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あなたがいい  作者: あおあん


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第28話 カルーアミルク

「今日も暑いね」


 洗濯ものを干しながら、庭でお母さんの足をたらいで水に漬ける。


「ここちゃん、先生、次はいつ来るの?」

「しばらくは来ないわよ。先生は忙しいんだから」

「そうよね。でも、私、先生に診てもらいたいのよ」

「どこが悪いの?」

「それはね……先生が来たらお話するわ」


 まったく、龍二さんの人心掌握術は最強ね。お母さんに負けず劣らず、私だって龍二さんに会いたい。だけど、問題が多い家族を抱えた、一顧客の私なんかが付き纏ったら迷惑なのは分かっている。


「お母さん、幸太郎のこと覚えてる?」

「ええ、ここちゃんの旦那さんね」


 あ、今日は覚えてるんだ。記憶がまだらになってきていて、話が通じる時と通じない時が半々くらいになってきている。


「喧嘩したの。別れようかと思うんだけど……」


 思い切って言ってみた。


「そうなの?夫婦なんて喧嘩してなんぼよ。さっさと仲直りしちゃいなさい」

「でも……なんか、あまり好きって思えなくて、一緒に居たいと思わないの」

「当たり前よ。そう思えて、ようやく本物の夫婦になったって言えるのよ」

「お母さんもそうだったの?」

「もちろんよ」


 お父さんの我儘に長年付き添ってきたお母さんの事だから、ひょっとしたらこんなような事を言われる気はしてたけど、やっぱりショック。


「全然優しくないの、自分の事ばっかりで、私のことは家政婦とでも思ってるみたい」

「どこも同じよ。私もそう」


 だよね。今のは言いながら墓穴掘ってる感あったわ……


「ところで、ここちゃん、お父さんはどこ?」

「お仕事だよ」


 出て行ったきり、何年も帰ってきてないなんて言えない。喧嘩して、一緒に居たくないって思いながらも家政婦のような扱いに耐えてきた母……この人を捨てた父を憎くて許せない。だけどそんな私の思いは、たとえすぐに忘れちゃうのだとしても、母には絶対に言わない。


 もうすぐ夏休みが明ける。

 2学期からはバレー部の顧問も務めるし、生徒の進路相談も本格的になってくる。仕事に集中する為にも、幸太郎との事は手を打ちたいと思っている。


 昼寝をしている母を眺めながら、弟に電話してみた。出てくれるかな……


『姉ちゃん、なあに?』

「あ、今、忙しい?少し話せない?」

『いいけど、金の話ならしないよ』

「じゃなくて……」

『……?なんだよ』

「あの、さ、離婚の手続きって大変なの?」


 弟はバツイチだ。お金が無いのは慰謝料と養育費の支払いが大変だからだ。


『別れんの?』

「うん」

『どっちが原因?』

「別居が長くて、自然とって感じだけど、幸太郎が浮気してる」

『へぇー、じゃ、ガッツリ金もらって別れられるんじゃない?』

「そうなの?」

『浮気認めてんの?証拠ある?』

「その辺は曖昧で……別にお金は要らないから、ローン組んだマンションとか処分したいんだけど」

『なるほどねぇ。弁護士入れるんだな』

「弁護士?!そんな!大袈裟じゃない?」

『相手と直接話さなくて済むし、金の話もきっちり片付けた方が後々いいと思うぜ』

「そっか。教えてくれてありがとう」

『この電話切ったら、紹介してやるよ。俺の弁護士はポンコツでえらい目にあったけど、あいつの弁護士が優秀でさ、姉ちゃんには元嫁の弁護士が良いと思う』


 電話を切ったら、早速名刺の写真が送られてきた。

 弟にも悪いところはあったのだろうけど、離婚に際し、有利な条件を引き出した優秀な弁護士さんを知ることが出来てよかった。




 ***




 日曜の夜、友弥が店に来た。


「終わったら一緒に来れる?」

「タトゥーか?」

「ああ、明日で完成させたい」

「分かった」


 扉が開くたびに振り返っているのが可笑しい。


「心愛さんなら来ないと思うよ」

「何でだよ?」

「優子に出禁にされた」

「んだとっ!なんで、あのババアが出てくんだよ」


 口が悪いが、咎める気になれない。


「この店を買い取ったんだそうだ」

「はぁ?くっそ、なに考えてんだよ!」

「この前、帰った心愛さんを追いかけて、わざわざそう言ったらしい」

「ふざけんなよっ!」


 俺が爆発しきれなかった怒りを友弥が代行してくれたようで、胸がすかっとする。


「で、心愛さんはなんて?」

「あまり気にしてないようだが……」


 少し距離を置いた方がいいと思い始めている。もともと、彼女のような女性には無縁な世界かも知れない。これ以上、深く関わると傷付けてしまうような気がしている。


「俺、メールしてみる」

「やめとけ」


 友弥がきょとんとしている。


「心愛さんも大変そうなんだ。しばらく連絡は取らない方がいい」

「そうなのか?」


 友弥が振り返って中田君を見た。


「はい。僕もちょっと、そう思います……」


 先日、心愛さんの涙を見た後だけに、中田君はよく分かっている。


「中田君がそう言うなら、我慢するよ」


 友弥が携帯を放りだした。


「それにしても、あのババア、何でそんな金持ってんの?」

「さあね」

「父さん、あいつの下で働き続けんの?」

「ないな」


 まっぴらごめんだ。だが、次の就職先が見つかるまでは辞められそうにない。




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