第41話 チャイナブルー
傷を負って戦場から帰還した兵隊さながらのボロボロ具合だったと思う。髪はほつれて、油の浮いた顔はテカテカで、帰りの電車で気付いたストキングの電線……だけど、一刻も早く帰りたかった。私の心を癒してくれる大好きな人が家で待っていてくれる。
『定休日だから、夕飯作って待ってるよ』
こんなメッセージを見て浮足立たない人なんている?だって、家で夕飯を作って待ってくれてる人がいるなんて、それが私の大好きな人だなんて、初めてのことだし、もう嬉しくって。嬉しくって。
「ただいま」
出迎えてくれたエプロン姿の龍二さんが「大丈夫か?」と言った。
「がんばった……」
「みたいだな」
ヨレヨレの私に笑いながら手を差し伸べてくれる。その手を取って、玄関を上がった。優しく抱きしめてくれる。どうしよう……こんな幸せ、怖い。
「ほら、シャワー浴びといでよ、煮込みハンバーグだ」
「ヤッター!」
ほっぺをペチペチと叩いて気合を入れる。
怖がって欲しいものを手にしないなんて馬鹿げてる。私の幸せは、私の手で掴むんだ。
缶ビールで乾杯して、きれいに盛り付けられたハンバーグを堪能する。
「ここちゃん、私が食べたいもの、先生は何でも叶えてくれるのよ」
「よかったね」
「お昼はハンバーガーを食べに行ったのよ」
「そうなの?」
母との外出は楽ではない。だけど、龍二さんは事も無げに「ああ、な?」と言って母と微笑み合っている。
「昼に照り焼きバーガー食ったのに、夜は煮込みハンバーグがいいんだよな?」
「そうよ。先生ったら、明日にしようとか言うのよ。だから、こんな年寄りには明日があるかどうか分からないんだからって言ったのよ」
「すごい会話だね」
笑いが止まらない。
「心愛さんは?今日は学校、どうだったの?」
私は朝の校長室での出来事から、生徒たちへ報告したことを話した。
「皆、私のことを『ばら先生』って呼びだしたの。『さかきばら』から『さかき』を取ったら、『はら』は『ばら』になるだって……」
「ほほーん」
「龍二さん、なに感心してるの?」
笑いながら軽くぶつ。
「悪い悪い、大変だったんだなぁって思ってさ」
「もう、いちいちムキになるのも疲れちゃって放っておくわ、あんなサルみたいな子どもたち」
「あー、言っちゃったな」
「ここだけの話しよ」
あぁ……幸せ。
そうだ。せっかく手にしたこの幸せを守るために、私は頑張る。
***
二階に上がったのは初めてだ。心愛さんの部屋と、今は使われていないという弟さんの部屋がある。二部屋をぶちぬいたのかと思うくらい畳の大きな部屋は、心愛さんらしい物でいっぱいだった。
「子どもの時から使ってるから、恥ずかしいんだけど」
ベッドは大きい物だったが、学習机や箪笥なんかは当時のままなんだろうな。
「いや。快適そうだ」
「そう?」
どうしたらいいか分からず、俺たちは部屋の中央に立ち尽くしていた。
「ソファとか無くてごめんね。今度買いに行こうかな……」
「ごちゃごちゃするから、このままでいいんじゃないか?」
そう言って、心愛さんの手を取って、自分に引き寄せる。
「うん」
そう言って素直に俺の胸に納まる心愛さんを抱く手に力が入る。優しくしようと思っているのに、どうしても力が入ってしまう。
「心愛……」
好きだとか、付き合おうとか言うべきなんだろうか?だけどそんな、今、言葉にしたら薄っぺらく白々しく聞こえてしまいそうなことを口にしたくない。心が繋がっているのを実感しているから、敢えて言う必要は無いだろう。
「龍二さん、私……」
「龍二でいい」
「うん」
顎を上げてキスをねだる心愛にキスを返して、ひょいっと抱き上げる。
「ひゃっ」
お姫様抱っこってやつをしたまま、ベッドに腰を下ろす。心愛を抱いたまま熱い舌を絡め合った。部屋着のショートパンツから出ている太ももに手を這わせる。
「寒くないか?」
ひんやりしていて冷たい。
「寒くない」
吸いつくようなしっとりした手触りと、気持ちがいい温度に手が勝手に行ったり来たりしてしまう。柔らかくて気持ちがいい内ももを触ると、つい手の平に力が入った。むぎゅっと柔らかい部分を、つい掴んでしまった。
「もう。つままないでよ」
「無理だ。止められない」
心愛の身体を隅々まで撫でまわし、そのすべすべとひんやりとした感触を楽しんだ。心愛も同様に俺の身体中を撫でて、いたるところにキスをしていた。
「龍二、私……」
「ん?」
思いつめたような顔を俺に近付けて……どうした?
「ずいぶんと久しぶりで……」
そんなことか。溜め息をつくように空気を含んだ声で言うから、何事かと思った。
「心配すんな。俺も初心者みたいなもんだ」
お手上げのポーズをしている心愛の両手に俺の両手を重ねる。
唇から始まったキスを少しずつ耳へ、首へとずらしていく。
気持ちよさそうによがる心愛の声が、耳に心地いい。
傷を負って戦場から帰還した兵隊さながらのボロボロ具合だったと思う。髪はほつれて、油の浮いた顔はテカテカで、帰りの電車で気付いたストキングの電線……だけど、一刻も早く帰りたかった。私の心を癒してくれる大好きな人が家で待っていてくれる。
『定休日だから、夕飯作って待ってるよ』
こんなメッセージを見て浮足立たない人なんている?だって、家で夕飯を作って待ってくれてる人がいるなんて、それが私の大好きな人だなんて、初めてのことだし、もう嬉しくって。嬉しくって。
「ただいま」
出迎えてくれたエプロン姿の龍二さんが「大丈夫か?」と言った。
「がんばった……」
「みたいだな」
ヨレヨレの私に笑いながら手を差し伸べてくれる。その手を取って、玄関を上がった。優しく抱きしめてくれる。どうしよう……こんな幸せ、怖い。
「ほら、シャワー浴びといでよ、煮込みハンバーグだ」
「ヤッター!」
ほっぺをペチペチと叩いて気合を入れる。
怖がって欲しいものを手にしないなんて馬鹿げてる。私の幸せは、私の手で掴むんだ。
缶ビールで乾杯して、きれいに盛り付けられたハンバーグを堪能する。
「ここちゃん、私が食べたいもの、先生は何でも叶えてくれるのよ」
「よかったね」
「お昼はハンバーガーを食べに行ったのよ」
「そうなの?」
母との外出は楽ではない。だけど、龍二さんは事も無げに「ああ、な?」と言って母と微笑み合っている。
「昼に照り焼きバーガー食ったのに、夜は煮込みハンバーグがいいんだよな?」
「そうよ。先生ったら、明日にしようとか言うのよ。だから、こんな年寄りには明日があるかどうか分からないんだからって言ったのよ」
「すごい会話だね」
笑いが止まらない。
「心愛さんは?今日は学校、どうだったの?」
私は朝の校長室での出来事から、生徒たちへ報告したことを話した。
「皆、私のことを『ばら先生』って呼びだしたの。『さかきばら』から『さかき』を取ったら、『はら』は『ばら』になるだって……」
「ほほーん」
「龍二さん、なに感心してるの?」
笑いながら軽くぶつ。
「悪い悪い、大変だったんだなぁって思ってさ」
「もう、いちいちムキになるのも疲れちゃって放っておくわ、あんなサルみたいな子どもたち」
「あー、言っちゃったな」
「ここだけの話しよ」
あぁ……幸せ。
そうだ。せっかく手にしたこの幸せを守るために、私は頑張る。
***
二階に上がったのは初めてだ。心愛さんの部屋と、今は使われていないという弟さんの部屋がある。二部屋をぶちぬいたのかと思うくらい畳の大きな部屋は、心愛さんらしい物でいっぱいだった。
「子どもの時から使ってるから、恥ずかしいんだけど」
ベッドは大きい物だったが、学習机や箪笥なんかは当時のままなんだろうな。
「いや。快適そうだ」
「そう?」
どうしたらいいか分からず、俺たちは部屋の中央に立ち尽くしていた。
「ソファとか無くてごめんね。今度買いに行こうかな……」
「ごちゃごちゃするから、このままでいいんじゃないか?」
そう言って、心愛さんの手を取って、自分に引き寄せる。
「うん」
そう言って素直に俺の胸に納まる心愛さんを抱く手に力が入る。優しくしようと思っているのに、どうしても力が入ってしまう。
「心愛……」
好きだとか、付き合おうとか言うべきなんだろうか?だけどそんな、今、言葉にしたら薄っぺらく白々しく聞こえてしまいそうなことを口にしたくない。心が繋がっているのを実感しているから、敢えて言う必要は無いだろう。
「龍二さん、私……」
「龍二でいい」
「うん」
顎を上げてキスをねだる心愛にキスを返して、ひょいっと抱き上げる。
「ひゃっ」
お姫様抱っこってやつをしたまま、ベッドに腰を下ろす。心愛を抱いたまま熱い舌を絡め合った。部屋着のショートパンツから出ている太ももに手を這わせる。
「寒くないか?」
ひんやりしていて冷たい。
「寒くない」
吸いつくようなしっとりした手触りと、気持ちがいい温度に手が勝手に行ったり来たりしてしまう。柔らかくて気持ちがいい内ももを触ると、つい手の平に力が入った。むぎゅっと柔らかい部分を、つい掴んでしまった。
「もう。つままないでよ」
「無理だ。止められない」
心愛の身体を隅々まで撫でまわし、そのすべすべとひんやりとした感触を楽しんだ。心愛も同様に俺の身体中を撫でて、いたるとこ
そんなことか。溜め息をつくように空気を含んだ声で言うから、何事かと思った。
「心配すんな。俺も初心者みたいなもんだ」
お手上げのポーズをしている心愛の両手に俺の両手を重ねる。
唇から始まったキスを少しずつ耳へ、首へとずらしていく。
気持ちよさそうによがる心愛の声が、耳に心地いい。




