 自分には何もできないのは明確だった。毎日毎日結論として考えるまでもないのに、それでも毎日同じことを考えている。

「がんもなら作れるけどな」

 そんな虚しい言葉は誰にも受け入れられず空中で消えた。

 何もない恒太郎にはでも、この部屋もあった。家族もいる。家族、それはかけがえのない存在だった。それも、毎日結論づけられることだった。

 いろいろなことを考えて、最後に新手の疑問が浮かぶことがある。

 自分は今、何を悩んでいる?

 すぐに答えられそうで、でもよく分かっていないことだった。


          28


 ガラスの引き戸を開けると、四列に並んだ洗い場と奥に湯船が見えた。その壁には富士山の絵が書いてある。ぼくは服を着たままで、その壁に向かって歩く。そこに人は一人もいない。

 湯船につかろうと、足を上げたとき、気配がして前をみると、富士山のてっぺん、白いところが黒くなっている。そしてそれは小さな黒から大きな黒へと変化していった。

 穴か。

 その穴が大玉ころがしの大玉のサイズほどになると、どこか遠くから水の流れる音が聞こえてきた。ぼくはまだ、湯船に向かっていて、その音をただ茫然と聞いていた。

 やがて近くなってきたその音は、大量の水という形で正体を現した。真っ黒の穴の中から大量の水が流れてきたのである。前方からいきなり現れた洪水にぼくは当然のように流される。百八十度回転し、流されて、先ほど入ってきたガラスの扉も通過する。通過するとそこからは滑り台のようになっていて、ぼくはどんどん流された。液体の感触はするのに、水の冷たさはひとつも感じられない。その矛盾に、少し気持ち悪さを感じながらも、ぼくはやっぱり流された。

 今まで色を忘れていた周りの背景が、急に水色になったかと思うと、それは水そのものだった。プールの中のようだった。でも壁はない。後方からはもちろんのこと、左右から、斜め後ろから、上方から、そして、前から。どんどん水が流れてくる。やがてその色が黄色に変わったり、赤に変わったり、紫に変わったり、いろいろな色に変わりだした。

 原色と液体の世界だった。それと、ぼく。

 スピードはまさに滑り台を降りるようなくらいで、でもお尻を痛めることはなく、すいすい、すいすい。

 ふいに下の台がなくなった。ぼくは宙に投げ出された。反動で少し上方にあがり、そのまま落下した。

 落下する際も、液体が流れている。ぼくと同じ速さで落ちていくものもあれば、速いものも遅いものもあった。

 底はあった。それも水だった。プールに飛び込んだような感じで、ばしゃんと大きな音を立てて、ぼくはそこに立っていた。信じられないことにそこは周りすべてが液体だった。ぼくは息をしている。目も見える。音も聞こえる。

 音?

 そういえばさっきから、誰かの声が聞こえている気がする。そうだ、これは誰かの声だ。どうして今まで気付かなかったのだろう。

 ぼくは歩きだし、その音に耳をすませた。

「電車が遅れております。お乗りになるお客様は落ち着いて、奥の方へつめてください」

 事故でもあったのだろうか。そんな呑気なことを一瞬考える。そしてここが、電車のホームであることにやっとぼくは気がついた。右にも、左にも、電車の通る線路があった。外なのか、中なのか、分からない。一体何をもって外だとか中だとか言うのだろうか。

 相変わらずぼくは一人で、電車を待った。電車の音が近づいてくる。そしてその音が一段と大きくなったと思ったら、オレンジの車体の電車が目の前に現れた。

「発車します」

 ドアが開いたと思ったら、もうそんなことを言っている。ぼくは慌てて飛び乗った。ぼくのその姿を見られたのだろう、

「駆け込み乗車は非常に危険なので行わないでください」

 そんな声が今度は車内で聞こえた。


         29


 寒さで目が覚める。布団の暖かさを味わいながら時計をみると時刻は八時すぎ。トイレに行きたくなったのでうだうだすることもなくすぐに起きあがった。

 階下では人の声が聞こえた。トイレを済まし居間に入ると、テーブルの上に朝食が用意されていた。恒太郎はそれを数秒眺めていた。

「お父さんが仕事だったから」

 母が恒太郎に言った。うん、と頷き恒太郎は椅子に座り、それを食べ始めた。味噌汁、ご飯、昆布、卵焼き、魚。朝食にパン以外を食べるのは久しぶりだった。

「おいしい」

 母はテレビを見ていて答えない。いや、答えなくていい発言とみなされたのだろう。

 たまにはごはんもいいな。そう思って、ひたすら食べ続けた。

「今日は何時に出ていくの?」

「昼食べたら行こうと思う」

「そう」

「今日は何か予定あるの?」

「んー、電気屋に行こうと思ってる」母は忙しそうに答える。

「ふーん」

「行く?」

「行く」

 ご飯を食べ終わると歯を磨き、着替えた。そして部屋に戻り、またベッドに寝転んだ。気持ちがいい。これが一番気持ちがいい。本棚から昔読んだ漫画を取り出し、読み始めた。くだらない漫画で、笑いがもれた。

 恒太郎が漫画に夢中になっている間に、兄が部屋にやってきてCDを持っていった。恒太郎は適当な返事を返した。

 二時間は一気に過ぎた。恒太郎はベッドからおり、階下をのぞくと、母が用意していた。出かける用意である。電気屋は十時からだった。

 恒太郎は自然に登場し、一緒に玄関から出た。母の車は真っ白の軽自動車だった。母は白が好きなのである。なんで白が好きなのだろうと、他の人に対してなら思うところなのだが、母に関してはもう当たり前になっていて、改めて考えることもなかった。

 道は空いていて、二十分ほどで目的地に到着した。

 恒太郎は昔から電気屋が好きだった。入るとやけにものが多い印象を受ける。端のほうにはやたら明るい電気売り場。それぞれの売り場にそれぞれの家電が大量に置かれているのが好きだ。日常生活ではこんな場面は目にしないのだ。冷蔵庫が十何台も置いてあるところなんてないのだ。

 母とは入口で別れ、恒太郎は店内を適当に歩いた。まずは音楽プレーヤーのコーナーに向かう。最新のものにはどういったものがあるのかを頭に入れる。これは大変に楽しい作業であった。

 次はパソコンの売り場である。これも恒太郎にはたまらないときだった。恒太郎はいろんなカタログに目を通し、自分のもっていない知識を頭に入れておく。こういったものを大学で専門としているわけではなかったし、専門にしたいとも思っていないのだが、興味は多分にあった。これは趣味というやつだろうか。未だにはかりかねている。

 熱心にカタログを読んでいると、突然後ろから肩を叩かれた。しかも強い力で。振り返ると、そこには懐かしい顔がいた。

「え、何なにー。内田! え、何してんの」

 そう声を出したのはぼくだ。

「何って見てわかるだろおめー。こりこり」

 内田こと内田直志は自分の着ている電気屋の制服を示す。そうか、彼はこの店に就職したのか。そう言えばそんな話を聞いたような気もする。

「帰ってきてるのか」

「ああ、週末でもたまに帰ってきたりしてるんだ」

 今日が特に大きな休みではなかったから、そう言った。

 恒太郎は久しぶりの友人の再会に気持ちが晴れてきた。そうか、こいつは確かに友人だ。

 直志は相変わらずのにやにや笑いで恒太郎の肩を小突く。

「今度飲みに行こうや」

 それには恒太郎も大賛成で、大きく頷く。

「ああ」

 直志はパソコンの説明と称し恒太郎とぺちゃくちゃおしゃべりをしていた。いや実際、パソコンの話もしていたのだけど。


       30


 液体世界のホームからぎりぎりで飛び乗った電車の中は乾いていた。水がない。普通の電車である。ボックス席になっており、ぼくはドアに近い席に適当に座った。周りに人は一人もいない。この車両にはぼく一人だけが乗っていた。

 電車が動き出した。運転手が行き先案内をしている。しかしそれはぼくには聞き取れなかった。それにそんなことはどうでもよかった。

 窓の外を眺めていると、その景色はホームからいきなり星空に変わった。まるで宇宙旅行のようだった。星がやたらと近い。そのせいか、ぼくにはその一つひとつがそれほどきれいには見えなかった。ただの巨大の石。地面。しかし、現実的でないその気配は神秘的であり、感動はしている。

 景色は変わっていった。基本は宇宙の星空なのだが、その中をゾウのパレードが通ったり、マラソン選手が走って行ったりもした。みんなに共通しているのは、走ったり歩いたりしているということだ。みんなどこかに向かって進んでいる。

 ふと、車内が暗いことに気付く。外のあまりの明るさに、その暗さは一層際立っていた。そこにぼくは一人座って、遠くの人々を眺めていた。

 隣の車両からは人の声がした。大勢の人が騒ぐ声。お酒でも飲んでいるのか、何かのゲームをしているのか、分からないがとにかく楽しげな音が聞こえてくる。がやがや。がやがや。

 なのに、ぼくの車両は暗く、ぼくは一人で、なんとなく寒い。

 空気が青い。

 ブルーか。ブルーなのか。

 しかし電車は進み続ける。ぼくが何を考えていようと関係がないのだろう。そしていつかこの電車はとまる。ぼくはいつかこの電車から降りる。それは決まっている事実のはずなのだ。今、不安でも何とかなる。ぼくにも未来はあるはずだった。


       31


 帰りの電車内。恒太郎はやたらと時間が長く感じた。やはりやることがない。やることがないことを意識することが異様に多い。二時間。無駄な時間が嫌いなはずなのに、何も持続させることができないのは悲しい事実だった。

 あと九十分。

 あと八十三分。

 あと、八十一分。

 恒太郎は電車内の人々の顔を見てみる。しかし、他の人が何を考えているかなどと、本当は興味がなかった。それを自分が考えるのが好きなだけである。本当は他人のことになどあまり興味はないのだ。

 アパートに帰ればあとは寝るだけだ。寝てしまえばもう次は月曜日だし、授業がある。そうすると、また今週のような時間を過ごす。何か変わっただろうか。いや何も変わっていない。自分はきっと来週も同じように過ごすのだろうし、たとえば十年前の自分でさえもそうは変わりないのだと思う。

 揺れを感じるのは楽しいし、流れていく看板を読んでいくのも楽しかった。それは言葉にしてしまえばそれだけのことで、でもそれだけのことが大事だと自分は思っている。

 言葉にして、思い浮かべること。それを誰かに伝えられなくても、最低限、自分を保っていたい。好きなものも明確にしたいし、自分の性格は自分がよく知っていたい。それが無理だと悟るのは絶対に嫌だった。

 恒太郎は悩んでなどいない。これが悩みなどと言える事柄は一つもなかった。これが日常なのだ。自分の好きな世界と共存して生きる。これが自分の今のすべてなのだ。現実だけがすべてではない。

 勉強は楽しい。大学に入ってよかったとよく思うことがある。学ぶことは、いろいろなものを超えた快感があった。その瞬間を味わうためにも、自分の進んだ道は間違いではないのだ。たとえ自分がそう思うことを拒絶したところで、それは矛盾した気持ちで、偽りの気持ちなのだ。

 いやだ。

 言葉にできない思考がある。いやだった。

 向かいの席に座っている若い男。革のパンツをはいて、チクチクのついたジャケットを着ている。ああいう男もいやだ。

 その隣にいる女子。タイツが紫である。いやだ。

 その隣にいるおじさん。太っている。いやだ。

 いやなのだ。簡単に、簡潔に表せる言葉はこれなのだ。だけどそれを言えば人は自分を決めつける。それも、いやだった。

 もっと柔軟に生きられないのか?

 それは自分にも言えることなのに。

 恒太郎には、実際の行動で迷うことはあまりなかった。


         32


 ゆっくりと減速していく電車。うとうとしかけていたぼくははっと目を覚まし、窓の外を見た。それはあまりにも見慣れた景色。ぼくのアパートの最寄り駅だった。

「電車が到着します。白線の内側でお待ちください」

 なぜかぼくの頭の中では駅のホームでの案内放送が流れていたが、ぼくはそれに流されるように電車の降り口に向かった。

 電車を降りると、階段を降り、もう一度登り、改札を通った。そこは確かに見たことのある道だったが、この間見たときとはほんの少しだけ違っているようにも思う。

 ぼくは駐輪場に向かい、自分の自転車を見つける。それは前回ここに止めたときとまったく変わらずにそこに佇んでいた。

 そうか。

 自転車にまたがり、迷いもなく道を選択して、とにかく漕いだ。時間にしてたったの十分だが、ぼくの中で時間は流れていない。

 アパートが見えた。相変わらずなかなか古い建物である。ポストを確認するが、何も来ていなかった。ぼくは二階の自分の部屋の前まで行き、鍵を取り出して開け、中に入った。

 寒いなぁ。

 急いでホットカーペットのスイッチを入れる。うがいを済ませ、軽く着替えた。そのまま冷蔵庫を確認した。そこには当然のように食材が山盛り入っていた。

 何をつくろうか。

 今ぼくが考えているのは魚料理と肉料理。どちらがいいだろうか。魚、肉。どちらも好きである。どちらかというと魚の方が好きだが、今日の朝食べたというのもある。

 とりあえず白菜とかまぼことしいたけで雑煮をつくることにする。急に思いついたのだ。雑煮。ゾウニ。餅も確かあったはずだ。

 ふと、窓の外に見える家のことを考えた。彼は元気にしているだろうか。ぼくがいないで食べていけているだろうか。楽しくやっているだろうか。映画は完成しただろうか。

 そして、机の上に出しっぱなしになったままの写真をみる。それはこのあいだの旅行でのものだった。橋本が自分でとった写真をぼくにも焼き増ししてくれたのだ。くだらないものから、きれいな滝までとっていて、写真は見ていて楽しかった。

 今日ずっと持っていた鞄をさっき置いたところから自分のところへ引き寄せた。床にティッシュを敷き、中身をぶちまける。びしゃびしゃに濡れていた。

「仕方がないな」

 それを見て少しだけ笑う。

「そうだ、雑煮を作るんだった」

 ぼくは立ち上がり、台所へ向かった。


    33


 洗面所の鏡に映った恒太郎の顔は無表情だった。その顔のまま歯を磨く。それが終わると、床においてあった半纏を着、カーペットの上に座り、つけたままの腕時計を外して机に置いた。その時計が示すには、今の時刻は午後八時らしい。帰宅してからもうだいぶたっている。帰りにどこかによってこればよかった。どうせやることがないのだから。

 机に頬を乗せる。気持ちがよかった。目の先が机に当たっている。恒太郎は少し意識した。

 こたつ布団にもぐりこんで、横になった。全身が暖かかった。

 乾ききっている。涙など出ようはずがない。恒太郎が一週間に流す涙はゼロだった。

 ぼくはいつも我に返っている。我だ。芹沢さんと話すぼくもぼくだし、千博と、大水と、橋本と、ミドリと話すぼくも、ぼくだ。

 恒太郎の世界は広がっている。たとえ空想でも、虚しさを抑えるのにそれは十分に機能していた。空想でもこの程度だし、ときどきさらに虚しくなるのだが、やめられなかった。恒太郎は物心がついたときから同じような空想をしていた。芹沢さんとはその時からの付き合いなのだった。


 いない。変な夫婦も、千博という女も、幼馴染たちも、空飛ぶ世界も、液体天国も、ない。女のぼくも、いない。

 恒太郎には悩みなどない。これが恒太郎の日常なのだ。

 明日からまた、月曜日が始まる。


      34


 となりの部屋がやけに騒がしい。ぼくは布団の中から何があったのだろうと想像をはたらかせてみるが、何も思いつかない。まだ起きたばかりの頭で、うまくはたらかないのだった。

 隣の部屋に住んでいるのは、見た目は無表情だが中身はすこぶる怖いフリーターだった。そして今聞こえる外の音からして、誰かが彼を怒らしているのは確実だった。そんな命知らずもいるのかと、ぼくは驚いた。

 しばらくすると騒ぎはなくなった。その終わりに、一番激しい怒号を聞いたような気がしたのは気のせいだったか。

 そしてすぐにぼくの部屋のチャイムの音が聞こえた。

「?」

 先ほどの騒ぎと何か関係があるのだろうか。面倒なことはたくさんだな。そうぼくは思ったが、どうせここは空想の世界なのだからと、思い切って玄関の扉を開けた。そこに立っていたのは、上品なスーツを着た、俳優みたいな顔をした男だった。

「な、何でしょうか」

 ぼくはひるみながら答える。

 すると彼はよどみなくぼくにこう言ったのだ。

「あなたの腕を見込んでお願いします。どうか僕に昼食を作っていただけないでしょうか」


 ――これがぼくと芹沢さんとの出会い。

 恒太郎は意識を授業へ戻す。そして想像した。

 芹沢さんが女のぼくを見たらなんと言うのだろうか。


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