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あなたがいい  作者: あおあん


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第32話 カルーアミルク

 母を連れ帰り、ベッドに潜ったのはもう明け方近くて、それからも上手く眠ることができず、朝になってしまった。さすがに疲れ果てていて、今日は病欠を頂くことにする。


「すみません。榊原ですが、本日はお休みさせてください。はい。体調不良です。はい」


 電話に出てくれた教頭先生に伝え、下に降りる。早起きの母も今日は未だ起きてきていない。当然だよね。


 昨日の龍二さんの背中を思い出す。友弥君がタトゥーの仕事をしたいと言っていたのは知っている。だけど、あんな大作を彫れるなんて……才能あるんだな。本当に綺麗だと思った。友弥君の才能と、龍二さんの肌の相性もいいのだと思う。龍二さんは肌が綺麗だ。日に焼けない生活を送られているからだろうけど、真っ白な肌をしている。それに毛深くない。毛穴あるの?ってくらいきめの細かいしっとりとした肌だった。正面を向いた時にも、しっかりと見てしまった。恥ずかしい……


 コーヒーでも淹れよう。


 母が無事で本当に良かった。昨日は走っても走ってもどこにも母がいなくて、パニックになった私はTITANICに駆け込んでしまった。TITANICに母がいるはずないし、龍二さんが母を見かけていないだろうなんてこと分かっていたのに。ただ、一言、大丈夫だよって言って欲しかったのかな。甘ったれた自分に喝を入れる。


「ここちゃん、私にも頂戴」


 コーヒーの匂いに釣られて起きて来たのかな。


「おはよう、お母さん。昨日はよく眠れた?」


 どこまで覚えているのか分からないので、慎重に切り出す。


「いいえ。帰って来てからも何だかドキドキが治まらなくて、あまり眠れなかったわ」

「そう」

「ここちゃん、もう勝手にいなくなったりしちゃだめよ」

「うん。ごめんね」


 母の記憶では、いなくなったのは私で、探して見つけ出したのは母自身ということなんだろう。


「先生はお家に帰れたのかしら?」

「そうね……」


 お礼を言うのも忘れていたことに猛省する。寝てるといけないので、もう少し時間が経ったらメッセージを送ってみよう。


「こんな時にお父さんがいてくれたらねぇ」

「忙しいんだから仕方がないよ」

「まさか!あの人は仕事なんてしていませんよ!」

「どうしたの?」


 母は父が家出をしたことに気付いていない。仕事が忙しいと言えば、いつも納得するのに。


「いつまでも騙されませんよ。仕事なんて嘘。女がいるのよ、愛人が!」


 まさか……知らなかった。


「そうなの?」

「ここちゃんにこんなこと言っても仕方がないけどね、あの人はずっともう一つの家があって、そっちに入り浸って帰ってこなくなっちゃったのよ」

「え……いつから?」

「そんなの、もう、ずっと昔からよ」

「お母さん、平気なの?」

「平気じゃありませんよ。だけど、仕方がないでしょう?私が出て行っても生活できないもの。あなた達のこともあるし」


 自分の鈍感さに呆れた。父が愛人……母はそれを知ってて一緒に暮らしていたなんて……


「離婚しないの?」

「離婚していい事あるかしら?」


 考えさせられる。が、母には無いのかもしれない。




 ***




「ごめん、ごめん、ごめん」


 友弥が土下座をして謝っている。


「いいよ。あんまり他所でやるなよ」


 そう言って、頭をコツンと叩き、椅子に座れと顎で促す。インスタントコーヒーに牛乳を入れて友弥に出す。


「途中まで覚えてんだ。心愛さんが慌てて入ってきて、お母さん探してたんだっけ?」

「ああ。見つかったよ。交番まで迎えに行った」

「そっか。よかったね」

「ああ」


 もう、タエ子さんを一人で置いて行くことは出来ないだろう。これからどうするのかと聞いてみたいが、部外者が立ち入った事を聞いて、嫌われないかと不安になる。


「俺、心愛さんの手伝い出来るかな?」

「手伝い?どんな?」


 友弥は心愛さんにお近づきになりたいだけなんだろうが、手伝いなんて、そんな軽々しく言うもんじゃない。


「えっと。お母さんと留守番とか?」

「学校はどうするんだ?」

「行くよ。けど、毎日あるわけじゃないから……暇な時とか……」

「いい考えだけど、反対だな。お前みたいなタトゥーまみれの奴が出入りしてると分かれば、心愛さんの職場に影響がでるぞ」

「あ、やべ」


 会うたびに素肌が減っていく。友弥はもはや手の甲や、首筋、耳の辺りもタトゥーまみれだ。


「じゃ、父さんが行ってあげてよ」

「はあ?」

「父さんのは服着てりゃあ分からないし、問題ないだろ?」

「タトゥーだけの問題じゃないんだよ」


 そう言いながら、行ってやりたい気持ちになってくる。どうせ昼は寝てるだけで、暇だ。タエ子さんに昼飯を作るくらいなんてことはない。


「な?いい考えだろ?」

「お前はいいのかよ」

「俺?」

「心愛さんと俺を近付けて気にならないのか?」

「ああ……」


 友弥はマグカップの取っ手を握りしめて、静かに言った。


「どうせ敵わないと思ってるんだよ。相手が父さんじゃ、俺に勝ち目はない。別に、勝てない試合だから放棄するとかそう言う情けないことを言ってるんじゃないぞ?ただ、戦う気が失せるって言うか……」




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