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子の心、親知らず。親の心、子知らず。

作者: 羽賀優衣

文章を書くことに慣れていないので下手な文ですが、よろしくお願いします。

「何を考えてるんだ!」

僕を叔父さんが怒鳴りつける。

「すいません」

「ったく、お前はダメだな。正敏と兄弟なのが信じられんよ。」

弟は関係ない。

どうして引き合いに出すんだ

「お前は本当にどうしようもない。」

「………………」

「何だ?その目は文句でもあるのか?」

文句があっても言うことはできない。

言ったらここから追い出される。

僕の居場所はここしかない。

「いえ、ないです」

「ならさっさと部屋に戻れ!」

「……はい」

言われた通りに自分の部屋に戻り鍵をかける。

「こっちの気持ちも知らずに、勝手に言いやがって」

怒られていたのはテストの結果を見せたから。

何故叔父さんなのかといえば、悲しい事に…………僕の両親は二人とも死んでいる為、僕と弟は叔父さんの家に預けられているから。

要は保護者代理が……叔父さんなのだ。

最悪だけど、現実はそうなのだから仕方ない。

子供が喚いた所で何が変わるわけでもない。

ただ許容するだけ。

「ったく、マジで意味がわかんない。何で怒られるんだよ!」

テストは五教科で426点。順位は学年で12位。

素晴らしいとは言ってもいいと思う。

少なくともは怒られる成績ではないはずなのだ。

普通の家なら。

だが、悲しい事にここは普通ではない。

原因は僕の弟である正敏にある。

あいつは天才という言葉を具現化した人間だ。

テストでは毎回500点で一位。全国模試も一位。

容姿端麗、文武両道。

そんな弟と比較されてはどうしようもない。

できれば僕の事はほっといて欲しいのだが、近所で話題になるらしく、僕のテストの結果を必ず聞く。

答えたくない。

怒られるとわかっていて、言うのはただのアホだ。

でも、答えないと家から追い出されるから答えるしかない。

そしてさっきのように罵倒される。

いつもはあれに「お前は恥さらしだ。折角正敏が頑張ってるのにお前がこの様じゃなぁ。」なんて嫌味も加わる。

殺意を抱く事も少なくはない。


仕方ないさ



そう言って自分を慰めるこも毎回。

もう嫌だ。

なんであいつと兄弟に生まれてきたんだろう。

呪いたい気分

何を?何だろう。神様とか?親とかかな。

よくわかんないけど。

「つまんねぇな」

何が?と言われたら、

「現実が、世界が、生きてくことが、努力することが」


世界は平等にはできていない。


僕を見る人はいない。

見るのは弟だ。

僕にあるのはただ天才の兄であるというだけ。

他には何もない。

嫌な気分だ。

家にいたくないし、どっか出かけるかな。

持ち物はケータイと財布だけ。

服装も学校の制服のままで、僕は叔父さんにばれない様に家を出た。

そうだ!あそこに行こう

近くに小さな丘がある。

そこには建設中で会社が潰れてしまった為、そのまま放置されているのビルが残っている。

周りを金網の柵で囲まれているものの、人一人が通れるくらいの穴が空いている。

有難い事によく利用させてもらっている。

開けてくれた人には感謝の気持ちでいっぱいだ。

ビルは元々11階建ての予定だったが、7階で工事は中断してしまった為にそこが屋上になっていた。屋上は床と鉄柱はあるが壁は無い。

コンクリートの灰色の床は冷たい。

でも、視界は広く開ける。

だから、風景がよく見える。

今日は快晴。

澄み切った青色が僕の淀んだ気持ちを洗い流してくれる。

僕は灰色と青の境界に座り、足を空に投げ出す。

ここはいい場所だ。人もあまり来ないし、静かだし、眺めもいい。完璧じゃないか!

ただ一つ問題なのは、ここにいるのがバレると厄介な事になるだけだ。

学校の先生と叔父さんのお説教と警察の指導が貰える。

無料で。

欲しくはないけれど。

どうでもいいことを考えながら、ただ何と無く空を見上げていた僕の背後で足音が聞こえた。

誰か来たみたいだ。

今更隠れても遅い。

どうせもう見つかっている。

だったら隠れる意味なんてない。

だから空を見上げたまま、興味を示さなかったのだが、向こうから声をかけてきた。

かけてきたというのは少し違うかもしれない。

「な、なんで……なんでここに人がいるの⁉」

それは個人の自由だからさ。

まぁ、立ち入りは禁止されているけど。

今の……聞いた事ある声だな。確か同じクラスの…………

首だけ振り返り、声の主を確認する。

「あぁ、やっぱり水谷さんか」

声の主は肩のところで切った黒い髪と澄んだ黒い瞳の女の子。

名前は水谷 結衣。

「神凪君⁉」

今更ながら僕の名前は神凪 楓。

あんまり好きな名前ではない。

神凪なんて苗字はそういない。

だから、簡単に弟と結びついてしまう。

「なんでここに⁉」

驚いてばっかりだな、水谷さん。

「家にいたくないからかな。

水谷さんはどうしてここにきたの?」

つい顔が下を向いてしまった。

「私も神凪君と一緒。

家にいたくないの」

僕の横に座って答えた。

僕は顔をあげて、同じ様に家にいたくないと言った少女を見つめた。

どうしてだろう。

教室ではあまり話したことがない相手なのに、今こうして同じ場所で、同じ理由で居るだけで。

距離が縮まったような気がする。

そして、多分。

彼女なら僕の悩みを理解してくれる。

なぜかそう思った。

その思いは僕だけではなかったようだ。

少し間が空いてから彼女は自分の家について語り出した。

その後、僕も同じ様に話した。

彼女は僕と似ている。

姉がいる。

その姉は県の中でもトップの高校を出て、全国でも指折りの大学に現役で進学。

そして一流企業に就職したらしい。

エリート街道を真っ直ぐに突き進んでいる。

その姉と比較されて、彼女は苦しんでいる。

「似てるね、僕ら。

僕は弟、水谷さんは姉。

それだけが違う。

でも他は一緒だ」

「ホントだね。

ねぇ、少しだけ愚痴を聞いてもらっていい?」

似てるから思う存分話せる。

『普通の人』には話せないことも。

「いいけど、僕の愚痴も聞いてもらうよ」

微笑んで僕は言った。

久しぶりの笑顔は上手く笑えていたかはわからない。

不器用なものだったのかもしれない。


それから僕らは互いの家について愚痴りまくった。

時間を忘れるくらい熱中するくらいに。

気付いたらもう7時を過ぎていた。

最後にメアド交換して僕らは別れた。

……ついでにまた一緒に愚痴ろうと約束もして。







僕らは一ヶ月後には放課後、、あのビルで一緒に過ごすようになっていた。

ほら、眺めもいいから。

流石に一ヶ月も愚痴っていたから互いにネタ切れになることが多くなり、話すことは自然と学校のことなどの適当な話題に変わっていた。

学校でも良く一緒にいるようになり、噂が立ち始めたりしてる。

当然、噂は広まるわけで生徒から親に伝わり、叔父さんまで伝わった。

「お前は女の子と付き合ってるそうじゃないか。そんなことしてる暇があったら、勉強しろ!お前は馬鹿なんだ!弟に負けて悔しく無いのか!」

付き合ってないけど。

馬鹿なのは叔父さんの方だ。

悔しくないのか?

全くわかってない。

悔しく無いわけないだろ!

悔しいに決まっている。

負けて嬉しいとでも思っているのか!

だけど…………だけど、悔しいけど仕方ない事だってある。

「わかったら、部屋で勉強しろ!」

反論する間を与えないで命令。

相手の意見を聞こうともしない。

そういうところが嫌いなんだ。

「わかりました」

そうは言ったが部屋には戻らず、外に出た。

行き先を決めずにただブラブラと街中を歩き回る。

もう嫌だ。

僕には分からない。

どうすればいいのか。

正敏と比べられても問題無い様に弟に負けないように努力はしてきているのに、認められない。

届かない。

努力が足りないと言われる。

じゃあ、僕はどれだけの努力をしたらいいの?

友達と遊ぶことをすべて捨てて、趣味も何もやめて、勉強だけに勤しめばいいわけ?

家に帰ってからは夜まで復習と予習をこなし、勉強をしている。

そして、結果を出している。

僕の学校だって進学校だ。

その中で上位にいる。

なのに!

なのにだ!

更に怒られ、罵倒され、自分を否定される。

比べて欲しく無い。

僕は僕だ。

正敏とは違う人間。

あいつは天才。

僕は凡人。

凡人がいくら努力した所で、所詮は凡人。

天才には敵わない。

絶対に勝てないんだ。

気が付けば建設中のビルの前にきていた。

そして階段を上がって屋上に出る。

「何してんの?」

屋上には水谷 結衣が寝袋に入って寝っ転がっていた。

「寝袋に入ってるの」

「見りゃわかる。何で寝袋持ってきてるのか?って聞いたんだけど」

「…………家出」

顔まですっぽり寝袋に入って答えた。

まるで蓑虫みたいだ。

「家出。いいな、それ。

それなら叔父さんに何も言われないじゃん!」

名案。名案。

「楓も家出するの?」

寝袋から顔を出して僕を見つめる。

「いや、したいけどできないかな。

後で想像もつかないレベルで面倒な事になるから。

ところで、結衣はここに泊まってるのか?」

「そのつもり。さっき家出したから今日の夜が初野宿」

嬉しそうに頬を紅潮させている姿は小さな子供みたいで可愛い。

頭を撫でたくなる。

撫でないけどさ。

「家出なんて喧嘩でもした?」

気になっていた事を聞いた。

「うん。私はお姉ちゃんとは違うって言って出てきた。」

結衣の寝袋の横に座る。……結衣は強い。

そして僕は……弱く、臆病だ。

「凄いな。………………僕もそう言えればいいのにね。」

でも、僕には言う勇気が無い。

だから逃げてばっかり。

その後はどうでもいい話をして、最後に何で僕(私)と弟(姉)を比べるんだろうねという話になった。

「多分、期待してるからだと思うの。お姉ちゃんができたんだから、私もできるって期待」

夕陽が赤く染める空を見上げて彼女は言った。

「でも、私にはその期待が重い。私はお姉ちゃんとは違うから、お姉ちゃんにできても、私にできない事は沢山あるから。

でも、私にできて、お姉ちゃんにできないことだってあると思うの。

私は私なんだから」

「………………」

「楓の叔父さんもそうだと思うよ。

楓は凄い人だから。

叔父さんは期待しちゃうんだよ。

きっと楓ならできるって思うから」

結衣が寝袋ごとこっちを向いて言う。

そうなのだろうか?

とても期待してるようには思えなかったけど、でも何かにつけて弟に負けるみたいな事を言ってた気がするようなしないような。


♪~♪~


二人同時にケータイが鳴った。

僕は弟からだ。

結衣は家から。

僕も結衣も電話に出た。同じ場所で同じタイミングでかかってきたのに内容は全然違った。

「兄さん!早く来て!叔父さんが倒れた!今、中央病院だから。急いで!心臓発作らしいから!」

は?あの叔父さんが倒れた?嘘だろ?

「じゃあ急いで!」

切られた。マジかよ。あの叔父さんが…………

病院に行かないと。中央病院だったな。ここからは近い!



結衣も電話に出て驚きを受けた。

「ごめんなさいね、結衣。

あなたが苦しんでいるとも知らずにお姉ちゃんと同じ様にいいところ出て、いい会社に入って欲しい、っていう私の願望を押し付けすぎているって事に気がついたの。

これからはあなたの希望聞いて行きたいと思うのよ。

だから戻って来て…………

本当にごめんね。」

「いいよ、お母さん。

気にしてないから。謝らないで。 今から帰るね。」

切って、僕の方に視線を向ける。

「…………じゃあ私帰るね。」

「ああ、良かったな。……僕も行くか」

多分、彼女はこれから家族と話し合いをするのだろう。

強い彼女は自分の気持ちをはっきりと伝えて、理解を得れるはずだ。

さて。

僕は叔父さんのいる病院に行かなきゃいけない。

立ち上がって結衣より先に階段を数段下り、立ち止まって振り返る。

「結衣!頑張れよ!ちゃんと仲直りしろよな」

また前に向き直って階段を一気に降りる。

後ろで何か聞こえたが。何と言っていたのかは分からなかった。

でも、少しだけ勇気が湧いた。



結衣は頬を赤らめながら、降りて行く楓を眺め、誰にも聞こえないくらい小さく呟いた。

「君が応援してくれるから、私は頑張れるんだよ?…………楓、大好きだよ」

そして今度は大きく言った。

「楓も頑張ってー!!」

楓に言葉としては、届いてはいなかったが、心には届いた。





病院にはすぐ着いた。受付で病室を聞き、向かうと廊下に正敏がいた。

「叔父さんが兄さんと二人で話したいってさ」

「叔父さんが?」

これは…………また説教か?

それとも…………

「失礼します」

部屋の中は質素。ベットに……めぼしい物はそれくらいしかない部屋のベットに叔父さんは横になっていた。

「ドアをちゃんと閉めてくれ。そしたら座れ」

ゆっくりとドアを閉めて椅子に座る。

「医者が言うには残りはわずからしい」

最初は何を言っているのか理解ができなかったが、少し考えて寿命のことだとわかった。

わずか。適当な表現だ。

「だからお前に話したいことがある」

お説教か?

でも…………最後の話になるかもしれないんだ、今回はちゃんと聞いてやるか。

「お前は儂を嫌っていたな。

それは仕方ないことだ。嫌われても仕方ないことを儂はしていたからな。

儂はとてつも無く不器用だ。

伝えようと思ったことをまともに伝えられん不器用な男だ」

「…………それはアレですか?言い訳かなんかと思っていいんですかね?」

「そう思って構わない。その前に少し昔の話をしよう。

あるところにな、二人の男がいた。一人は勉強もスポーツも万能な男。もう一人は平凡な男」

まるで弟と僕みたいだ。

「二人は友人だった。とても仲のいい友人だったな。

万能な男は常に平凡な男の前にいた。

平凡な男は並びたかったのさ。

でも、すぐに気づいてしまった。

絶対に越えられない壁が存在することに。

平凡な男は諦めた。

努力することをやめ、二人の関係も次第に悪化し、ついには音信不通になった。

男は諦めるべきじゃなかった。

友情を失い、情熱もなくしてしまった」

叔父さんは視線を窓の外の空に移す。

「お前には儂の様に諦めて欲しくなかった。

楓の性格上挑発すれば乗ってくると思ってな。

ちと、やりすぎた気がするが、最初はうまくいった。最初だけだったがな、成功だったのは。途中からお前は逃げ出し始めたからな」

「仕方ないことです。

それに僕は正敏とは違いますから。

僕は僕です。

知り合いに教えられました。

僕は僕で、弟に勝つ必要はないんです。

自分にできることをやればいい、と」

「いい友達を持ったな」

「はい。今はその子がいるから、僕は頑張ろうと思えるんです」

「いい友達を持ったな」

「はい」

「儂とお前は違った。

たとえ、天才にかなわないと気づいても自分では努力をやめなかった。

その努力をやめさせたのは儂だ。遅くはなったが、その事に気付けて良かった。

大人の仕事は子供に自分と同じ過ちをさせないことだ。

だが、儂は押し付けすぎた。

許してくれとは言わない。

ただこれからも努力を続けて、正敏と仲良くしてくれ。

儂の最後の頼みだと思って叶えて欲しい」

「…………叔父さん、頼みは叶えるけどな。すぐってのは無理。まだ最後じゃないから。

叔父さんは医者の言ったことなんて全部吹き飛ばして、僕と正敏と三人で帰るんだよ」

叔父さんは驚いた様に僕を見た。



その目に写ったものは、今まで自分で見ようとしてこなかったもの。


ずっと嫌い続け、恨んでいた相手を許し、励ませる様にまで成長した楓の姿だった。


感想、意見はどんどんください。

次に活かすためにもお願いします。

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[良い点] 替えでの気持ちはいたいほどわかる [気になる点] おじさんは悪すぎる。何にもやってない ダメな大人だ 人の気持ちも考えようとしてない
[良い点] 泣けた、というよりもう涙腺ゆるゆるでした。 [一言] 本気で感動しました。 ここまで感動したのも久しぶりです。何というか、自分も頑張ろうと思えてきました。 続編希望します。
[良い点] おもしttrれええ『おもしれ』
2011/03/28 20:46 退会済み
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