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8 学院生活が始まる

 ノアは男子生徒たちがパンツを盗む瞬間を、遠くから偶然、目撃していたらしい。

 彼らは先生にコッテリ絞られたようだ。


 初日から波乱万丈だったが、クソガキパンツ盗難事件は無事に一件落着。

 それから一夜明けて。

 朝のホームルーム前に、わたしは自分の席で特大のため息をついていた。


「はぁ〜〜〜〜」


 今後の学院生活の身の振り方を考える前に、とんだ災難に巻き込まれてしまった。

 男の子たちと、どうやったら友達になれるのか、作戦を練る暇もなかった。


 とにかく、今日から授業が始まるわけだし、これでようやく、スタートラインだ。


「朝から辛気臭いため息、やめてくれる?」

 後から登校してきたマークが、スクールバッグを机に置きながら、わたしを睨みつける。

「はいはい、すみませんね、こっちは色々疲れてんのよ」

「疲れる? 体力なさすぎじゃない? 老化?」


 ……一番クリティカルな悪口だわ、それは。

 悔しいが言い返せない。

 体力ないのも持病があるから事実だし、老化も事実だ。


「……おい」

 マークの悪口に撃沈していたら、今度はまた不機嫌な声が降ってきた。

 わざわざわたしの席まで、クソガキがやって来ていた。


「なによ」


 失礼な話しかけ方に、わたしも強い眼力で対応する。

 昨日はわたしに何か隠し事があるって疑われたところで、話が終わったんだった。

 それを蒸し返しに来たのだろうか。


 それとも、パンツを取り返してあげたお礼かしら?

 非礼を詫びにきたとか?


 クソガキの殊勝な態度を想像して、彼の二の句を待ったが、

「俺はまだお前を認めていない」

 クソガキの上から目線な態度は、まったく改められる気配はなかった。


「はぁ」

 いつわたしがあなたに認められたがったのでしょうか?


「いつか、お前が隠しているものを暴いてやる!」

 クソガキは人差し指をわたしの鼻先に突きつけて、そう宣言した。


 用は済んだとばかりに、彼は背を向けて自席に戻って行く。

 ぽかんとしたまま、わたしはその後ろ姿を見送ることしかできなかった。


 何しに来たのよ、あいつ……。


「アンちゃん、聞いたよ〜! あのとき、アンちゃんが、デリックくんのパンツを取り返してあげたんだって〜?」


 あまり大声で広めてほしくない内容を口にしながら、クソガキと入れ替わるように、賑やかなノアがやってきた。

 わたしの席の前で足を止めて、にこりと微笑む。


「アンちゃんって、男兄弟とかいるの?」

「え? いないわ、一人っ子よ」

「へぇ〜! じゃあ、すごいね!」

「な、何が……?」


 唐突なノアの質問に、しどろもどろになってしまう。

 ノアの意図がつかめない。


「同級生の男の下着を触るのに、躊躇いとかないの?」


 ぎくりとした。

 確かに、二十三歳の女の子なら同級生のパンツを手に取るのは、少し気恥ずかしいかもしれない。

 旦那のパンツですら何回も畳んでいる三十歳のわたしからすれば、七個も年下の子の下着を触るのに、躊躇いなんかあるわけない。

 確かにそれは、クラスメイトの女がすることではなかった。


「え、えぇ……、まぁね」

「ふ〜ん」


 たまたま男の下着がどうとか気にしないタイプの女なんだ、というふうを装ったが、彼はわたしの耳元に口を寄せてきて、

「まさか、年上じゃあるまいし」

 と、ささやいた。


 わたしはささやかれた耳を手で押さえ、びっくりしたまま彼を見上げる。

 ノアは笑顔を崩さないまま、

「ボク、年上のお姉さんって好きだな〜」

 あざとく、人差し指を口元に当てた。


 ……この子、どこまで分かってるの?


「ちょっと、アンさんに近すぎませんか?」

 いつの間に来ていたのか、ベリベリと、コリンがわたしからノアを引き剥がす。


「え〜ちょっとくらい、いいじゃん。ていうか、二人って入学式から仲良しだよね〜」

 ノアの瞳が探るように、わたしとコリンを見比べる。

「そ、そう! たまたま登校中に気があって! ね! コリン!」

「そ、そうですね! 仲良しです!」

 ぎゅ、とコリンと手を繋いで仲良しアピールをしても、ノアは「ふ〜ん?」と言って詰めてくる。


「お前らー、ルノウ先生が来てやったぞー」

 担任教師の登場で、ようやくノアは自席に戻った。


 な、なんとか助かった……。


 ──かくして、学院生活が幕を開けたのだった。

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